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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第5章 オレにノボれぬ塔はなし!
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055.アルマの秘密

 42層、ついにオレのスコップ技能が通じなくなった。

 それもそのはず、洞窟の壁面を構成する素材がついに、金属になったのだ。

 おそらく鉄だろうか。一応叩いてみたところ、傷をつけるくらいはできそうだが、とても、隣の通路まで貫通させることはできそうになかった。

 ここからは、地道な探索だ。

 幸いシトリンの神視眼の方は、壁の素材が変わったところで、その魔力を感知する力がいささかも衰えることはない。

 オレ達はこれまで通り、シトリンの導きに従うようにして金属壁のダンジョンを進む。

 低層域ではオレの技能のせいで出る幕のなかったアルマのマッピングが大活躍だ。

 その上、もう一つ、オレの予想の埒外で良いことがあった。


「なあ、あれって……」

「ええ、ディグ様、間違いありません!」

『宝箱!!』


 そう宝箱である!

 低層域では通路貫通というチートを用いていたせいで、ついぞ出会うことのなかったダンジョンのお約束、宝箱に、オレ達はついに出会うことができたのだ。

 考えてみれば、ずっと宝箱をスルーしつづけていたわけで……ま、まあ、低層域の宝箱にはたいしたものは入っていなかったに違いない、きっと。

 とにかく、初めて見つけた宝箱に、オレだけでなく、パーティのメンバーは皆テンション爆上がりだ。

 走って、そのいかにもな木製の箱の周りに集まる。

 赤く塗られた箱に、金色の金属補強が入っているその見た目は、いかにもレアリティが高そうである。


「か、鍵とか必要なのかな……?」

「神域の聖塔の宝箱は基本すべて鍵が必要ないはずです! さっそく開けてみましょう!!」

「お、おう……!」


 みんなと一度視線を合わせると、互いにこっくり頷いた。

 ゆっくりと宝箱の蓋のふちに、指を這わす。

 力を籠めると、ギシィっとわずかに軋む音と共に、箱の中身が光輝いた。


「こ、これは……!?」


 入っていたのは弓だった。

 宝石のちりばめられた豪華なデザインで、大きさは1メートルほどだろうか。

 手に取ってみると驚くほど軽く、何か魔法が付与されているような品である。


「シトリン、持ってみるか?」

「あ、ああ」


 シトリンはオレから弓を受け取ると、構える。

 神視眼を全開にしている時は、魔力で光の弓と矢を作り出すことのできるシトリンだが、今回は光の矢だけを精製し、弓の弦に番える。

 魔力で形成された矢であるにも関わらず、その弦はしっかりと矢をホールドしている。

 おもむろにシトリンが射った矢は、オレ達がやってきた通路へとまっすぐ飛翔し、一瞬で視認できなくなった。

 と、思った瞬間、遥か遠くで、魔物の断末魔の声がわずかに響いた。

 え、もしかして、今、見えない距離の魔物を撃ち抜いたのか!?


「ディグ、この弓凄い……」

「いや、弓も凄いが……」


 改めてシトリンが凄すぎる。

 本来なら、魔力で作られた矢を物質的な弓で放つことはできないはずなのだが、この弓はどうやらそんな不可能が事ができてしまうらしい。

 そして、そんな武器を手に入れてしまったことで、シトリンは自分の見える範囲……つまり神視眼で索敵可能な範囲であれば、例え、オレ達が視認できない距離であっても、一方的に攻撃することが可能になったわけだ。

 なんという相性。この弓を手に入れたシトリンは、まさに鬼に金棒だ。


「やったな! シトリン!」

「あ、ああ……まさか、頂上に行く前に、こんなに凄い武器が手に入ってしまうとは……」


 正直、もう目的の半分は達成してしまったといっても過言ではないのではなかろうか。

 オレは武器を使えない以上、あと、手に入れたいものといえば、フローラのための魔力制御に特化した杖だろうか。

 デスヒーラーの所以となった、フローラの魔力制御能力を強化できる杖があれば、確かに欲しいかもしれないが、最近は制御能力もかなり上がってきているので、必要不可欠というわけでもない。

 あとは、防具類か。武器は装備できないオレだが、防具なら装備することができる。

 鎧や兜なんかは必要ないが、機動性が確保できて、なおかつ防御性能の高い服なんかが手に入れば御の字といったところか。


「なんか、ボクだけ目的を達成してしまって、申し訳ないな」

「何言ってるんだよ。その弓があれば、これからの攻略はもっと楽になるだろ。そしたら、最上階までだってすぐさ」

「ああ、がんばる」


 弓を両手で持って、グッと拳に力を入れるシトリン。

 アルマに感化されたのか、ちょっとそのしぐさ可愛すぎませんか。


「じゃ、じゃあ、こっちだ! 行こう!」


 新しい武器を得て、興奮しているのか、なぜか少し顔の赤いシトリンを先頭に、オレ達は再び42層の探索を開始した。




 さて、これまでより時間こそかかったものの、その後の探索もかなり順調だった。

 弓を手に入れた42層は、その後すぐに上層へのワープゾーンにたどり着いたし、43層は草原タイプのフィールド型ダンジョンで、魔物こそ強かったが、環境的には41層よりも遥かに楽だった。

 44層では、新たに宝箱を発見したが、ハズレの宝箱だったらしく、体力がほんのわずかのみ回復するという「スパローティアーズ」という名のアイテムしか得ることはできなかった。

 収穫こそ少なかったものの、魔物にも苦戦することはなく、オレ達は、朝から夕方までの攻略を経て、ついにアルマが言っていたキャンプ地候補である45層までたどり着いた。


「えっと……これって」


 ワープゾーンを抜けてやってきた45層は、今まで度々お世話になってきた10層毎にあるセーフゾーンに酷似していた。

 白亜の柱が立ち並ぶ大広間、吹き抜けの先にも、暮れなずむ虚空が広がっている。

 これまでと違うことといえば、塔の両サイドになにやら見慣れない扉があることと、街に戻るための黄色いワープゾーンが存在しないことだろうか。


「ここはちょっと特殊なセーフゾーンなんです。ここまで頑張った冒険者へのご褒美があるんですよ」

「ご褒美?」

「それは……」


 グッと身体に力を籠めると、アルマは飛び上がりながらこう言った。


「温泉です!!」

『温泉……ですと!?』


 オレとフローラの声がハモる。

 え、まさか、こんな塔に温泉……?


「そうです! この45階の両サイドには、空の絶景を眺めながら浸かれる露天風呂があるのです! しかも湧き出す温泉はすべて聖水! 身体を清めると同時に、様々な回復効果もある素晴らしい温泉なのです!」

「ま、マジか……!!」

「私も、正直わくわくしていますよ!!」


 アルマがぴょんぴょん跳ねている。

 なるほど、聖水の露天風呂か。そりゃ確かに景色や効能だけでも最高級のご褒美だ。

 けど、オレにとってのご褒美は……。


「……ごくり」


 無意識に女性陣の身体へと目が行く。

 アンシィは……まあ、置いといて。フローラにシトリン……見たい。正直二人の生まれたままの姿が見たい。


「しかもですね! ちゃんと両サイドにあるので、男湯と女湯として使えるんですよ! 聖塔を作られた女神様のご配慮はさすがですね!」


 豚野郎(めがみ)ぃいいいいいいい!!!

 だ、だが、待て!!

 デゾメアの街に行く途中で、沐浴をすることになったときも、2人はオレと一緒に風呂に入ることに嫌悪感を示さなかった。

 つまりタオルさえ巻いていればOKだと思っているということだ。

 オレはちらりと二人の方へと視線を向けて……いつの間にか人間状態に戻っていたアンシィと目が合った。


「じゃあ、後で合流しましょう。ディグ」

「………………そうですね」


 くそがぁあああ!!!




「はぁ……極楽だじぇ~……」


 脳までとろけそうになりながら、温泉に浸かる。

 やはり連日の探索で、身体が疲れていたのだろう。

 身体中のコリや痛みが、湯に流されていくのを感じる。

 明確に癒されているのが実感できるこの感覚は、やはりさすが聖水の湯といったところか。

 その上、頭上を見上げれば、満天の星が見える。

 この露天風呂は、塔から少しせり出す形で設置されているので、周りには遮蔽物が何もない。

 天空に浮かびながら風呂に入っているこの状況は、最初こそわずかに恐怖があったものの、慣れてしまえば、普通の露天風呂よりも遥かに心地よい。

 星々の輝きに思いを馳せながら、浸かる聖水の湯は、リラックス効果も半端じゃない。

 身体だけでなく、心までとろけてしまいそうだ。


「とはいえ……」


 やはり一人は寂しいものだ。

 女風呂は塔の反対側。こちらからはその気配すら感じられない。

 きっと、女の子同士でキャッキャウフフしてるんだろうなぁ。


「羨ましい……」


 アンシィさえいなければワンチャンあったというのに、相棒ながら今ばかりは憎らしい。

 とはいえ、たまには、こうやって一人でいるのも悪くないか。

 この世界に来てからというもの、プライベートな時間がかなり減っていたからな。

 いっそのこと、この機会に、一人じゃないとできないことでも……。


「ディグ様~!」

「えっ……」


 露天風呂へと至る通路から声が聞こえた。

 オレの事を様付けで呼ぶ人物は一人しかいない。そうアルマだ。

 あろうことかタオルだけを身に纏ったアルマが大きく手を振りながら、こちらへと向かってきていた。


「ア、アルマ!?」

「ディグ様~! お背中お流ししますよ~!」


 アルマは照れた様子も躊躇する様子もなく、真っすぐにオレの近くまでやってくる。

 たまにシトリンもこんな風にオレに近づいてくることがあるが、彼女のそれにはまだ、少し照れくささというか、羞恥の感情が感じられる。

 しかし、アルマはまったくの自然体。まるで、ここにいるのが、当然だと言わんばかりに、その場に立っている。

 風でタオルの裾がひらひらとしているのも全く気に留める様子もない。

 フローラ達に比べて、少し幼いとはいえ、年齢的にはおおよそ14歳前後。

 さすがに、あまりに羞恥心がなさすぎるのではなかろうか。


「アルマ、お前の行く場所はあっち、あっち」


 エッチな感情よりは、どちらかというと親心的な感情が湧いてしまい、オレは半ば諭すようにフローラ達が入っているであろう反対側の温泉の方を指差した。

 しかし、アルマはきょとんとしている。

 

「えっと……フローラ様達の方に行くのはさすがに……」

「はぁ?」


 あれか、一応職業小間使いとして、主人的な立場の人と同じ湯に入るのは憚られるとか、そんな感じか?

 だったら、オレも同じ気がするんだが……もしかして、オレって他のメンバーより立場弱いと思われてる?


「いいから、行って来いって。さすがに年頃の女の子が野郎と同じ湯船に浸かるのはまずい」

「あ、その点ならご心配なさらず」


 アルマがおもむろに自身のタオルに手をかける。


「お、おい……!?」

「えいっ!!」


 アルマが勢いよく、唯一その身を包んでいた、純白のタオルを脱ぎ去った。

 星明りの元、彼女のきめ細やかな肌が夜風にさらされる。

 見てはいけない、と思いつつも、やはり男の本能には逆らえず、オレはばっちり見てしまった。

 アルマの細い手足を、腰を、折れそうな首筋を、鎖骨を、そして……股の間にくっついた見慣れた象さんを。


「………………男……?」

「はい! アルマは男の子ですよ!」


 この世界に来て、一番の衝撃を受けたオレは、ブクブクと息を吐きながら、水面へと沈んでいった。

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