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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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067.ゴーイースト

「あんた、どうしたの? びしょびしょだけど」


 アパタイさんの店に戻ると、店先で花を愛でていたアンシィに、髪の毛までぐっしょりとした姿を速攻で指摘された。


「……テンプレ消化に失敗したのさ」

「ちょっと何言ってるかわかんないけど。とりあえず、さっさと着替えてきなさいよ。もうすぐ迎えの人がやってくるわよ」

「へーい」


 さて、どうせなら銭湯でも行って、さっぱりしてきたいところだけど、さすがにそんな時間はない。

 不本意だが、フローラの部屋の風呂を借りるとするか。いや、本当に不本意だがね……♪

 オレはスキップで自室に戻ると、すぐ隣の部屋をノックした。


「フローラぁ。ちょっといいかー?」

「え、あ、ディグー、ごめんなさい。今、沐浴中でー!」


 少しくぐもった声でフローラの返事が返ってきた。

 おっと、先を越されちまったぜ。


「でも、もうすぐ上がるのでー!」

「あ、いや、大丈夫、大丈夫、ゆっくり浸かっててくれ」


 フローラが某猫型未来ロボットアニメの紅一点ばりにお風呂が好きなことはパーティメンバーには周知の事実だ。

 ワンチャン、一緒に入っていいか? と聞いてみるという選択肢もなくはなくはないが。

 長い旅に出発する前の、フローラにとって大事なリラックスタイム。その時間を削ってしまうのはさすがに忍びない。


「あんた、もしかして、フローラの部屋のお風呂使おうとしたの……?」

「あ、アンシィ」


 そうだが。それが何か?


「そのメンタル、ほんのわずかだけど尊敬するわ……。ほら、乾かしてあげるから、服だけ着替えなさい」

「いやん。アンシィったら、えっち」

「あんたの裸なんて見慣れてるわよ」


 まあ、こいつとは夜寝るときも一緒だしな。もっとも寝るときは、アンシィはもっぱらスコップの状態だが。

 いまさら、半裸程度でお互い意識する仲でもない。

 うん、たま~にアンシィの下着がチラっと見えた時もなんとも思ってないよ、僕は。

 冗談は置いておいて、上半身の服を脱いで、髪を中心にアンシィの炎帝の加護を当ててもらう。

 ただの炎帝の加護じゃなく、嵐帝の加護との併用で、ちょうど良い感じの熱風となっている。

 こいつすっかり竜帝からもらった加護の力を使いこなしていやがる。

 これで、すっきりしない梅雨の時期の洗濯もばっちりだ。


「なぁ、アンシィ」

「何よ」

「冒険者やめても、お前の力があれば、食っていけそうだな」

「…………どうしたの急に?」


 変な物でも食べたのかしら? とでも、言わん顔でオレをマジマジと見つめるアンシィ。


「オレ、なんか変な事言った?」

「いや、あんたの口から冒険者やめるとか、そんなこと聞くの初めてだったから」


 そんなに意外な事だったろうか?


「別に深い意味で言ったんじゃないよ。ただ、冒険者にこだわる必要もないのかなって、最近少しだけ思っててさ」


 例えば、レナコさんだ。

 同じ転生者である彼女は、戦いを好まず、自分の好きな洋裁の仕事をこの世界で全力で楽しんでいる。

 もしかしたら、オレとアンシィにも、冒険者よりももっと適した仕事や役割、あるいは熱くなれる何かがあるかもしれない。


「そういえば、朝も畑仕事うんぬん言ってたわね」

「だから、深い意味はないよ。例えばの話。例えばの」

「そう……」


 オレはそう言うものの、アンシィはまだ、どこか怪訝な表情を浮かべたままだ。

 なんとなくその場の空気に耐えられなくなって、オレはよっと立ち上がった。


「さ、そろそろ乾いたかな」

「待ちなさい! まだ、ちょっと湿ってるわよ」

「いや、乾いてるって」

「ダメよ。生乾きだと臭くなるじゃない」

「いいから」


 乾かすだの、乾かさないのだの、アンシィと引っ張り合いになっているうちに、ふとオレ達は体勢を崩した。


「うわっと……!」


 いつも寝ているベッドに妙な体勢で倒れ込む。

 両腕をベッドにつくオレ、そして、その腕の間にはアンシィ。つまるところ……完全に押し倒している状態だ。

 少しだけアンシィが驚いた表情を浮かべていた。普段見ない表情だ。こんな表情もできるんだな、こいつ。

 っていうか、改めて見ると、やっぱりこいつめちゃくちゃ顔立ち整ってるよな。

 その上、スタイルも一般人とは一線を画している。

 冷静に考えると、普通に暮らしていたら、そうそう話しかけることすらできないほどの超絶美少女なんだよなぁ。 

 そんなことを考えていたら、オレの視界の中で、アンシィの姿がブレた。

 次の瞬間、ボロボロになったアンシィが、オレの腕の中に現れる。

 血の気が引いた。心音がうるさいほど聞こえる。なんだ……これ……。


「…………どきなさいよ」


 声が聞こえ、気づくと、オレの瞳には、いつもの綺麗なアンシィが映っていた。


「あ、悪い……!」


 オレは慌てて、身体を起こした。

 鼓動が妙に早い。だが、それは高揚感とは明らかに違う。

 なんで、オレ、あんな姿を……。


「……ディグ?」

「ディグ! お待たせしました!」


 オレに何かを尋ねようとしたアンシィの声を遮る形で、いつもの神官服っぽい旅装に着替えたフローラが、奥の部屋から顔を出した。

 そこにはシトリンとアルマの姿もあった。どうやら一緒にお風呂に入っていたようだ。


「ああ、フローラ、急がなくてよかったのに……」

「いえ、ちょうど、そろそろ出ないとマズいなぁ、と思っていたタイミングだったので」

「みんなー、東冒険者組合からの使者の方がいらっしゃったわよぉ~」


 その時、下の階からアパタイさんの呼ぶ声が聞こえた。


「フローラ様、ちょうどよかったみたいですね!」

「そうみたいですね。シトリン行きましょう」

「ああ」


 フローラとシトリン、そして、アルマが階下へと降りていく。


「アンシィ、オレ達も」

「……そうね」


 オレも、旅装に着替えると、慌てて後を追った。




 店先へと顔を出すと、そこには、うちの3人娘が並んで、東冒険者組合からの使者らしき人物と対峙していた。


「待たせてごめん……って、あっ」


 アンシィとともに、頭を下げつつその場へとやってきたオレは、目の前の人物の姿を見て、思わず声を漏らした。

 立派な狐耳と狐のしっぽ、そして、巫女服のような、中華服のようなそんな服装。

 そう、そこにいたのは、オレが助けようとして、結局、自分で簡単に巨漢を撃退してしまったあの獣人の女の子だった。

 いや、女の"子"というのは予想に過ぎない。

 体型やミニスカートから覗く細く綺麗な脚から判断しただけで、実際は、仮面をかぶっているので、年齢などは憶測でしかないからだ。


「君は……」

「…………コルリ」


 思いのほか可愛らしい声でそう言うと、彼女はそれきり黙り込んでしまった。

 コルリ……オレの呟きを自己紹介しろ、と捉えたのだろうが、あまりにも簡潔すぎないだろうか。


「え、えーと、オレはディグだ。それから──」


 パーティメンバーを順に紹介していくが、彼女はそれに対して何か言うこともなければ、付けた仮面を外すそぶりもない。

 一応、微妙に紹介するメンバーへ身体の向きを変えてくれているので、無視しているわけではないのだが、どうにも反応が薄い。

 不愛想なのかも、仮面をかぶっているのでよくわからない。

 少なくとも、一応はさっき別の場所で会っていたオレに対して、一切合切何の指摘もしないあたり、とにかくこういう性格の娘らしい。


「と、とりあえず道中宜しくね」


 若干顔を引きつらせつつそう言うと、彼女はほんのわずかだが首を縦に振ってくれた。

 そして、そのまま街の東出口の方を指差した。

 どうやら、案内もできる限りジェスチャーだけで済ませる気らしい。


「じゃあ、アパタイさん、ロキ、行ってきます!」


 一声かけると、オレ達は、表情を伺い知れない狐獣人の女の子に導かれて、移動を開始した。

 目指すは、東冒険者組合の本拠地イーズマ。

 さて、道中何もないといいんだけど。

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