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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第5章 オレにノボれぬ塔はなし!
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058.辻斬りの影

「ここは……」


 気が付くと、1人だった。

 いや、違う。


「アンシィ……」

「どうやら、アルマの言っていたトラップを踏んじゃったみたいね」


 スコップ状態のまま、アンシィが嘆息する。

 急にブルリときて、両肩を抱きしめた。

 それも当然だ。いつの間にかオレの身体には、容赦なく冷たい雨が降り注いでいた。

 足元はぬかるんでドロドロだし、周囲を見渡しても、うっそうした木々の間には薄霧が立ち込め、そう遠くまで見渡すこともできない。

 どうやら49層は、こんな鬱々とした環境のフィールド型ダンジョンらしい。


「そうだ! 奴は?」


 ハッとして、奴の姿が周囲にないか探すが、周りには人はおろか、動くもの一つ見当たらない。

 アルマの話から考えると、同じトラップを踏んだとしても、飛ばされる場所は違うところになるのだろう。

 つまり、これで、また、ゼロから奴を探さないといけない上に、未だ48層にいるであろう、フローラ達とも合流しなければならない。

 いや、シトリンがいれば、合流自体はそう難しくはないか。


「とにかく奴を探そう」

「そうね。はい」


 アンシィが急に炎帝の加護を発動した。

 ほのかな温かさが、アンシィを通してオレに伝わる。


「寒いと体力減るからね。ほら、さっさと探しましょう」

「ありがとな、アンシィ」


 ふとしたアンシィの気遣いに感謝しつつ、オレはぬかるむ地面を踏みしめながら、奴を探し始めた。





「はぁ……はぁ……ははっ、まったくラッキーだったぜ」


 土砂降りの雨に降られながらも、俺は口元をゆがめた。

 本当に幸運だった。

 あのガキに掴まった時は、さすがにもうダメかと思ったが、48層のランダムワープトラップを踏んだことで、ギリギリのところで奴を撒くことができた。

【遮断】の効果のある外套をダメにされてしまったのはかなり痛手だが、幸い少し破れた程度に過ぎない。

 腕の良い魔道具職人なら、修復できるレベルだろう。

 あとは、このフロアさえ奴らより先に突破してしまえばいい。

 だが……。


「正直きついな」


 あの不思議な瞳を持つ女。

 あの女がこのフロアに降りてきたら、おそらく俺はすぐに見つかってしまうだろう。

 その上、あのガキの機動力も侮れない。

 外套がなくなった以上、通常の魔物に見つかっても切り抜けられるかどうか怪しい。


「使うか……」


 俺は、奴らから奪った転移結晶を手に取る。

 これを使えば、一瞬で街まで戻ることができる。

 そうすれば、確実に奴らを撒くことができるだろう。

 転移結晶一個分の換金額でもなかなかのものだが、背に腹は代えられない。


「よし」


 俺が決意し、転移結晶を取り出すために、ズタ袋に手を入れようとしたその時だった。


「おいおい、まさかそいつを使って逃げようってんじゃないだろうな」

「なっ!?」


 どこからともなく、女の声が聞こえた。

 なんだ。まさか、もう見つかったのか。


「くそっ!」


 一も二もなく俺は転移結晶を投げようと──


「ぐあっ!!?」


 何者かに突き飛ばされ、俺の手から転移結晶が離れた。

 俺を突き飛ばした何者かが、それを右手でつかみ取る。


「もーらい」

「くそっ、てめぇ……!」


 地面に突き飛ばされ、泥だらけになった俺は、剣を抜いて、目の前の女に対峙した。

 その時、空に雷鳴がとどろいた。

 一瞬の雷光の中で、奴のシルエットが露わになる。

 鍛え抜かれた身体、まとめ上げた菫色の髪、そして……右手に掲げた巨大な大鉈。

 こいつ、まさか……。


「辻斬り……!?」

「ご名答、じゃあ、死にな」


 まるで息をするように、無造作に女が大鉈を振りぬいた。




「なんだよ、これ……」


 ずぶ濡れになりながら歩いた森の中。

 今、オレの目の前には、真っ赤な血を滴らせながら、地面に倒れ伏す探し相手の姿があった。

 魔物にやられたのか?

 疑問に思いつつも、オレは奴の脈を取る。……うん、とりあえず死んではいない。

 奴の傍らには、シトリンの弓が転がり、無造作に転移結晶が散らばっている。

 これを使おうとして、何者かに襲われた……そんな風にも見える。


「いったい、誰がこんな……」

「ディグ様!!」

「あっ……」


 森の中、アルマがオレに向かって駆けてきた。

 そのままオレの顔面へダイブをかます……まったく、こんな時にこの子は……。


「ディグ様ぁ~!! アルマ、心配しました!!」

「ああ、すまない。まさか本当にトラップにはまっちまうとは……」


 ドジをやらかしてしまった手前、平身低頭するオレ。


「シトリンとフローラは?」

「あー、実は、あの後、私も反射的にディグ様を追ってトラップに飛び込んでしまいまして……」


 この子もアホだった。とはいえ、心配してくれたわけだし、改めてとがめられる立場でもない。


「まあ、シトリンがいるんだ。そのうち見つけてくれるだろう」

「そうですね…………って、うわっ、なんですか、この状態!?」


 いまさら気づいたのか、足元で血を流して横たわる男を発見して、アルマが飛びずさる。


「大丈夫だ。血は流しているが、まだ、息がある。もっとも止血してやらないと、本当に死ぬかもだが」

「うーん、悪い奴ですけど、殺してしまうのは忍びないですもんね。わかりました。私にお任せ下さい」


 アルマが巨大リュックの中から取り出した包帯で止血を施しているうちに、フローラとシトリンがやってきた。


「ディグ!!」

「ディグ! 心配しました!」


 息を切らして走ってきた二人。

 きっと必死にオレとアルマのことを探してくれていたんだろう。


「二人とも、ごめん」

「いいですよ。こうして無事見つかりましたし」

「でも、こいつは……」


 シトリンが男を見下ろす。

 そして、傍らに落ちていた弓をおもむろに回収した。


「ありがとう、ディグ。取り返してくれたんだな」

「あ、いや、それが……」


 事情を説明すると、アルマもフローラもシトリンも頭に疑問符を浮かべた。


「ディグがやったんじゃないとすると、やはり魔物でしょうか?」

「いえ、傷口の感じは武器を使ったようにも見えます……確証はありませんが」

「うーん、まあ、考えていてもしょうがない。とりあえずこいつを連れて、50層まで行っちまおう」

「ああ、そうだな。幸いなことに、ワープゾーンはすぐそこだ」


 フローラの光球とシトリンの神視眼の鉄板コンビにより、オレ達は49層を後にしたのだった。




 50層に到達したオレ達は、なんとも微妙な達成感のまま、街へと戻った。

 いつもねぎらいの言葉をかけてくれる門番に、未だに気絶したままの盗人冒険者を預けると、オレ達は自然と酒場で夕食を摂る流れとなった。


「せっかく50層に到達したというのに、なんとも微妙な気分ですね」

「まあ、あんなことがあったからなぁ……。でも、せっかくだし祝杯と行こう。もうはじめている奴もいるし」


 飯を我慢するという発想のないアンシィは、すでに目の前の料理と向き合っている。彼女にとって食とは真剣勝負なのだ。


「んじゃ、かんぱーい!」

『かんぱーい!!』


 アンシィ以外の4人で杯を合わせる。

 うん、アルマの入れてくれるお茶も美味いが、やはりこういう時は酒だな。

 すっかり異世界で酒の味を知ってしまったオレは、エールを一気に煽ると、ぷはぁ、と息を吐いた。

 さて。


「早速提案なんだけどさ。明日は休息日にしないか?」

「休息日、ですか?」


 両手でエールをちびちび飲んでいるフローラが頬をわずかに染めながら言った。


「ああ、次の攻略はいよいよ最終ステージになるだろ。一度昇り出したら、あとは最上階である60層に到達するまで帰れないわけだし、1日ゆっくり休んで、万全の態勢で挑戦するのが良いかな、と思って」

「さすがディグ様です! 私もそれに賛成です。51層からは、さらに攻略難易度があがりますし、59層には聖塔のボスも控えています。1日休息を取って、万全の体勢で臨むのが得策かと」


 オレの提案に、アルマも同調してくれた。となれば、フローラもシトリンも頷くばかりだ。


「ちょうどよい機会かもですね。せっかくですし、この街をもう少し回ってみたかったですし」

「そうだな。ボクも良いと思う」

「じゃあ、そういうことにしよう。行動も別々で、お互い好きなことをするってことで」


 オレがそう言うと、女性陣も皆頷いてくれた。

 さて、盗人なんかに水を差された分、明日は最終ステージに向けて、英気を養わせてもらうとしよう。

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