056.オレはノンケでも平気で……
「まさか、あんたが男だったとはねぇ」
風呂上りでつやつやとしたアルマの顔を、アンシィがマジマジと見つめる。
「いやぁ、ディグの女装でもたいしたもんだと思ったけど、アルマはもう本当に女の子にしか見えないわね」
「アンシィ様、そんなに見つめられると照れちゃいます!」
両手で頬を押さえ、もじもじとするアルマ。
そんな仕草や口調も含めて、本当にナチュラルに女の子にしか見えない。
「私も驚いちゃいました……」
「いや、むしろみんな知らなかったのか」
シトリンだけは、どうやら最初からアルマが男の娘であることを見抜いていたらしい。
「よくわかったな。シトリン」
「ああ、だって、あれが」
「あれ……?」
そうか、シトリンの神視眼には、簡単な透視能力もあったんだっけ。
ということは、アルマの股の間のあれに、いち早く気づくのも道理だ。
でも、服を透視できるということは……。
「いやん」
「見てない! 見てないからな、ディグ!!」
股間を押さえて、シトリンから距離を取るオレに、本気で慌てるシトリンが可愛い。
「すみません。私、こんな見た目や性格なもので、よく女の子に間違えられるんです」
「まあ、確かに、男だって言われた今でも、信じられないくらいだ」
そういえば、塔を攻略する初日に、ミナレスさんが、何かアルマについて伝えようとしていたっけ。
きっとこのことを伝えたかったのだろう。
「きちんとお伝えしておらず、申し訳ありませんでした! 今後は男として、扱っていただければ!」
「いやぁ……」
「ちょっといまさらね」
これまで女の子と接してきて、急に男の子として接しようとするのもなかなか難しい。
「これまで通りでいいかな」
「あ、はい、私はどちらでも、皆さまの扱いやすいように接していただければ!」
男だとわかったからといって、アルマに何か変化があるわけでもない。
本人の言うように、見た目や性格は本当に素のままのようだし、これからも、これまでと同じように対応することとしよう。
「それじゃ、そろそろご飯にしましょ。私、もうお腹ぺこぺこのぺコリーヌなんだけど」
「はいはい。んじゃ、飯にしよう」
「あ、ディグやる気ですね」
フローラとシトリンが訳知り顔で、頷く。
「ディグ様、何かなさるんですか?」
「ああ、料理をちょっとね」
「料理……私もお手伝いします!」
「オッケー、頼む」
さて、初めてのダンジョン飯づくりの開始だ。
今日使う食材は最初から決めていた。
そう、ダンジョンでドロップした【魔物肉】である。
屋台で食べた魔物肉は【並】であったにも関わらず、かなり美味かった。
オレ達はここまでの探索でのバトルの中で、魔物肉の【上】をそれなりの数手に入れることができた。
これを使って料理をすれば、きっと頬っぺたが落ちそうなくらいおいしいものができるに違いない。
そして、肉を活かすスコップ料理といえば……そう、メンチカツだ。
オレはマジックボトルから次々と材料を取り出す。
まずは玉ねぎのみじん切りだ。
「アルマ、頼めるか?」
「任せて下さい!」
みじん切りをアルマに任せ、オレはアンシィにヒートスコップを発動させる。温度は低めだ。
そこに、この前のコロッケづくりでも使ったパン粉をまぶして、きつね色に焼き上げた。
それだけでどこか香ばしい香りが漂ってくる。
そうしたら、いよいよ【魔物肉〈上〉】の登場だ。
焼き色のついたパン粉を取り出し、代わりに合い挽き状にした肉の塊をそのままアンシィの上に置く。すると、ジューという音と共に、肉の焼けるなんとも食欲を煽る匂いが広間に広がった。
ぐぅ~。
お腹の虫の主はたぶんフローラだ。
普段なら恥ずかしがるだろうフローラも、料理の様子を見るのに集中しているのか、恍惚とした表情を浮かべている。
期待に応えなければな。
オレは涙目のアルマからみじん切りにしたたまねぎを受け取ると、肉とともに炒め、塩とこしょうで味を調えた。
そのまま風の膜を発生させ、疑似的なオーブン状態を作り出すこと10分、しっかりと火の通った魔物肉がスコップの上で煙を立てていた。
あとは、これでもかとチーズをふりかけ、余熱で溶かす。最初に焼き色を付けておいたパン粉をまぶせば、太陽の色のメンチカツの完成だ。
それにしても、アンシィの刃の面積の一番大きい角モードで作ったメンチカツだ。さすがにでかい。
「と、取り分けましょう!」
アルマが用意していたお皿の上に、フローラが慣れた手つきで料理を取り分けていく。
うん、メンバーが増えたので、取り分が少なくなるかもと思ったが、いやはやむしろ食べきれるのかってくらいでかい。
これ食べて物足りないっていうのはアンシィくらいのものだろう。
「さあ、じゃあ……おあがりよ!」
『いただきまーす!』
オレとアンシィがいつも言っているからか、そういう文化がないはずのフローラやシトリンも言うようになった食事の挨拶を皮切りに、オレ達は初めてドロップ品で作った料理に舌鼓を打った。
「うっ……!?」
「これは……!!」
『うまぁーーーーい!!!』
【並】でも十分なおいしさだったので、もちろん期待はしていたわけだが、その期待値を超える美味さだ。
食感としては、ビーフに近い感覚。噛めば噛むほど濃厚な味が口の中に広がっていく。
それでいて、くどさがなく、すんなりと喉を通る。これなら、たとえ食の細くなったご老人でもおいしくいただけるだろう。
肉も美味いが、やはりメンチカツというチョイスが良かったな。この滴る脂の感じ……イエスだね。
「ディグ様、私、感動しました! こんなにお料理も上手だなんて!!」
口いっぱいにメンチカツを頬張りながら、アルマが抱き着いてくる。
さすがに男だとわかった今、欲情はしないが(いや、以前も欲情はしてなかったよ、本当だよ)、やはりくっつかれるのはなんともむず痒いな。
まあ、これだけ喜んでくれたのは素直にうれしい。
聖塔は残すところあと15層。もうあと1、2階は野営の機会もありそうだし、その時は、また、別の料理を披露するとしよう。
というわけで、初めてダンジョン内で就寝する時がやってきた。
マジックボトルには大きさの制限があり、寝具などの大きなものは持ち運べないので、基本は皆、毛布一枚で雑魚寝だ。
硬い床の上で寝ることになるのは確かに少し窮屈ではあるが、45層は完全なセーフゾーンであるらしいので、魔物に襲われる心配はない。
見張りを立てる必要もなく、そういう意味では、出先の寝床としては十分すぎるほどだ。
かすかな星明りの元、オレ達は、車座になって横になった。
それにしても、今日でウエスタリアに来て5日目になる。
正直、10日という短期間で最頂部までいけるとは本気では思っていなかったのだが、みんなの力でそれが現実に近づいてきた。
シトリンの神視眼の力も大きいだろうが、やはり同行してくれることになったアルマの存在が大きい。
自分自身も聖塔に入るのは初めてにも関わらず、的確にフロアや魔物の事を教えてくれたり、高層ではマッピングでも大活躍してくれた。
男だったことには正直、大きな衝撃を受けたが、それによって彼女……うん、もう彼女でいいよな。彼女の価値が変わるというわけではない。
残る15層の攻略でも、頼りにさせてもらうとしよう。
「むにゃむにゃ……ディグ様……」
ふと、隣で横になるアルマがそんな寝言を漏らして、寝返りを打った。
どうやら、彼女は夢の中でも冒険をしているようだ。
瞳を閉じながらも、力んだり、微笑んだり、百面相をしている様子は、年相応にかわいらしい。
しかし、これが本当に男だとはなぁ。
まつ毛なげぇ、肌きれいすぎる、身体つきだって本当に華奢で……。
「あっ……」
気が付くと、オレは知らず知らずのうちに、アルマのぷにぷにの頬に触れていた。
いつもボディプレスの如く、飛びつかれているオレではあるが、こちらからアルマに触れるのは初めてだった。
その事実に気づいた途端、なぜだか、急に恥ずかしくなってくる。
けれど、頬に触れたオレの右手は、まるで吸い付けられているかのうように離れない。
本当にどんなスキンケアをしてるんだと言わんばかりの玉の肌だ。
あれか。彼女が淹れるお茶の効能なのだろうか。人形のようでありながら、人の温かみのあるその肌は、彼女しか持ち得ないものだ。
「ん、ディグ様……」
「……ごくり」
いまさらながら男だということがフェイクなんじゃないかと思うほどのかわいらしい声。
知らず知らずのうちに飲み込んだ生唾とともに、身体の芯がなんだか熱くなってくる。
落ち着けオレ……。男に手を出すのは、アンシィに手を出す以上にシャレにならない。
だが、そんなオレの葛藤がわかっているかのように、アルマはわずかに身を震わすと、かぶっていた布団を蹴飛ばして、オレの方へとその身を預けた。
「なっ……」
すぐ近くに彼女の顔があった。
布団は完全にはがれ、わずかにめくれ上がった寝間着の裾から、細い腰が覗いている。
オレはというと、完全にアルマの抱き枕状態。
心音が跳ね上がる。
絶対女だろこいつ!! いや、そうとしか思えねぇ!
だって、良いにおいするし、なんならフローラよりずっと細……いや、なんでもありません。
一瞬殺気を感じたような気がしたことは置いておいて、とにかくこの感触は女性のそれと同じだ。
オレの理性が急速に失われていく。
そう、オレはノンケでも構わずに食っちまう男なん……いや、違う!!
何を言っているんだオレは!! どうしたオレ!!
考えてみろ。あの豚野郎やアパタイさん相手に、お前は欲情するのか? しないだろっ!!
冷静になれ、目の前のこの子は、非常に可愛い女の子に見えるが、本質的には奴らと同じだ。
見た目に騙されるんじゃない!! あー、でも、かわいいなぁ、おい!!!
「ディグ様、素敵です……」
「ウボォア!?」
ああ、もういい。
そう、オレは何でも掘っちまうスコッパーなんだぜ。
目の前にこんなかわいい雄がいて、掘っちまわないわけが──。
「ぐがぁあああ!!」
「うごっ!!!!」
アルマが抱き着いてきている逆側から、ワイルドな寝相のアンシィの裏拳がオレの顔面にヒットした。
ああ、うん、目が覚めたわ。
いや、むしろ。
「ばたんきゅー」
頭上にぴよぴよと鳥が舞うビジョンを空見したオレは、アルマに抱き着かれた姿勢のまま、深い眠りへと落ちていった。




