069.タコパ
「いやぁ、やっぱり冒険者って凄いんだなぁ……!!」
オレ達パーティと巨大ダコとのバトルを遠巻きに眺めていたブルートが目を輝かせながら言った。
「金髪の子は凄い魔法をバンバン飛ばすし、回復術士の子の拘束魔法も凄かった! それになんといっても、あの紫の髪の女の子!! 女の子なのに、あんな大きな大剣を振るって、タコをやっつけちゃうなんて普通じゃないよ!! 本当に格好良かった!! ディグ君は…………凄い黒かったね!」
「あ、いや、無理やり褒めようとしてくれなくていいから」
今回、正直、オレは全く活躍できていなかった。
考えてみれば、一撃も攻撃すらしていない。
それどころか掴まるわ。落下するわ。たこ墨で真っ黒にされるわ。
もはや、ダメダメのオンパレード過ぎて、自分を取り繕う気にすらならない。
活躍できなかったからか、いつもは能天気なアンシィもどこかムスッとしている。
「いや、でも、僕の国でよく出現する魔物、マツザッキーもびっくりの黒さだったよ」
「だから、無理やり……もう、それでいいよ」
がっくりと肩を落とす。
それにしても、不調の発端となったあの声は何だったんだろう。
あれのせいで、身体が一瞬硬直してしまったのが、そもそもの原因なのだ。
幻聴にしては、妙にはっきりと聞こえたし、聞き間違いということはないとは思うんだけど……。
「それにしても、このタコどうしましょうか」
フローラが見つめる先には、完全にばたんきゅーした巨大ダコの8本のちぎれた足と胴体が甲板の上に横たわっている。
「そうだったわ! たこ焼き!! たこ焼きをしなくちゃ!!」
ムスッとしていたアンシィが、食欲につられて、ようやく気を持ち直した。
「ディグ!!」
「ああ、わかったよ」
アンシィのご希望とあらば、やらねばなるまい。
とはいえ、いくらスコップを巧みに使おうが、たこ焼きにはたこ焼き器──つまり半円をくりぬいた鉄板が必要になるわけだが、さすがに都合よくそんなものは……。
「それ……」
「えっ?」
見つけたのは、ブルートの荷物だった。
さっきのごたごたで床にぶちまけられた風呂敷包みの結び目がほどけ、まるでたこ焼き器のように半円状の穴がいくつも開いた金型のようなものが顔をのぞかせている。
「あ、これかい? お世話になる工房に、自分の製作物をひとつ持ってくるように言われていてね。自動で球状の投擲物を作るためのカラクリを作ってみたんだ。完璧な半円を作るのに結構苦労したんだけど、なかなか良い出来だろ」
「これ、ちょっと貸してくれないか……?」
「え、でも、これ工房に提出するものだから……」
「オレ達、友達だろ?」
「あ、そ、そうだね!! 友達だもんね! わかった、いいよ!!」
友情を盾にお願いしてみたら、すんなり貸してくれた。
ブルートも扱い方はアンシィに似てるな。
「んじゃ、鉄板も手に入ったことだし、今回もスコップ料理といきますか」
というわけで、今日も今日とてスコップ料理だ。
生地は以前お好み焼きを作った時のレシピを代用。山芋も入ったもちもちした食感のものを作る。混ぜるのはフローラだ。
タコの切り出しは風の刃を使ってシトリンが行う。
アルマはシトリンがある程度の大きさに切った蛸足を包丁で一口サイズにさらに細かく切っていく。
アンシィは自身の刃の上に、鉄板をセッティングし、炎帝の加護でじっくりと温める。
その間にオレはソース作りだ。以前お好み焼きを作った時は、街で購入した既製品を使ったが、今回は、それに少し手を加えてみる。
タコ焼きに合う、甘口のソースを作るために、レフォレス村でもらったはちみつを加える。
さらに深みを出すために、港で購入しておいた魚醤を加えると……うん、なかなかイメージしていた通りの味だ。悪くない。
それぞれの材料の準備が終わった時点で、いよいよ焼きに入る。
普通のたこ焼き用鉄板よりは、少し大きめの半円に、生地を流し込んでいく。
この世界では斬新な手法なのか、いつの間にかオレが調理している周りには、多くの乗客たちが集まってきていた。
たこ焼きづくりは一種のパフォーマンスでもある。
オレは、両手で2本の千枚通しを握りしめると、鉛筆回しのように指の間で回転させながら、構えた。
「ほな行くで!」
ある程度、火の通ったものから、ひっくり返していく。
焼き色のついたきれいな半円が出てくると、乗客たちから歓声が上がった。
たこ焼きづくりに関してはオレはなかなかのものだと自負している。
家族や美紅達とのタコパで、千枚通しを握るのはいつもオレだったからな。
次々と生地をひっくり返していく様子に、フローラ達も目を輝かせている。
戦闘で活躍できなかった分、ここで挽回だぜ。
焼き上がって、お皿によそうと、改めてそのでかさがわかる。
一般的なタコ焼きの2倍くらいの大きさがあるだろう。ジャンボたこ焼きってところだな。
さっき調合した特製ソースとマヨネーズをかけると、最後の仕上げとばかりに、オレは港町でようやく見つけることのできた鰹節を振りかける。
うねうねと動く、鰹節の動きに、なじみにない乗客たちから、驚きの声が上がった。
「さあ、おあがりよ」
「う、うん……」
完成第1弾は、鉄板を提供してくれたブルートに差し出す。
初めて見るであろう、魔物の足が使われた得体の知れない食べ物に、ブルートは少し戸惑っているようだったが、おそるおそるスプーンですくうと、口へと運んだ。
「こ、これは……!!」
ブルートの目が輝く。
「なんて濃厚なソースの味わい……そして、もちもちとした生地の食感。いや、それだけじゃない!! 生地の中にまるで真珠のように眠るタコの絶妙な歯ごたえ……。これは、これはまさに……味の宝石箱や!!」
はい、今、友達から宝石箱いただきましたー。こんなんなんぼあってもいいですからね。
ブルートの大きなリアクションに触発されたのか、他にも食べてみたいという乗客に食べさせてみると、これがまた、大好評だった。
幸いタコはいくら食べてもなくならないくらいにある。
オレ達はひたすらたこ焼きを作り続け、乗客たちにふるまった。
さっさと自分が食べたいアンシィは、不満たらたらだったが、タコパとはみんなで楽しむもの、それがオレの身上だ。
ある程度、乗客たちが満足した後、オレ達も自分たちの分を確保すると、甲板の隅へと集まった。
「ふぅ……やっとたこ焼きにありつけるわ!!」
アンシィはさっそくジャンボたこ焼きにむしゃぶりついて、ご満悦だ。
フローラ、シトリン、アルマもその食感を楽しみながら、おいしそうに食べている。
「さて、オレも……」
と食べようとしたとき、ちらりとオレの視界の端に狐の仮面をつけた女の子──コルリの姿が目に入った。
戦闘前から姿が見えなくなっていたが、甲板の楽し気な様子を感じて出てきたのだろうか。
舳先に立ち、海の彼方を見つめるその表情は、狐の面のせいで、まったくうかがい知ることはできない。
なんとなく気になって、オレは、ひとり立ち上がると、彼女の元まで歩いた。
「君も食べないか?」
皿の上のたこ焼きをスプーンにのせて差し出してやる。
基本、不要なことには反応すらしない彼女だ。
今回も半ば無視されるかもと思ったが、彼女は、ゆっくりとこちらに顔を向けると、わずかに顔を横に振った。
要らないという意思表示。そんな最小限すら、返してくれたことがなんだかうれしい。
少しお節介を焼いてみたい気分になって、オレは自分が持っていたたこ焼きが乗った皿を彼女の横にあった樽の上に置いた。
「一応、ここ置いとくからさ。もし、良かったら食べてよ。オレの故郷の料理なんだ」
そう彼女に伝えるが、彼女はじっとこちらを見つめて微動だにしない。
「ディグー!! 次はチーズ入り作るわよー!!」
「お、おう……!」
あるものを食べつくしてしまったらしいアンシィの呼ぶ声が聞こえ、オレは返事をした。
「じゃ、じゃあ……! 食べ終わったら、皿はそこに置いといてくれていいから!」
それだけ伝えると、オレは、仲間たちのところへとそそくさと踵を返した。
アンシィ達と追加のたこ焼きを作り、みんなでやいのやいの食べ終わった後、再び舳先を見ると、彼女の姿はいつの間にかまた、なくなっていた。
だけど……。
「ははっ……!」
そこには、しっかりと中身のなくなったお皿だけが、潮風にさらされ、佇んでいた。




