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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第5章 オレにノボれぬ塔はなし!
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050.神域の聖塔

 オレ達をサポートしてくれる予定だったベテラン冒険者が件の辻斬りに遭った。

 その事実を聞いて、フローラやシトリンの表情も一気に険しいものへと変わった。

 苦々しそうな表情のまま、ミナレスさんは話を続ける。


「昨晩、人気の少ない路地裏を歩いていた折に、突然背後から襲われたらしい。とはいえ、不意打ちでやられたというわけではない。彼は武器を持って応戦したらしいが、真っ向勝負においても、まったく歯が立たず、逃げて助けを呼ぼうとしたところを背中からバッサリ斬られたということだ」

「そ、そんなに強いんですか……」


 ミナレスさんがオレ達のサポートに着けるという以上は、きっとそれなりに実力の高い冒険者だったのだろう。

 その冒険者が万全の装備ではなかったにしろ、まったく歯が立たず、逃げ傷を負わされたというのだ。

 辻斬りの実力は、少なくとも最高ランクの冒険者以上ということだ。


「幸い、今回も命に別状はなく、傷もギルドの回復術士のおかげですでに完治している。しかし、完全に恐怖心に憑りつかれてしまってな……。なんというか、とても君たちのサポートができる状態ではない」

「そう……ですか」


 強い冒険者しか襲わないという話だったが、実際に襲われたという話を直で聞くと、その対象からは外れるであろうオレ達も少し不安になってくる。


「代わりに君たちのサポートを任せられる人物を探したのだがね。やはりこの状況のこともあり、実力のある冒険者は皆、一様に拒否の姿勢を示してね。本当に申し訳ないのだが……」

「あ、あの……」


 ティーポットを片手にこちらへとやってきたアルマが恐る恐る口を開いた。


「ミナレス様。ディグ様達のサポートの役割。私にさせていただけないでしょうか?」

「何……?」


 何を馬鹿なことを、というようにミナレスさんがアルマへとうろんな視線を向ける。


「アルマ、お前は冒険者ではないだろう」

「冒険者ではありません。でも、神域の聖塔については、誰よりも知っています」


 アルマは手で胸を押さえ、真剣な瞳で、ミナレスさんに訴えかけた。


「お前は小間使いとしてギルドの仕事をする中で、聖塔についての報告資料も整理してくれていたな。確かに知識はあるだろう。だが、お前には戦う手段がない」

「確かに私には戦う手段はありません! でも、冒険者の中にだって、非戦闘職があります! 荷物持ちや道案内くらいなら、私にだって……」

「アルマ……なぜ、そんなに神域の聖塔に行きたいのだ?」

「それは……」


 言い淀むアルマ。見れば、右手をグッと握りしめている。


「あー、ミナレスさん。オレ達もアルマがサポートしてくれるならありがたいんですが」

「ディグ君……」


 ジッとアルマを見つめていたミナレスさんの視線がオレへと移る。


「朝迎えに来てくれたときから、すごく良い娘だな、って思ってたんで」

「ディグ君、確かにアルマは真面目で素晴らしい人物ではあるが、だからこそ危険な目に遭わせたくないのだ」


 親心ってやつか。確かにそれはわかる。

 でも、本人の意思を尊重するのもまた、親心だろう。


「確かにその気持ちは自分も凄くわかります。でも、彼女ももう大人みたいですし、したいことさせてあげたらいいんじゃないですかね」

「ふむ、しかしだな……」

「お願いします! ミナレス様!!」


 このタイミングだと思ったのか、アルマが深々と頭を下げる。


「無理は絶対にしませんし、危険を感じたらすぐに引き返すようにします。だから……」

「ああ、わかったわかった。お前が以前から、冒険者の仕事に興味があったのは知っている。ギルドが管理している神域の聖塔の中であれば、あの辻斬りも現れんだろうしな」

「そ、それじゃあ……!」

「どのみち、他にサポートを任せられる人材もいないしな……。アルマ、やるからには精一杯頑張ってこい」

「ミナレス様……!!」


 アルマがただでさえ深い角度だった腰をさらにまげて、一層深々と礼をした。

 すると、手に持っていったティーポットがものの見事に落下する。


「あぶっ!!」


 慌ててキャッチするオレ。


「す、すみません!」


 アルマがさらに慌てて、ポットをオレから受け取ろうとして……こけた。

 ポットの中身が、すべてオレの頭にぶちまけられる。


「あっちぃいいいいいいい!!!!」

「…………本当に大丈夫だろうか」


 そんな様子を見て、ミナレスさんがなんともいえない表情を浮かべたのだった。




 さて、そんなこんなで、オレ達パーティ+アルマはいよいよ神域の聖塔へとチャレンジすることとなった。

 聖塔は街の中央広場から直接聳え立つ巨大な白亜の塔だ。

 直径は数十メートルほどだろうか。高さは雲に届くほどだ。

 今にも折れてしまいそうな細長い塔ではあるが、一層一層が異空間になっているそうで、その見た目に反して、1フロアにつき、この街とほとんど同じくらいの広さがあるそうだ。

 全60階層。最終階層である60階には神器級のアイテムが眠っており、冒険者が到達するたびに、その冒険者に見合った装備品が取得できるというシステムになっているらしい。

 それだけ聞くと、とんでもない難易度の迷宮(ダンジョン)にも思えるが、アルマから聞いたところによると、世界に点在する神域級ダンジョンの中でも、最も攻略難度が低く、低階層に限れば、初心者でも挑むことができるほどに挑戦のしやすい迷宮だそうだ。

 その上、街中にある(塔の周りに街を作ったという方が正しいか)こともあって、冒険者以外の一般人にもよく知られている神域級の迷宮(ダンジョン)として、親しまれている。

 ただし、塔を管理しているのは、西冒険者組合であり、組合員でないものは、塔に入ることができない。

 本来なら、オレ達は入ることができないのだが、今回は体験という形で10日間だけ内部の攻略が許されている。

 できるなら、この10日で、最上階までたどり着いてみたいものだ。


「人数分の帰還石だ。これを使えば、瞬時に塔の入り口まで戻ることができる。本来ならかなり贅沢な代物だが、今回はベテラン冒険者をつけられなかったこともあるしな。これはそのお詫びだと思って欲しい」


 緑色にじんわりと光るクリスタルの入った袋をオレへと手渡すミナレスさん。

 本当は、アルマの事が心配だと言えばよいのに、素直じゃない人だ。


「ありがとうございます。これで攻略も捗ります」

「ああ、だが、絶対に無理はしないようにな。君たちの実力なら、中階層までは難なく進めるとは思うが、少しでも身の危険を感じたら、すぐにでも戻ってくるんだぞ」

「わかりました」

「それと、このタイミング言うのはあれなのだが、君と同じ転生者についてだ。昨晩確認を取ったのだが、西に所属する転生者2人のうち、1人は今とある島国にいてな。一応手紙を伝書鳩で送り届けてはみたが、元々その島に入り浸っている人物なので、帰ってくる可能性は低いだろう。そして、もう1人……件の君と同世代くらいの可愛い女の子の方なのだが、彼女はその……なんというか、方向音痴でな。今、どこにいるのかすら結局つかめなかった」


 ああ、そういえば、転生者についての情報も契約には含まれていたなぁ。

 もっとも、聖塔の攻略の方に意識が集中していたから、今の今まで忘れていた。


「この10日のうちでは、君が他の転生者と会うことは難しいかもしれない」

「構いません。たぶん……オレ達はまだ、他の転生者と対等なレベルまで至っていませんから」


 レナコさんを基準にして考えると、オレの実力はまだまだだ。

 仮に魔王討伐の共同戦線を張るとなっても、オレだけが足を引っ張ることにもなりかねない。

 彼ら彼女らに会うのは、もう少し強くなってからでも遅くはないだろう。


「そう言ってもらえると助かる……」


 ミナレスさんはフッと、少しだけ安心したように微笑んだ。


「あとは……そうだ。いずれわかることだから、今伝えておこう。アルマは実は──」

「ディグ様! アンシィ様! フローラ様! シトリン様! お待たせいたしました!!」


 アルマが自分の身体と同じくらい大きな荷物を背負ってやってきた。

 あまりにでかすぎる……いったい何が入っているんだ。


「いろいろ入用なのです!」

「そ、そうですか……」


 なんだろう。なぜかほとんど必要ないもののような気がする。


「さあ、では、行きましょう!」


 意気揚々と繰り出すアルマ。

 アンシィ達はそれについて行く。


「あ、そういえば、さっき何か言いかけてましたよね」

「ん、ああ…………まあ、いずれわかるか。ほら、アルマたちが行ってしまうぞ」

「あ、おーい、待ってくれ!」


 オレはいつの間にか随分小さくなったアルマ達の背を慌てて追いかけた。


「くれぐれも間違いだけは起こさんようにな」


 走る背の後ろから、そんなミナレスさんの声が聞こえた気がした。

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