047.デュアル族
さて、ウエスタリアへと出立する朝が来た。
荷物の準備(といっても、ほとんどマジックボトルに突っ込むだけなのだが)を終えたオレ達は街の西門へとやってきた。
乗り物はあちらが用意してくれるということで、レナコさんから譲ってもらった荷車は置いてきたのだが、門から外に出て驚いた。
そこに止まっていた荷車があまりに大きかったからだ。
おおよそオレ達が普段乗っている馬車の3,4倍くらいの大きさはあるだろう。
その上、あの光沢具合から察するに、おそらく鉄製だ。もしかしたら、魔法の金属とかなのかもしれないが、仮に本当にただの鉄だとすると、その重量は下手をすると1トンを超えるんじゃないだろうか。
こんなもの馬何頭で牽くっていうんだ……。
「おおっ、来てくれたか、ディグくん、アンシィくん、フローラくん、シトリンくん!」
白い歯をキラリと光らせ、馬車の裏からミナレスさんが歩いてきた。
ミナレスさんは西冒険者組合の組合長的な立場の人だと聞いていたので、何人か同行者でもいるかと思っていたのだが、一人きりだ。御者の姿さえ見当たらない。
「おはようございます」
「ああ、おはよう!!」
にっかりと笑顔を浮かべるミナレスさんはやはりどこか体育会系部員の雰囲気がある。
「すっごい荷車ね!! でも、馬の姿が見当たらないけど」
アンシィが、あまりに立派な荷車を前に少し興奮している。
「ああ、こいつを牽くのには馬では間に合わんのでね。私の相棒に頑張ってもらう」
そう言って、ミナレスさんが胸元を開いた。
「うえっ!?」
あまりに意外な行動にびっくりしていると、ミナレスさんの胸を凝視していたオレの視界が唐突に遮られた。
そして、えらくモフモフした感触が、オレの顔全体を覆う。
「むぐっ!?」
「ピギィイ!!」
モフモフが鳴いた!?
少し下がって、その柔らかな感触から距離を取ると、そいつが何ものかがわかった。
鳥だ。だが、ただの鳥じゃない。3メートルほどもある巨大な鳥だ。
まるで冬場のスズメのように、まるまるとした体躯から生える足や羽は慎ましやかで、どちらかというと風船に手足がついているようなイメージ。
そんなバカでかくもどこか愛らしい謎の鳥が、オレの目の前に突然現れた。
「か、かわいいっ!!」
フローラはそのずんぐりむっくりな姿を見て、目がハートになっている。
まあ、確かに女の子が好みそうな見た目だなぁ。
「私の相棒の精霊鳥パドラだ」
「ピギィイ!」
パドラと呼ばれた巨大鳥が右の羽を上げる。
ミナレスさんの言葉に反応しているあたり、知能もかなりありそうだ。
「普段は小さくなって私の服の中に隠れているのだがね。こうやって必要な時は、本来の大きさになって、力を貸してくれる」
「へぇ……!」
それは便利だ。
MMORPGなんかでいうテイム系のモンスターって感じだろうか。
「荷車はこいつが牽いてくれる。では、さっそく行こうか」
ミナレスさんに促されるまま、巨大な荷車に乗り込む。
やはり鉄でできているようで、扉の重さもかなりのものだ。
これなら多少のモンスターに攻撃されたところで、まったく意にも介さないだろうが、果たして、本当にこんな重いもの牽けるのだろうか。
そんな風に思っていたオレだったが、まったくもってそんな考えは杞憂だった。
パドラが走り出すと、周囲の景色が、ものすごいスピードで通り過ぎていく。
体感で、乗用車と同レベルの速さがあるんじゃなかろうか。
その上、荷車のタイヤがゴムか何かでできているのか、非常にスムーズで、お尻がまったく痛くならない。
「パドラのスピードなら、ウエスタリアまで1日で着く。君たちはゆっくりと旅を満喫していてくれたまえ」
御者を務めるミナレスさんのお言葉に甘えて、オレ達は広い荷車の中で、快適な時間を過ごした。
さて、出発してから2度目の小休止を挟み、それから少し経ったころだったろうか。
「うわっと……!?」
突然、荷車が急停車し、進行方向に向いて座っていたオレは、耐えきれず前方に突っ伏した。
ぽよん。
「あっ……」
このあまりのも心地よく、甘美な弾力は……OPI?
柔らかい感触の持ち主──フローラと目線がばっちり交差する。
「だ、大丈夫ですか? ディグ」
プライベートゾーンにガッツリ体当たりをかましてしまったオレにも優しくそんなことを言ってくれるフローラ。やっぱりええ娘や。
とはいえ、ほっぺたは仄かに赤く染まっている。早く離れてあげねば。
前方へのGが収まると、不格好な姿勢でフローラの胸に頭を預けていたオレは、慌てて離れようとして……フローラの腹部をガッツリつかんでしまった。
ぷにっ。
「きゃああああああああああ!!!!」
「ひげぇえええええ!!?」
フローラの平手打ちで、オレは馬車の外まで吹き飛んだ。
うぉおお、痛てぇええ……。
胸に突っ込んでしまっても怒らなかったから油断していた。そっちが地雷だったのか。気をつけねば……。
でも、フローラ、意外とお腹の肉が……いや、触れないでおこう。
「ディグくん、大丈夫かい?」
御者台から降りてきたミナレスさんが、オレの手を取って立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます」
「すまないな。街道にハイエナどもが現れたようで」
「えっ?」
周囲を見る。
いつの間にか荷車を中心に、魔物たちの輪ができていた。
30体以上はいるだろう。ほとんどの魔物は狼のような見た目をした鋭い牙を持つものだが、ホビットのような見た目で弓を番えた者も数匹後ろに控えている。
「やはり、増えてしまっているなぁ」
「何か理由が?」
「単純に狩り不足さ。まあ、こんな現状を君に話すのは恥ずかしくもあるのだが……。とはいえ、まずは、こいつらの駆除からだな」
「手伝うわよ!」
荷車からアンシィ達が下りてきて、それぞれに構える。
だが、それを制するように一歩ミナレスさんが前に出た。
「ミナレスさん?」
「良い機会だ。ここは私に任せてもらおう」
そう言うと、ミナレスさんは背中に背負っていた、巨大なバスタードソードを引き抜く。
手で構えてみると、まさにでっかい鉄塊をそのまま振り回している感が強すぎて、ものすごい威圧感だ。
「デコイ!!」
ミナレスさんが叫ぶと同時に、彼女の身体が一瞬赤く発光する。
すると、荷車やオレ達それぞれを狙ってたらしい狼達が、一斉にミナレスさんの方に飛び掛かった。
6匹の狼型モンスターが波状攻撃でミナレスさんに襲い掛かる。
「ぬぅんっ!!」
しかし、その6匹をミナレスさんはたった一振りで肉塊へと変えた。なんて膂力だ。
そのままミナレスさんは、オレ達から距離を取るように前に出る。
再び数匹の狼型モンスターの襲来、それをまた一振りで葬り去るものの、大ぶりゆえに、その隙をついた2匹が背後から襲いかかり、プレートアーマーに牙を突き立てた。
だが……。
「効かん」
全くダメージを受けていない様子のミナレスさんは、バスタードソードの柄で、強引に2匹の魔物を殴り飛ばした。
あまりの脳筋プレイっぷりに、思わずあんぐり口を広げてしまう。
この人、攻撃力も防御力もその辺の冒険者とはけた違いだ。
まさに、無敵、かと思われたミナレスさんだったが、今度は遠距離から何本もの矢が降り注いだ。
ホビット型モンスター数匹の一斉斉射だ。まさに雨あられと降り注ぐその矢をミナレスさんはバスタードソードを盾にしてしのぐ。
しかし、それで手いっぱいのようで、身動きが取れない。
「ディグくん、御覧の通り、私は重騎士という名の前衛職だ。圧倒的な膂力とタフネスが自慢だが、鈍足だし、リーチも短い。つまり遠距離からこうやって攻撃されると弱い」
口では、弱いなどと言いながらも、ミナレスさんの顔には全く焦る様子もない。口調もスラスラとしたものだ。
「だから……ここはもう1人の私に任せる」
へっ、もう1人の……?
瞬間、ミナレスさんの金の髪が艶めき、水色へと変わる。逆に水色だった瞳は、金のそれへと変化する。
スラリと長身だった身体は少し縮み、アンシィやフローラと同じくらいの体格になった。
顔立ちも、ベースは変わっていないが、どことなく美人系から可愛い系に変化している。
さらに、装備していたプレートアーマーはいつの間にかミニスカートの魔女っ娘のようなものに変わっていた。
なんだ、これ……?
「いっくよー!!」
雰囲気を大きく変化させたミナレスさんは、地面に突き刺したバスタードソードをそのままに、大きく後ろへと飛びづさった。
その右手には、いつのまにか小ぶりなワンドが握られている。
「彼の者たちを駆逐せよ!! ライトニングボム!!」
簡単な呪文とともに、ワンドからまばゆく光弾が発射されたかと思うと、次の瞬間、目も明けていられないほどの光の奔流が街道を包み込んだ。
再び目を開けたとき、そこには、黒焦げになって、倒れ伏すホビット型モンスターの山があった。
「よっと!」
強力な魔法で一瞬で、モンスターの群れを蹴散らした碧髪金眼のミナレスさん? がオレ達の元へとやってくる。
「えっと、ミナレスさん……?」
「そうだよ! 私はもう1人のミナレス! 光魔導士のミナレスちゃんだよ!」
両指でえくぼを作りながら、ミニスカ魔女っ娘姿のミナレスちゃんはとてもキュートな笑顔で宣った。




