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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第4章 アイツにヌエないモノはなし!
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040.虹色蚕を求めて

 嵐帝の渓谷は、デゾメアの街の北東に位置する。

 レナコさんが手配してくれた中型の馬車で2時間ほど乾いた大地を進むと、現実世界でいうところのグランドキャニオンのような大渓谷が目の前には広がっていた。


「ここが嵐帝の渓谷よ」

「こ、この奥まで行かなきゃならないんですか……?」


 見渡す限り続く渓谷の様子に、思わずしり込みしてしまう。


「虹色蚕がいるのは、そこまで深い場所じゃないわ。ただ、魔物もかなりの数いるから注意するのよ。戦いは任せるから」

「わ、わかりました……!」


 アンシィをスコップモードにして身構えると、オレ達はレナコさんに促されるようにして、渓谷を進む。

 先頭がオレとアンシィ、その後ろにフローラ、シトリンが続き、最後尾にレナコさんとトルソーさんだ。

 渓谷の谷に近い部分には、人が通れるほどの一本道があり、そこを進んでいく。

 ある程度は人間の手が入っているのか、この辺りはまだすいすいと歩いて進めた。

 しかし、歩きやすいということは、魔物に発見されやすいということでもあり、歩いて数分後にはさっそく、オレ達の元に魔物がやってきた。


「コンドリオンね」


 レナコさんが名指しする通り、そいつの見た目はコンドルのようだった。

 ただし、本来禿ているはずの後頭部や羽の先端には鋭く尖った刃が突き出しており、おそらく飛行しながらあの刃で相手を切り裂くことを得意としているのだろう。

 そんな予想を立てている間に、コンドリオンは滑空攻撃を仕掛けてきた。


「砂かけ!!」


 オレはアンシィを使って、コンドリオンに砂をぶちかけた。

 飛行型の魔物の滑空は基本的に直線的な攻撃だ。

 ルートが丸わかりだから、オレの砂かけも容易に当てられる。

 その上、自ら砂かけに突進する形になるので、効果も倍増だ。

 大量の土をぶちかけられて、奴の体勢が崩れた。

 再び持ち直すまでのわずかな間を逃すオレじゃない。


「おらぁ!」


 アンシィを使ったフルスイングの一撃で、コンドリオンは動かなくなった。

 うん、今のオレのレベルなら、この程度なら脅威にならない。


「ほらほら、まだまだ来るわよ」


 レナコさんが言うように、コンドリオンはその1匹だけではなく、気が付けば、5,6匹がまとめて、こちらに滑空してきていた。

 1対1なら負ける要素はないが、確かに複数で来られると少し辛い。

 だが、相手と同じように、こちらも複数だ。


「フローラ! シトリン! 任せた!」

「はい!」「ああ!」


 フローラがもはや十八番となりつつあるホーリーチェインで、コンドリオンどもをまとめて捕縛する。

 しかし、範囲を広げたことで、捕縛力は低い。

 身体をよじって、無理やり光の鎖を引きちぎろうとするコンドリオンどもだが、その一瞬の隙をついて、シトリンの風の刃が奴らに直撃する。

 シトリンが起こしたかまいたちのごとき烈風は、奴らの身体を容易に引き裂いた。


「へぇ、なかなかやるじゃない。君達」

「まあ、これでも、魔人もやっつけたことありますし」

「頼りになるわ。どんどん行きましょう」


 その後もオレ達の快進撃は続いた。

 一本道ゆえに、魔物を回避することもできず、様々な魔物に出会った。

 例えば、齧歯類の前歯が超絶に進化して、地面につくほどの長さになったハードスクォーロル、見た目の愛らしさに反して、鋭い爪でのひっかき攻撃を得意とするホールベアー、悪魔のように巨大でうねった大きな角で突進してくるビックホーンシープなどだ。

 どの魔物も以前であれば脅威であったが、今は危なげなく退治できている。

 それはやはり、パーティにシトリンが加入したことが大きいだろう。

 近接攻撃型のオレ、回復支援型のフローラ、そして、遠距離万能型のシトリン。

 これが思った以上にバランスがよい。

 オレ一人では、捌ききれないときでも、後ろからシトリンの魔法で援護、攻撃してもらえるのは非常に大きい。

 戦闘バランス的な意味でも、シトリンに加入してもらえたのは僥倖以外の何物でもなかった。


「さて、そろそろ嵐帝竜の縄張りに入るわ」


 探索を開始して2時間近く経ったころ、レナコさんが言った。


「見つからないよう迂回路に入るわ。そこの川を渡るわよ」

「え、ここですか……?」


 オレ達が進む谷底近くには、激流が流れている。

 確かに対岸には道らしきものがあるのだが、この激流を果たして無事に渡り切れるものか……。


「トルソー」

「はい、マスター」


 レナコさんの呼びかけに、トルソーさんの腕がまるでロープのように細くなり、伸びた。

 そのまま対岸まで伸びると、壁に突き刺さって、ピンと張り詰める。


「さあ、僕の腕を伝って対岸まで」


 グッと踏ん張りながら、トルソーさんは言った。

 トルソーさんもアンシィと同じだとは言っていたけど、いったいなんの道具なんだ?


「さあ、さっさと進むわよ」

「あ、はい」


 聞く間もなく、尻を叩かれるようにして、オレ達は激流を渡る。

 身体が持っていかれそうなほどの勢いだが、トルソーさんの腕ロープのおかげで、なんだかんだ無事に対岸までたどり着いた。

 全員下半身濡れねずみだが、最後のレナコさんだけは、トルソーさんが肩車をして、濡れずにこちらまで到着した。

 なんだか、ちょっとずるい。


「こっちのルートなら、接触する可能性は低いわ。さっさと行くわよ」

「はーい」


 ぽたぽたと水を滴らせながら、返事をするオレ。

 まあ、この晴天だ。そのうち自然と乾くだろう。

 いや、だが、それにしても……。

 水に濡れたことで、フローラとシトリンの衣服がぴったりと肌に張り付いていた。

 激流を超えたことで、少し荒い息をしながら、べたつく服をパタパタしている二人の姿は……正直、なかなかエロイ。

 特にフローラは、ブラが透けて、なかなか素敵なことになっている。

 やっぱりでかいな……最近太ったとか言ってたけど、確かにますますでかくなっている気がする……。

 対してシトリンはほんのささやかなのだが……あのポッチはもしかして……。


「フローラ様、シトリン様、こちらのタオルをお使い下さい」

「あ、ありがとうございます……!」

「助かる」


 紳士的なトルソーさんが、どこから取り出したのか、二人にタオルを渡したために、本日の眼福タイムは終了しました。

 残念そうな顔が表に出ていたのだろうが、トルソーさんはこちらを見て、にっこりと笑った。わかっててやったな、この人。


「ほら、もたもたしてる暇はないわよ!」


 レナコさんの一声で、探索再開だ。

 こちらのルートはそもそも魔物もあまりいないのか、かなりすいすいと進めた。

 途中には、再び川の中を渡る場所があったり、鍾乳洞のような場所を通ったり、はたまたかなり急な崖をほんの20センチほどの足場を伝って移動したりと、魔物以外のことで冷や冷やする場面も多かったが、1時間もする頃にはようやく目的地に到着することができた。


「ここが……!」


 オレ達の目の前には、とても谷底とは思えないほどの緑が広がっていた。

 小川が流れ、樹木が育ち、草花が生い茂る。

 唯一違うのは、すべての作りが大きいということだろうか。

 花なんかはつぼみの一つ一つがオレの顔よりも大きい。

 さすがに大渓谷に咲く花はそれなりの大きさだということだろうか。

 そんな中、件の桑畑を探す。

 しかし、桑の木を見つけるよりも早く、目的の繭の方が見つかった。

 なにせ、それは超巨大だった。

 おそらく2メートルほどはあるだろう。

 艶めき煌くその質感は、まさしく、絹のそれに間違いない。その上、光の当たり具合によっては、様々な色に変化する。

 なるほど、これが虹色蚕という名前の由来か。


「凄い大きさですね……」

「これ一つで、たくさんの服が作れそう」

「魔道具のついでに、シトリンちゃんの服も作ってあげるわよ。ついでにあんたらが世話になってる薬屋の店主の依頼の服もね」

「やったぜ! あ、でも、繭ってことは中に蛹がいるんじゃ……」

「その点は、持ち帰った後、こちらで処理しますので、ご心配なく。それよりも……」


 トルソーさんが、空を見上げる。


「マスター」

「ええ、来たわね」


 二人に倣ってオレ達も空を見上げる。

 先ほどまでは何も見当たらなかった青い空に、黒い何かがうごめいていた。

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