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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第1章 アタシにホレないモノはなし!
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005.しゃべるスコップ……なんつって

 状況を整理してみよう。

 女神によって異世界に飛ばされたオレは、気が付くと、マグマの吹き出る煉獄のごときダンジョンの底にいた。

 あまりの暑さに脱出を試みようとしたところ、ドラゴン登場。

 そのまま丸のみにされるかと思いきや、相手に害意はなく、オレはこうして生きている。

 いや、害意はない、どころか、むしろ好意的といっても良いだろう。

 一瞬、気を失ったオレを介抱してくれたのはなんとこのドラゴンだったのだ。

 介抱といっても、オレの顔をペロペロ舐めていただけなのだが、物言わぬ瞳でジッとオレを見つめるその姿からは、どことなく心配してくれている気持ちが伝わってくる。

 では、なぜ、こんなにオレに優しくしてくれるのか。

 再び目を覚ました後、しばらく考えてオレはこう結論を導き出した。

 おそらくだが、このドラゴン、オレを自分の子どもだと勘違いしているのではないだろうか。

 というのも、オレの近くに置いてあった5つの大岩。あれがどうやら卵のようなのだ。

 初見では巨大すぎて気づかなかったが、ドラゴンのサイズ感を見てから改めて全体を眺めると、楕円を描くその形はまさしく卵だ。

 そして、何があったのか、6つ目の卵は割れて粉々になっていた。陶器のようなものが散らばっていたのは、その卵の殻の破片だったのだ。

 以上の状況証拠から、さっき言ったように、ドラゴンはオレを雛だと誤認している線が濃厚だと思える。


「うーん、どうしたもんかこの状況」


 とりあえず危機的状況は回避できたわけだが、いつまでもここにいるわけにもいかない。暑いし。

 ドラゴンは、よほどオレのことが心配なのか、今のところはどこかに飛び立つ様子もない。

 いや、仮に目を離してくれたとしても、ここから出ることは難しいだろう。

 オレは、改めて上を見上げる。

 遥か上空には青い空がほんのわずか見えるが、その距離は遥か遠い。

 いわゆる迷宮(ダンジョン)と呼ばれるものの、最奥にほど近い場所なのだろう。

 地上まで道が繋がっていればいいけど……。

 加えて、距離の問題だけではない。

 少し離れた岩場の上や、マグマの中には魔物と思しき様々な化物達の姿があった。 

 どれもドラゴンほどの大きさではないものの凶悪そうなやつがゴロゴロいる。

 親ドラゴンよりもっとシャープな始祖鳥めいた小竜もいれば、地を這う大ムカデにマグマから顔を出す巨神兵のような巨大生物。

 アンデッドだろうか、死神の鎌を持って、徘徊している髑髏もいれば、こん棒を振り回しながら闊歩する一つ目の怪物もいるときた。

 どれもひと目見ただけでわかる高レベルモンスター。

 異世界に転生したばかりの自分が戦えるレベルの相手じゃない。

 結局のところ、下手にどこかに逃げ出すよりも、ドラゴンに保護されているこの場所が一番安全なのだ。

 ああ、チートでもあれば、ワンチャンあったかもしれないんだけど……。

 オレにはチートどころか武器すらない。

 オレが持っているものといえば……。

 ずーっと握り続けて、すっかり手になじんできてしまった柄を軽く持ち上げる。

 こんな園芸用のスコップ一つで何ができるっていうんだ。

 穴でも掘って逃げろって? 

 何年かかるんだよ……。

 

「はぁ…………」


 こんなことならいっそ転生なんてするんじゃなかった。

 オレが死んじゃって、家族や美紅はどうしてるだろう。

 あの警備会社の人、オレのせいで業務上過失致死とかになってないだろうか。

 鬱々とした気持ちで、途方に暮れたオレは、左手でけだるげに頬杖をついた。

 そして、手遊びするように、黒土の地面を右手のスコップでいじり始める。

 その時だった。


【スコップ技能LV1を獲得しました】


「えっ……!?」


 突然、空中にまるでゲームのウインドウのようなものが表示され、脳内に電子音声じみた声が響く。

 技能獲得……?

 モンスターがいるこの状況から、典型的なファンタジー世界だとは思っていたが、やはりスキルとかそういうのがあるのか!!


「えーと、スコップ技能LV1……か」


 オレがスコップで少し地面を掘ったことがキーになって獲得したのだろう。

 いや、このパターン。もしかして……。

 オレはある種の確信を持って、近くの地面を掘ってみる。

 10分ほど黙々と掘り続けた後、再び、脳内にアナウンスが響き渡る。


【スコップ技能がLV2に上がりました。スコップの〈意思表示機能〉を解禁しました】


 やっぱりだ! スキルレベルが上昇した!

 だけど、スコップの意思表示機能ってなんだ?


「…………てんのよ」

「んっ……」


 今、何か聞こえたような。


「何してくれてんのよぉおおおおお!!!」

「ふぎゃああああっ!!?」


 女性の叫び声とともに、右頬に強烈な打撃を受けて、オレは吹っ飛んだ。


「いってぇ……な、なんだぁ……?」


 何か硬質なものでひっぱたかれた頬を撫でる。

 女の子の声がしたよな……?

 だが、周囲を見ても、もちろん女の子の姿などない。

 そりゃそうだ。こんなダンジョンの奥底らしき場所を女の子が通りかかるわけもない。

 あるものといえば、オレが取り落としたスコップだけ。


「ちょっとあんた!!」

「ふぇっ!!?」 


 間違いない。そのスコップから、女の子の声がする!!


「えーと、お前がしゃべってるのか……?」

「なんで、こんな世界に道連れにしてくれちゃったのよぉお!!!」


 スコップはオレの質問には答えず、カタカタと震えながら、そんなふうにまくしたてた。

 いや、確実だわ。確実にこいつがしゃべってる。

 声質やしゃべり方からして、パーソナリティは女性のものらしい。

 なるほど、意思表示機能ってこういう……。

 まさにシャベル(喋る)スコップ。なんつって。

 でも、もしかしなくても、このスコップ怒ってるよな。

 学習園から半ば盗むような形で持って来てしまったわけだもんなぁ。


「いや、すまん。持ってくるつもりはなかったんだけど」

「言い訳は聞きたくないわ!! 早く返して!! 私を元の学習園に返して!!」


 よほど学習園に未練でもあったのか、スコップはご立腹だ。


「そうしたいのは山々なんだけど……」


 生憎、送り返し方がわからない。


「……まあ、あんたにそんなこと言ってもどうにもできないことはわかってるけどね。はぁ……」

 

 スコップってため息とかつけるんだな。

 どうやら、転生の経緯や事情に関しては、把握してくれているらしい。


「あのさ。スコップ……さん」

「……何?」

「女神が言ってた魔王ってやつを倒せばさ。もしかして、元の世界に返してくれるんじゃないかな」


 魔王討伐は転生モノのお約束の一つだ。

 例えば、異世界美少女に囲まれたハーレム生活が約束されたり、元の世界で大金持ちとして生き返ったり、なんていう褒賞が与えられることも珍しくない。


「チートってやつを持ってないあんたにそんなことできるわけ?」

「あはは、それ言われるとなぁ」


 オレもへこむんですが……。


「でも、この世界にはスキルってのもあるみたいだし、スコップさんがしゃべったみたいに、オレにも隠された力とかある可能性だって」

「んー、まあ、それ以外、方法がないんだったら、そうするしかないか」 


 スコップさんは、案外、気持ちの切り替えが早い方らしい。


「いいわ。あんたが魔王を倒すまで力を貸してあげることにする」

「ははー、ありがたき幸せ」

「うん、苦しゅうない」


 案外ノリいいな。


「じゃあ、さっそくなんだけど」

「ん?」

「地面、掘ろっか」

 

 顔がないのに、スコップさんのニヤリとした表情が目に浮かんだ気がした。

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