043.転生者として
さて、祝勝会は本当に夜通し続き、翌朝。
オレ達は早々に酔いつぶれたので、かえってすっきりした気持ちで目覚めたのだが、朝まで飲み続けたアンシィとレナコさんは完全に潰れていた。
レナコさんも相当な体力だけども、さすがに二徹の上に酒だもんなぁ。
トルソーの促しもあり、レナコさんが寝ているうちに、オレ達はお暇することとした。
「でも、本当にこれもらっちゃっていいんですか?」
「ええ、構いません」
トルソーが譲ってくれたのは、馬車の荷車である。
一昨日、嵐帝の渓谷まで行くときに使った馬車とはまた別のもので、大きさは同じくらいあるが、装飾が少なく、実用性が重視されている。
「こちらの馬車は今はほとんど使っていませんので、ディグ様達に使っていただけた方が助かります。それと、マジックボトルの方に普段用の衣服を何着か入れさせていただきました。皆様の分、ご用意しておりますので、また、ぜひ、ご着用下さい」
「本当に何から何までありがとうございました!」
「こちらこそ、久しぶりにあんなに楽しそうなマスターが見れましたよ」
トルソーが薄く笑う。
「ディグ様、我がマスターはあのような性格ではありますが、腕は確かです。また、何か困ったことがあれば、ぜひ、お立ちよりください」
「ありがとうございます……その、レナコさんもですけど、トルソーも」
「ディグ様は、僕のようなモノにもお優しいのですね」
「当然じゃないですか。これだけ世話になったんですから」
「ですが、転生者であるディグ様でしたらわかる通り、僕は元々ただの縫い針ですよ」
「アンシィが相棒のオレに、それ言います?」
オレはガシッとトルソーの手を掴んだ。
「本当に、ありがとうございました!」
「…………なんとなく、ディグ様がフローラ様達に慕われているのがわかる気がします」
「なんすかそれ?」
「私見です。僕ともあろう者が、無駄口を叩きました。マスターが起きないうちに、そろそろ出立を」
「そうですね。おい、アンシィ」
「もぐもぐ……ん?」
アンシィの口に無理やりレフォレス村でもらった酔い覚ましの葉っぱを加えさせると、ようやく覚醒した。
「ほら、帰るぞ。スコップにチェンジだ」
「あ、うん……」
まだ、状況が半分くらいしかわかっていないようだったが、アンシィはスコップモード剣にチェンジした。
そのままオレは、金具でがっちりアンシィの柄の持ち手の部分と荷車を固定する。
「これでよし」
「待って! これアタシが引っ張るパターンの奴!?」
「不服か?」
「いや、やる! めっちゃ飛ばしてやるわ……!」
なぜかアンシィはやる気満々だ。
よほど、新しく得た加護の力を試してみたいらしい。
「じゃあ、トルソー、レナコさんによろしく!」
「ディグ様、アンシィ様、フローラ様、シトリン様……皆さまお元気で!」
控えめに手を振るトルソーと別れを告げ、オレ達は空飛ぶアンシィに引っ張られて、一路ドーンの街へと帰っていった。
「ってなことがありましてね」
「あら~、今回も大冒険だったじゃない~」
薬屋のカウンター越しに、オレはアパタイさんに今回の冒険のあらましを語っていた。
トルソーさんと別れてからまだ5時間ほどしか経っていない。
アンシィの飛行能力による移動は、思った以上に速かったのだ。
これからはどこに行くにもこれで行くのがよさそうだ。
「あ、これが作ってもらった妖精服です」
「あら~、ありがとう~!! さっそく着せてみるわ!! ロキちゃ~ん!!」
妖精が店の奥からやってくる。
「ロキちゃん、ほら、新しいお洋服よ。お着がえしましょうね~」
ロキが着ていたワンピースを脱ぎ、レナコさんに作ってもらった服に着替える。
一度ほぼすっぽんぽんになるが、さすがに幼女体系の妖精に欲情はしねぇぜ。
レナコさんが作ってくれた妖精服は、緑を基調にしたポンチョ風のもので、布地は多いが、あの絹を使っているためか、やぼったい感じがせず、涼しげだ。
羽を通す穴まで開いている辺り、さすがのひとこと。
「まあ、かわいいわ~!!! ロキちゃん!!!」
ロキも新しい服にご満悦のようで、嬉しそうに飛び回っている。
アパタイさんにも満足いただけたようでなによりだ。
「それにしても、シトリンちゃんもずいぶん可愛くなっちゃって~」
「あ、ありがとう……」
新しい服になってから、褒められ続けているシトリンは、また、顔を真っ赤に染めた。
うん、でも、やっぱレナコさんはさすがだわ。
冒険者としての機能性を考えながらも、これだけシトリンに似合うかわいい服を作ってくれるのだから。
そういえば、帰ってきたとき、街の人たちも「誰だ、あの美少女……」みたいな顔で見ていたなぁ。
これからはいくらでも街にいられるわけだし、街のみんなにもシトリンの素敵さを知ってもらいたいな。
「あ、そうそう~。ディグちゃん、あなた達がデゾメアの街まで行っている間に、冒険者協会の人が来たのよ~」
「え、ギルドの人が?」
なんだろう。特に、何かクエストを受注中だったわけじゃないと思うんだけど。
「また、行ってみるとよいわ~。ここに来たお嬢ちゃん、なんだかとても興奮している様子だったから、たぶん悪いことではないわよ~」
「そうですか」
まあ、今日はさすがに疲れたし、また、明日辺り、みんなでギルドに行ってみるとしよう。
新生シトリンのお披露目にもちょうどよいだろうし。
それにしても、今回の冒険は意図せず、いろいろなことがわかった冒険だった。
転生者であるレナコさんとの出会い。
そして、まだ、出会っていないあと3人の転生者。
それに自分の力不足も痛感した。
レナコさんとトルソーのように、オレ達ももっと強くなれるだろうか。
「なあ、アンシィ」
「もぐもぐ……ん? なに?」
「オレ達、もっと強くなれるよな?」
アンシィは即答した。
「当然じゃない!」
最初はまともな武器で戦いたかったオレだったけど、今は、こいつと一緒にどこまでも強くなりたい。
そんな風に思い始めていた。