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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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072.夜更けの来訪者

 さて、フローラとちょっぴり……いや、そこそこえっちな事があったあとも、食事はつつがなく進んだ。

 地下アイドルのステージのようなものも終盤に入り、観客達も一体になって賑わっている。

 そんな頃、食事中はどこかしらに行っていた艶姫さんが、再びオレ達の元へとやってきた。


「どうや、食事は口におうとるか?」

「ええ、凄く美味しいです」


 実際、懐石料理と言ってもよさそうな和風の食事は、日本出身のオレにもたいへん口に合う。

 最近はとんと食べる機会もなかった刺身なんかも食べられて、かなり満足した。

 お米も大陸の米と違って、水分が多く、もちもちした食感は、故郷の味に良く似ていた。

 仲間達も特に好き嫌いすることなく、初めて食べる料理を思うさま楽しんでいる様子だ。


「ところで明日の事やねんけどな、前言っとったやろ。うちが個人的に所有しとるプライベートビーチを紹介しよかと思うとるんやけど」

「プライベートビーチ……ですって」


 ビーチ、つまり砂浜、つまり海、つまり水着だ。

 来ましたよ、お約束の水着回。

 仲間達とキャッキャウフフの水着でのバカンス。くぅううう、最高じゃないの。


「ここからクルーザーですぐのところにあるんや。無人島の一角やから、好きなように遊べる最高のスポットやで。ペンションもあるから、一泊するのも良きやし」

「それは願ってもない……でも……」


 オレ達が東冒険者組合へやってきたのは、こちらの冒険者達の生活なんかを知るためだ。

 それなのに、まだ、組合の本部すら紹介してもらっておらず、迷宮に関する話すらしていない。

 本当にこれでよいのだろうか。


「ははっ、ディグはん真面目やなぁ。ええやんええやん。西ではほとんどずーっと迷宮の攻略しとったんやろ。ちょっとは休まないと、身体保たへんで」

「それはそうかもですが……」

「それに、お仲間さん達の水着姿……見とうないの?」

「見たいです」


 うん、見たい。素直に見たい。


「ほな、やっぱり行こう。冒険はその後からでも、十分や」

「そうですね。そうさせてもらいます」


 まあ、確かにウエスタリアではボロボロになりながらも頑張ったもんな。

 たまにはちょっとくらいのんびりさせてもらっても良いだろう。


「みんなもいいか?」


 フローラ達も、こくりと頷いてくれた。

 そんな話をしていると、アイドル達のステージが終わり、天幕の裏へと皆、帰っていく。

 BGMも止まり、落ち着いた雰囲気が場を支配した。


「さあ、次はいよいよあの娘の出番やで」

「あの娘……?」


 再びの暗転、するとステージの上には、一人の少女が立っていた。

 そう、オレ達をここまで案内してくれたあの狐仮面の女の子──コルリだ。

 先ほどまでの着ていた衣装とはまた違い、豪奢な刺繍の施された漢服のようなものを身に纏っている。

 スポットライトに照らされた彼女は、それぞれの手に持った両刃の剣を構えた。

 一瞬の静寂。

 お正月の神社で流れているような、管楽器の厳かなメロディーに乗って、彼女が両の剣を振るう。

 その動きは緩やかであり、それでいて時に鋭く、まさに、剣舞というにふさわしい。

 一つ一つの所作の美しさ、型の正確さ、そして、何よりも仮面越しにも伝わってくるその可憐さに、グッと魅入ってしまう。


「どや、凄いやろ」

「ええ……」


 艶姫さんの言葉にも生返事になってしまう。

 それほどに、彼女の一挙手一投足から目が離せない。

 素人のオレでもわかる。彼女の動きからは長年の研鑽が感じられる。

 おそらくだが、彼女は演舞ではなく、普通に戦っても相当に強い。

 最初に出会った頃、巨漢の首筋に剣を当てた動きからも、凄腕であるのは予想していたが、まさか、ここまでとは……。


「そうか、あの娘がお気に入りか……。せやったら」


 にしし、と笑う艶姫さんの声が聞こえた気がしたが、オレは彼女がその動きを止め、天幕に戻っていくまで、その姿を目に焼き付け続けた。




 食事を終えると、オレ達には楼閣内にそれぞれ部屋があてがわれた。

 なんと全員個室だ。

 ドーンの下宿先やウエスタリアの宿なんかでは、オレとアンシィ、フローラとシトリンとそれぞれ2人部屋で過ごすことが当たり前だったので、夜を一人で過ごすというのは、何気にかなり久しぶりだった。

 高級ホテルの一室のような、天蓋付きの豪奢なベッドに横になる。

 ふぅ、アンシィといるのが当たり前になってしまったせいか、一人でいるというのもなんだか落ち着かない。

 いや、気分が昂っている理由はほかにもあった。

 飯を食っている時は、フローラとのことや演舞のことですっかり忘れてしまっていたが、ここは遊郭なのだ。

 つまりは、今もこの建物のどこかでは、おそらくそういった行為が行われているわけで、それを考えるとどうにもそわそわとしてしまう。

 考えても見ろ。オレはまだ年齢的には高校生なのだ。言うまでもなく童貞だ。

 童貞がいきなりラブホに放り込まれたら、冷静でいられないのもわかるだろう。


「それに……」


 さらにもやもやとさせるのは、あの艶姫さんの言葉だ。

 

『今夜はその子とお愉しみや』


 ストレートに文意を読み取るとすれば、「夜のご奉仕は君のお気に入りの娘にさせるからね♪」となるわけだが、もしかして、本気でこの部屋にこれから誰かやってくるのだろうか。

いや、その子ってどの子ぉおおお!?

 センターやっていた少しお姉さんな美人系の娘だろうか。はたまたそのサイドにいた、小顔の小悪魔系の娘だろうか。

 みんな可愛かったから、どの娘でも構わないと思っていたけど、いざ、そういうことになると思うと、めっちゃ考えてしまう。

 最悪チェンジとかもできるのかな……。

 なにせ、オレのマイグラジュエーションをお願いすることになるわけだし、できるだけ好みの娘の方が──


 トントントン。


 控えめなノックの音。

 うおっ、マジで来たぁあああああ!?

 え、どうすんの、これ。

 本気でそういう行為致しちゃうわけですか!?

 ちょっと待って、これノクターン行きにならない? 大丈夫なの!?

 動揺するオレの心とは裏腹に、特に鍵もかけていなかった扉が、ゆっくりと開かれた。

 入ってきたのは、オレと同世代くらいの青みを帯びた長い黒髪の少女だった。

 艶姫さんと同様、可愛いと美しいが同居した絶妙な美人。ただ、艶姫さんと比較すると少し可愛いの比率の方が高いだろうか。

 小づくりな鼻や口の造形は、可憐という言葉がふさわしい。少し眠そうな瞳も魅力的だ。

 異様なほどに白い肌は、化粧だろうか。元の顔立ちの美しさがあるので、少しやりすぎにも感じるが、同時にどこか神秘性を感じもする。


「君は……」


 一瞬、あのアイドル達の中に、こんな娘いただろうか、と頭をひねったが、すぐに気づいたことがあった。

 そう、彼女の長い髪のサイドから突き出る狐の耳と、おしりからひょっこりと顔をのぞかせるもふもふのしっぽに。


「も、もしかして……」


 その特徴は明らかにコルリだった。

 さきほどは見事な剣舞で度肝を抜かせてくれたが、今度は、まさか容姿の方で度肝を抜かされるとは……。

 雰囲気から美少女だとは思っていたが、実際に素顔が明らかになると、予想を上回る可憐さに驚いてしまう。


「コルリちゃん……あの、その……」


 オレの動揺を知ってか知らずが、彼女は一歩一歩オレが腰掛けるベッドへと近づいてくる。

 今彼女が着ている服は、また、あの演舞の時の衣装とは違う。セクシーなチャイナドレスだ。

 胸元が大きく露出し、スリットからは大胆にふとももが露わになっている。

 スレンダーな体型ではあるが、痩せすぎということはなく、ほどよく女性的な体つきをしているのが、なんとも絶妙なバランスで美しい。

 驚くほど白い肌も相まって、とにかく扇情的だ。あー、頭がくらくらする。

 コルリは、ゆらりとオレの横に腰掛けた。

 2人分の体重に、ベッドがわずかにギシィと音を立てる。


「えーと……」


 彼女は、オレの方は見ず、無表情のまま正面を見つめている。

 こちらを見ていないので、かえって彼女の横顔をオレはマジマジと眺めてしまう。

 Eラインというのだったか。鼻から顎にかけてのラインがとにかく美しい。

 横からだとまつ毛の長さも良くわかる。もふもふの狐耳もこうやって見るとキュートだ。

 あー、ダメだ。心臓がバクバクしてきた。

 と、突然彼女がこちらへと顔を向けた。

 横顔を眺めていたオレとばっちり目が合う。

 うわぁ……くっそ可愛いんだけど……。

 横から見た顔にも得難い魅力を感じたが、正面の破壊力はまた格別だ。

 少しだけ上目遣いな角度なこともあって、少しトロンとした目元にどことなくエロスを感じてしまう。


「…………する?」


 何をですかぁあああああああ!?


「いや、えーと……」


 ちょっと待ってくれ!

 こんなめちゃくちゃに可愛い子でマイグラジュエーションできるの!?

 えっ、オレ明日死なない!?

 完全に気が童貞……じゃない動転しているオレの目の間で、彼女は、眠そうな目をしながらも、オレを上目遣いに見つめている。


「…………はい」

「わかった」


 オレの返事を聞いて、彼女はコクリと頷いた。

 拝啓、お父様、お母様……オレ、今日、大人になります。

 ゆっくり……ゆっくりと、だ。

 彼女の右手がオレのふとももに触れる。

 吐息さえ感じほどの距離、どこかうるんだ瞳。

 彼女の一挙手一投足が蠱惑的。

 艶のある髪のひとふさが、オレの肩に触れた。

 細い身体がオレを押し倒すように近づき、そうしてそのまま彼女の手がオレの──

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