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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第4章 アイツにヌエないモノはなし!
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039.シトリンとレナコ

 街の外に出る頃には、すでに辺りは暗くなり始めていた。

 街道を少し歩くと、ガサっという音がして、木の上からシトリンが飛び降りてきた。

 

「シトリン、遅くなってごめん」

「いや、構わない。それより色々……大変だったようだな」


 どこか察しているような表情を浮かべるシトリン。

 あれ、もしかしてだけど……。


「"視て"たのか?」

「…………ああ……すごく可愛かった」


 うぁああああああああああああああ!!!

 シトリンにまで、あの姿が見られていたとは!!

 もうお嫁に……じゃなかった。お婿に行けない!!


「可憐という言葉は君のためにあったのだな」

「頼むから茶化さないでくれ……。とりあえず、シトリンのための魔道具を作ってもらえることになったよ」

「そうか! いろいろ苦労をかけてしまったようで……すまん」


 まじめに深々と頭を下げるシトリン。


「いや、ほとんどはアンシィとフローラのおかげだから」


 オレは足引っ張っただけだし。


「そんなことはない。ディグにも本当に感謝している」


 そう言って、オレの胸にがっつり頭を寄せるシトリン。


「ありがとう」

「あっ、いや……」


 額をオレの胸につけて、眼を閉じたシトリンからの感謝の言葉に、なぜか胸が高鳴る。

 というか、なんかシトリン密着が強すぎませんかね。


「シ、シトリン……?」

「すまない。ほんの半日ほどに過ぎないのに、君と離れていたのを少し寂しく感じてしまった」

「え、えっと……」

「森で暮らしていた頃は、人恋しさなど感じることはなかったのだが……」


 あんにゅいな表情で、オレを見上げると、彼女の三つ目の瞳が否応なく目に入る。

 彼女自身の美しさもさることながら、やはりこの額の瞳もまるで宝石のように美しい。

 どこか惹き込まれるような魔力を感じる。


「困らせるつもりはないんだ……。ただ……もう少しだけ、こうしていても良いかな……?」

「う……うん……」


 どもりながらも答えると、シトリンはさらにグッとオレの胸に額を押し付けた。

 第三の瞳が触れるその感覚が、なんだか少しこそばゆい。

 なんだろう。この愛おしい感覚。

 ついつい抱きしめそうになって、ハッと手を止めた。

 いかんいかん。さすがにそれはまだまずい。

 でも、ほんの少しだけなら……。

 オレは、シトリンの滑らかな金の髪を少し撫でた。


「あっ……」


 一瞬だけ、彼女はわずかに身を震わせたが、嫌がるそぶりはなかった。

 そのままそっと肩を──


「おーい!! シトリーン!!」


 街の方からアンシィとフローラの声が聞こえ、オレ達は慌てて離れた。


「もう、ディグ、先に行くなんてひどいじゃない。ほら、レナコさんが宴会の食べ物包んでくれたわよ! 一緒に食べましょう! ……って、どうしたの、二人とも。赤い顔して」

『なんでもない!』

「そう……?」


 頭上に疑問符を浮かべるアンシィ。

 にっこりと微笑むフローラからは、少し威圧感を感じる。なぜだ?

 シトリンが街に入れないこともあり、その日は、野営をすることとなった。

 初めての野営は、なかなか大変なこともあったが、やはり4人だと楽しいもんだ。

 とはいえ、早くシトリンとも街の中で、楽しく過ごしたいものだ。




「ちょ、待って……この娘がシトリンちゃん……?」

「そうだが」

「きゃああああああ、かわいいいいいいいいいい!!!」


 素早い身のこなしで、レナコさんがシトリンに抱き着いた。


「この娘おいくら!?」

「売り物じゃないです」


 真顔で突っ込むと、さすがにレナコさんも少し冷静になった。


「あまりに可愛すぎて、つい美少女を物扱いしてしまったわ。反省反省」

「で、シトリンの瞳の魔力を遮断する魔道具は作れそうですか?」

「そうねぇ……。トルソー」

「はい」


 トルソーはシトリンの目の前までやってくると、手をかざした。


「ものすごい魔力を秘めた瞳ですね。なるほど、並の魔道具では、効果を多少抑えるのがやっとでしょう」

「そんなぁ……」

「落胆する必要はありませんよ、ディグ様。要するに、"並ではない"魔道具を作ればよいのです」


 トルソーさんがそっとレナコさんの横に立つ。


「我がマスターの魔道具製作技術であれば、シトリン様の魔力を抑える眼帯、あるいはサークレットを作ることも不可能ではありません。ただし、それには材料となる魔力遮断性の非常に強い繊維が必要となります」

「なに、あれが必要なレベルなの?」

「ええ」


 あれとはなんぞや。


「街の北にある渓谷に、虹色蚕という魔物が群生しています。その魔物が作る繭は、魔力を遮断する特別な絹を作るのに最適なのです。それさえ収集できれば」

「で、でも、普通、蚕の繭から絹を作るのって、結構な時間がかかるんじゃ……」

「その辺りは、ある程度、魔法で工程を飛ばすことができます。そうですね……マスターの縫製の時間も含めて、半日もいただければ」

「半日……!?」


 凄い。そんな簡単に魔法の眼帯をつくってしまえるとは。


「作るのはドーンと私に任せない。シトリンちゃんに似合う、デザイン性も豊かな魔道具を作ってあげちゃうわ。ただ、繭を採りに行く方がたいへんだから、そこは覚悟しときなさい」

「そんなにレアなんですか?」

「そんなことはないわ。渓谷の桑畑に行けば、繭なんてゴロゴロしてる。たいへんなのは、そこにたどり着くこと、そして、そこから無事に出ることよ。なにせ、桑畑は竜帝の縄張りだからね」

「竜帝……」


 そういえば、オレ達が最初に出会った竜も「炎帝」という名だった。

 この世界には、竜帝という強力な竜が存在するようだ。


「どんな竜なんですか?」

「嵐帝竜サンダーストームドラゴン。雷と風を司る竜帝よ。単純な戦闘力じゃ、普通の魔物なんかとは比較にならない」


 ごくり、とつばを飲み込む。

 仮に炎帝竜と比肩するほどの実力だとすれば、あの化物蜘蛛たちを一瞬で屠った、あれくらいの火力があるということだ。

 あんなもの受けたら、オレたちなんて一瞬でご臨終だ。


「出会うと面倒なことになるわ。だから、少し時間はかかるけど、迂回ルートを通って、桑畑に向かいましょう。私たちも何度か通ってる道だからね。一緒に行くわ」

「助かります!」


 こうして、オレ達は、虹色蚕のいるという嵐帝の渓谷へと行くことになった。

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