表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第1章 アタシにホレないモノはなし!
7/156

007.オレの相棒はスコップ

 蜘蛛の数は12体だ。

 個体差はあまり感じられず、どれも同じくらいの大きさ、同じくらいの速さで迫ってくる。

 攻撃方法は口から吐き出す鋼のように強い糸。

 弾丸のように丸めて飛ばすこともできるし、長い糸として、相手を絡み取ることもできる。

 さて、そんな凶悪な攻撃手段を持った奴らに対して、オレの武器? はといえば、携えたスコップ一本。

 うん、まともにやり合えるはずがない。

 だから、スキルを使う。


「落とし穴設置!!」


 スコップ技能LV12で獲得したアクティブスキル<落とし穴設置>を発動する。

 効果は名前そのまま、自身の掘った穴をカモフラージュし、落とし穴として機能させることができる。

 スキル発動とともに、オレが、これまで掘ってきた100以上の穴全てに落とし穴が設置される。

 落とし穴にまったく気づくそぶりのない蜘蛛達は、一匹の例外もなく、全てがどこかしらの落とし穴へと落ちた。

 ちょうど身体の大きさにジャストフィットしてくれたようで、やつらはジタバタともがくだけで、なかなか穴の外に這い出せない。

 すかさず追い打ちをかける。


「スコップモード<(フラット)>!!」


 オレの指示で、スコップさんの形状が、刃の尖った剣先スコップから、幅の広い角スコップへと変形する。

 そして──


穴埋め(フィルアップ)!!」


 レベル14で取得。角スコップの刃の面積を活かした高速穴埋めスキルだ。

 ジタバタともがく蜘蛛どもの上に土をかけて埋めていく。

 いわゆる生き埋め状態。合計すれば数トンにもなる土をかぶせられて、さすがに蜘蛛共もすぐには身動きが取れない。

 順調に埋められるかと思いきや、半分を埋めたところで、残り半分の穴に落ちたやつらが徐々に這い出してきた。


「やばいわよ!」

「うえっ!?」


 オレを明確な敵と認識した六体が、一斉に球状の糸をオレに向けて吐き出した。


「くっ、緊急回避穴エマージェンシーホール!!」


 オレは自分の足元に高速で穴を掘り、そこに身を滑らせる。

 少し前まで自分の身体があった場所を蜘蛛達の弾糸が通りすぎてく。

 レベル20で取得した緊急回避技。上手く決まってくれて助かった。

 追撃を受けないようすぐさま穴から這い出す。

 姿を現した自分を蹴散らそうと、こちらに移動してこようとした蜘蛛のうち3体が再び別の落とし穴へと落ちた。

 同じ罠にハマってくれるとはラッキー。こいつら知能はさほど高くない。

 穴へとハマりジタバタしている仲間を見て、残りの3体は少しは学習したのか、警戒しながら、ゆっくりとこちらへ歩を進める。

 早く親ドラゴンが戻ってくるのを願う。だいぶ数は減らせたが、正直、もう足止めの策があまり残されていない。

 今度はやつらが3体揃って、糸を吐く。暗黒騎士に止めを刺した、強靭な強さを持った糸だ。

 あれに絡まれたら、オレの身体なんて3秒も保たない。

 緊急回避穴エマージェンシーホールでは、穴ごと粘性の糸で蓋をされてしまう。ならば。


「土壁!!」


 レベル18で獲得した防御技、土壁を発動。

 畳返しのように、足元の地面にスコップを突き刺し、引き上げ、簡易的な盾にするスキルだ。

 その場の地面の質にも左右される技だが、粘性の糸は、あの貫通力の高い弾糸に比べれば、単純な物理攻撃力という点ではたいしたことない。

 そのまま壁にはじき返された。


「よしっ!」


 いける! と思った次の瞬間──


「危ないっ!!」

「うわっ!?」


 糸が効かないと判断した蜘蛛達が体当たりで土壁を破壊して、オレに迫る。

 近くで見ると、いっそう大きい。

 スピードも速い。


「スコップモード〈剣〉(スペード)!」


 最も攻撃性能に優れた(スペード)モードに切り替え、オレは蜘蛛に対峙した。

 だが……。


「かはっ……!?」


 足の一振りで、数メートル吹き飛ばされる。


「ちょっと、大丈夫……!?」

「げほっ…げほっ……だ…おえっ……」


 大丈夫と、答えようとした途端、胃の中の物が逆流した。

 地面に突っ伏し、吐瀉物をまき散らす。

 ダメだ。距離があった時は、やりようもあったけど、直接やり合うのは無謀すぎる。レベルが……違いすぎる。

 

「もう逃げましょう! 相手も随分数を減らしたし、スキルを上手く使えば今からでも逃げられる! このままじゃあんた死ぬわよ!」

「じゃあ、スコップさんだけでも逃げてくれ」


 今のスコップさんは、多少であれば、自分の意思で動ける。スコップさんだけなら、あるいは奴らをやり過ごせるかもしれない。


「そんなことできるわけ……あっ!?」


 オレに迫る3体の後ろから、落とし穴に落ちていた3体が這い出してきた。

 さらに、さっきオレが穴埋めスキルで埋めた6体も土を振り払って、戦線に復帰する。

 計12体、結局最初と同じ状況になってしまった。

 しかも、もはや奴らとの距離はそれほどない。すぐ後ろには安置された5つの卵。

 一歩も引くことは許されない。


「スコップさん、ごめん」

「謝るな!」


 オレの両の手に抱かれたスコップさんが震える。


「約束したんだからね!! 魔王を倒して、アタシを元の畑に戻してくれるって!!」


 ああ、そうだったな。


「だから……絶対、死ぬんじゃないわよ!!」

「ああ……!」


 オレは立ち上がり、蜘蛛共に再び対峙する。

 希望がないわけじゃない。

 親ドラゴンが餌を探しに行って、すでに数十分が過ぎている。

 こちらの異常に気付き、そろそろ戻ってきてもおかしくない。

 あと、わずか。あと、わずかだけ時間を稼げればいい。

 

「砂かけ!!」


 レベル3で覚えたスキル、砂かけを発動。

 掘った地面の土をそのまま敵にぶちかけるスキルというのもおこがましいほどの幼稚な攻撃。

 だが、とにかく物量で攻める。

 オレは全力でスコップを振るい、奴らに土をぶちまける。

 視界が埋まるほど大量の土に、さすがの蜘蛛達も一瞬、硬直する。

 だが、奴らの数は12体。

 何匹かが左右から回り込むように、オレへと近づき、そして、蜘蛛の糸を吐きだした。


「くっ、土か──」


 スキルを発動しようとするが、ダメだ。間に合わない……!!

 オレとスコップさんは、やつらの糸に絡み取られる。

 ああ、これはさすがに終わった。

 このまま糸がきつく締まれば、オレの身体はバラバラだ。

 まさか、転生3日目で再び命を落とすことになるとはなぁ……。

 願わくば、1つでも、ドラゴンの卵が生き残ってくれることを──。


 グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 唸り声がした。


「ドラゴン……!!」


 わずかに開けた視界から、急降下してくるドラゴンの姿が見える。

 次の瞬間炎熱のブレスが炸裂し、オレを糸で絡めとっていた4体の蜘蛛が一瞬にして蒸発した。

 オレの身体の自由を奪っていた糸も灰となって宙に溶ける。

 た、助かったぁ……。

 それにしても強い。規格外の強さだ。

 ドラゴンが現れた瞬間、残った8体は一目散に逃げ出した。

 しかし、それを逃がすドラゴンではなかった。

 再び、口内に光が集中したと思えば、今度はブレスではなく、赤熱する巨大な光弾を発射した。

 地面を削り取りながら、紅い光の奔流は、残った蜘蛛達をその存在ごと消し去った。

 ほんの瞬きの間の出来事、あまりのドラゴンの強さに愕然とする。


「す、凄ぇ……」


 やっぱこのドラゴン、何か伝説級のドラゴンじゃないか……?

 外敵を蹴散らしたドラゴンはゆっくりと巣に降下してくる。

 ドラゴンと目が合った。


「グォオオオッ!」

「うわっ!」


 雄たけびを上げるドラゴン。

 オレを威圧しているわけじゃなく、どうやら感謝の意を表しているらしい。

 あれ、こいつオレの事を子どもと思っていたんじゃ……。

 と、それからいくつかのことが矢継ぎ早に起こった。


 ピシィ……バリィイイン!!


「あっ……」


 卵に大きな亀裂が入ったかと思うと、中から叩き割られるように殻が砕け散った。


「クォオオッ!!」


 ドラゴンの雛だ。でかい。生まれたてにして、オレの2倍くらいでかい。

 驚いたのもつかの間。一匹が生まれた途端、連鎖反応的に他の卵にも亀裂が生まれ、4つの卵が一気に砕け散った。


『クォオオオオッ!!』


 五匹の雛の大合奏だ。

 あまりの音圧に耳を塞ぐ。

 生まれたてなのに元気なことこの上ない。


「ははっ…!」


 元気に生まれた雛の姿を見て、身体を張って良かったと心から思える。


「ぐすっ……良かったわね……!」


 それはスコップさんも同じなようで、無事に生まれたことを心から喜んでくれているようだ。

 オレはスコップさんへと笑顔を向けた。

 と、その時だった。


『スコップ技能がLV30に上がりました』


 脳内にアナウンスが響き渡る。

 あ、今の戦闘での穴掘りで、どうやらスキルレベルが上がったようだ。


『擬人化能力を獲得しました。能力を適応しますか?』


 ん、擬人化能力?

 よくわからないが、とりあえずイエス。


「えっ、ちょっと……!?」


 その瞬間、スコップさんが光を放ち出した。

 いつものスコップモードの変更にも似ているが、より強い光。

 あまりの光の強さに手を放すと、やがて光の中のシルエットが、大きく変化していく。

 足が、手が、そして、頭がそれぞれ形作られると、光は空に溶けるように霧散した。

 そして……。


「えっ……!?」


 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 年齢はオレと同じくらいだろうか。

 明るい炎のような緋色の髪と同じく燃える瞳を持つ少女。


「スコップさん……?」

「どうやらスキルレベルが上がって、人間に化けられるようになったみたい」


 人間にも化けられるって、もはやスコップの範疇越えてるよ……。

 スコップさんは橙色のサーキュラースカートの裾をフワリと揺らして、オレへと近づいた。


「ねえ、アタシってかわいい?」

「えっ……!?」


 いや、正直、めっちゃ美少女ですが。

 スタイルも抜群だし、鼻筋の整った顔立ちなんかはどことなく美紅に似てる。

 あと、ファンタジー世界だからか、肩とかお腹とか結構露出があって、若干目に毒です。はい。


「どんな見た目なのかしら。鏡があればなぁ」 

「グォオオオッ」


 と、オレとスコップさんがそんなやりとりをしていると、子どもの誕生を喜んでいた親ドラゴンが近づいてきた。

 もしかして、突然現れた人間=スコップさんを敵と判断したのか。

 一瞬、身構えようとしたが、その考えはどうやら懸念だった。

 ドラゴンはオレたちのそばで首をもたげた。


「えーと……」

「乗れ、って言ってるみたいね」


 スコップさんと頷き合うオレ。

 ほんの一瞬の逡巡の後、オレは、ドラゴンに促されるようにその背に乗った。同じくスコップさんも背に乗る。


「わわっ!」


 瞬間ドラゴンが羽ばたいた。

 重力に逆らう感覚。

 オレは慌てて、鱗に精いっぱいしがみつく。

 スコップさんはそんなオレにしがみつく。あ、当たってるよ……!

 まるで、ジェットコースターのように、周りの風景が一瞬にして流れていく。


「ははっ! すごい!」


 灼熱のマグマ地帯を飛び越え、遥か上空に見える大地の切れ目へ、昇る。昇る。

 やがて、オレ達は迷宮を突破して、光の中へと飛び出した。


「うわぁ……!!」


 そこはまさに、思い描いていたファンタジーの世界だった。

 黒土の大地の先に広がるどこまでも鬱蒼と茂る大森林と峻厳な山々。

 透き通る大水を湛える大瀑布に、そこにかかる美しい虹の橋。

 さらに遥か遠くには、空中に浮かぶ巨大な島まで見える。

 あまりに美しい景色にオレの胸が高鳴った。


「悪くないわね」


 スコップさんも興奮を隠しきれないようだ。

 これから、オレ達はこの世界で冒険するのか……。

 ギュッと右手に持ったスコップさんに力を籠める。

 今はまだ弱いけど、きっとこの世界の誰よりも強くなって、魔王を倒す。

 そして、いつかスコップさんを元の世界に返してあげるのだ。


「あー、そうだ。せっかく転生したんだし、新しい名前が欲しいな」


 堀川亮介という名前は異世界で名乗るには少し長い気がする。

 せっかく自分の事を誰も知らない世界に来たのだから、何かしらファンタジーっぽい新しい名前が欲しいところだ。


「私も名前が欲しいわ。いつまでも"スコップさん"じゃ、味気ないもの」


 確かに、スコップは固有名詞じゃないもんな。人に向かって、人間さんって言ってるようなものだ。


「ねえ、どうせなら、お互いの名前を考え合いっこしない?」

「面白そうだな。乗った」


 スコップさんの名前か。

 んー、見た目の印象だと、スカーレットとかヴァーミリオンとかだろうか。

 ちょっと長いかなぁ。

 美少女だけど、性格はサバサバして美紅みたいだし、名前ももう少し短くて、通りの良いものがいいな。

 確か、スコップって、日本語で言うと円匙(えんし)って言うんだっけ。

 ネットでスコッパーやってたときに、なんとなしに調べたことがある。

 えんし、えんしー、えんしぃ、あんしぃ──


「アンシィ……」

「んっ?」

「アンシィなんて、どう?」

「悪くないわね!」


 スコップさん、もとい、アンシィは、初めての名前にご満悦だ。


「あんたは、そうね……掘るをそのまま英語にして"ディグ"、なんてどうかしら?」

「ディグ……か」


 なかなか悪くない。

 いや、むしろかなり良い!


「これから宜しく、アンシィ」

「こちらこそよ、ディグ」


 どこまでも透き通った青空のど真ん中、ドラゴンの背に乗り、オレとアンシィはガシッと握手を交わす。

 ディグになったオレと、アンシィになったスコップ、二人の冒険が今幕を開けた──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ