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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第4章 アイツにヌエないモノはなし!
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037.艶姿三人娘

 ボクの神視眼はボク達の種族が誕生したときに、女神様から与えられた万能の瞳だ。

 "視る"ことや"読む"ことに関する様々な機能を有している。

 例えば、心読(しんどく)。近くにいる人間が考えていることを読み取るスキルであるが、制御が難しく、現状、ディグ達と共に行動するにあたって、大きな障害になっている。

 例えば、透視。その名の通り、物体を透過して見ることができたり、あるいは、魔力の流れなど、人間には感知しがたいものをはっきりと見る力だ。この力はあの魔人竜との戦いでも大いに役立った。

 例えば、千里眼。千里ほども離れた場所の状況を、第三者視点から見ることができる。

 ディグ達と別れてから、ボクは、近くの森の一番高い木の枝の上から、この千里眼の力を使い、街の様子を眺めていた。

 風の魔法である程度の音も遠方から拾えるボクではあるが、さすがに今日は人が多すぎて、狙った会話を拾うことが難しい。

 それでも、断片的に、今日はBDCというファッションショーが行われており、多くの人がそれ目当てで街を訪れているということがわかった。

 そんな中、ディグ達は無事、件の魔道具職人と出会えたようだが、なぜかBDCに出演する流れになっているようだった。

 どうやら、探していた魔道具職人は、BDCに出演するデザイナーでもあったようだ。 

 詳しい流れはわからないが、アンシィとフローラの雄姿はこの目に納めなければならない。

 BDCは街の中央にある円形広場で行われる。

 会場は超満員、広場の隅々まで人々がいきわたり、今か今かとステージへ熱い視線を向けている。

 そして、ついに開幕だ。

 オープニングアクトは長身の美女たちによるダンスだった。

 扇情的な衣装を着たセクシーな女性と、黒衣を羽織って男装した女性のペアが4組、一糸乱れぬダンスで、観客を引き込む。

 簡易的な魔法による光の演出もあって、にわかに会場のボルテージは上がっていく。

人の心を読める自分は、このようなイベントがあるということ自体は知っていたが、実際に見てみると、また、印象が違うものだ。

 次々と様々な格好をした美少女達が、華々しく見栄を切って歩いている。

 ただ、モデルが衣装を着て歩くだけではなく、ちょっとした活劇的なことをやってみたり、スモークを焚いてみたり、演出的なものもちらほらとある。

 中でも、9組目に出てきた3人の衣装は凄かった。

 派手さという意味では他の追随を許さない。

 何せ、まず、サイズが違う。

 青みがかったスケルトン仕様のワンピースの背中からは驚くほど大きな天使の翅が生え、ランウェイの両サイドから余裕ではみ出している。

 もちろん元々天使の翅をもつ種族というわけではなく、そういった衣装なのだ。

 ワンピース自体も、魔力が込められており、淡く発光しているさまは、昔見た、電気クラゲに少し似ていた。

 衣装の重さをモデルの膂力だけでは支えられないためか。二人の黒子が支えている。

 個人的には、これはファッションではなく、仮装なのではないかと思っていたのだが、会場は大いに盛り上がっている。

 こういったものもありらしい。

 同じデザイナーの他の2着も実に派手で、大きかった。

 今のところ、会場の盛り上がりは、このビッグサイズな3人が一番だっただろう。

 

「あっ……!」


 思わず声が漏れた。

 いよいよ出てきたのはアンシィだった。

 しかし、いつもの装いとはもちろん違っている。

 ひまわりの花を模したオレンジ色のワンピース姿だ。

 回るとふんわりと裾が広がり、健康的なふとももがちらりと見える。

 帽子には実際にひまわりのブローチがついており、それもまた目を引く。

 ひと夏の少女の想い出。

 快活さの中に、どこか一瞬の輝きを閉じ込めたかのようなそのコンセプトは、アンシィの醸す雰囲気にとてもマッチしている。

 やはりこうしてみると、アンシィのスタイルは本当に男性から見ても、女性から見ても理想だな。

 くるりと回ったアンシィは普段通り。はじめてのランウェイにまったく気負う様子もない。さすがだ。

 だが、会場は静まりかえったままだ。

 いや、違う。

 みんなアンシィの可憐さに見惚れているのだ。

 ポンっと音がすると、ランウェイに花道を作るように、たくさんのひまわりが咲き乱れる。

 魔法による演出だろう。

 アンシィは花で彩られたランウェイを元気いっぱいに歩く。

 するとどうだろう。

 ようやくフリーズが解除された観客達から嬌声が上がった。

 たくさんの人の応援でテンションが上がったのか、アンシィはランウェイの一番先まで来ると、思いっきりジャンプしてバク宙を披露した。

 スカートがきわどく翻る……というか、場所によっては中身が見えてしまっているだろう。インナーを履いていることを願う。

 さすがにやりすぎだろう、と思ったが、わんぱくな印象が功を奏したのか、会場の盛り上がりもなかなかどうして悪くない。

 そのまま底抜けの笑顔を振りまきつつ、アンシィは駆け足でランウェイを戻っていた。

 すると、一瞬、ランウェイが暗転し、今度は青白い光で照らされた。

 そのまぶしい光の中から、一歩ずつゆっくりと女性のシルエットが現れた。

 フローラだ。

 普段とは違い、両サイドの髪を結っている。

 着ている衣装は、ウェディング風の豪奢な純白のドレス。

 とはいえ、一般的な結婚式で着るそれとは違い、前がミニになったトレーンスカートで、その白いふとももが露わになっている。ドレープのラインも美しい。

 上半身も肩や胸元がかなり露出しており、全体的に扇情的ではあるが、なぜか下品さを感じさせない。

 むしろ、フローラの内面の貞淑さが現れており、清楚ささえ感じられる。こんなに肌を出しているのに不思議だ。

 会場のあちらこちらから「女神だ」という言葉が聞こえてきた。

 もしかしたら、本当にボクたちを生み出した女神様と同じくらい美しいかもしれない。

 フローラは少し緊張しているのか、頬を赤らめながら、ゆっくりゆっくり歩を進める。

 その様子がまた、慎ましやかな印象を与え、モデルと衣装と動きの一体感が高まっている。

 もしかしてこれも演出なのだろうか。

 ランウェイの先までたどり着いたとき、フローラは手に持っていたブーケを投げた。

 いわゆるブーケトスというやつだろう。これはボクでもわかる。ずるい。

 案の定ブーケの元に男女問わず様々な人々が殺到した。

 もうみんなフローラの魅力にメロメロだ。

 名残を惜しむように、たくさんの……特に男性から手が差し伸べられるが、それを後ろ手に感じつつ、フローラはランウェイの奥へと戻っていった。


「アンシィ、フローラ……素晴らしかったぞ」


 手放しで賞賛できる二人の艶姿に、自分の中で、最大級の賛辞を贈る。

 さて、これで、注目すべきはもう終わりかと思ったそのとき、最後のモデルが会場へと現れた。

 オリエンタルな空気を醸し出す、長い黒髪の女性だ。

 扇という東方の儀礼などで持ち入れられる祭事道具で顔を隠している。

 いわゆる打掛という派手な着物に似た衣装を纏っているが、ミニスカートであったり、元より砕けたアレンジがされている。

 それにも関わらず、元々の衣装が持つ、豪華絢爛なイメージはそのままだ。

 魔法によって浮かんでいるのだろう。7色の半透明の布や東方の花をイメージした桃色の花弁が、ふわふわと周囲に漂っているのも、神秘的な雰囲気を醸している。

 衣装に、演出効果、さらに前2人にとんでもない美少女とそれを引き立てる衣装が来たことで、観客の期待は否が応でも高まっている。

 最後のモデルは、袖を、スカートを揺らしながら、くるくると回転しながらランウェイの先端までたどり着いた。

 そして、もったいつけるように、その身にシナを作って、片膝立ちになる。

 腕と腰で作る、三角のラインが美しい。

 そうして、十分に観客達を焦らした後、その顔を隠す金の扇を取り払った。


「…………っつ!?」


 とんでもない美少女だった。

 アンシィやフローラも相当な美少女だと思っていたが、ボクの主観では、魅力の方向性では、あの2人さえ凌駕している。

 妖艶かつ可憐、老巧かつ無垢、怜悧かつ篤行。

 相対する二つの要素が、見事に調和したかのような、完璧な造形美。

 もはやこの少女は芸術作品と言っても、過言ではないのではなかろうか。

 いや、だが、待て……なぜだ……なぜ、既視感を感じる……?


「…………ディグ!?」


 人より遥かに認知能力が高いと自負しているボクでも、それに気づくのに、かなりの時間を要した。

 それほど、ディグは上手く化けていた。

 女の子にしか見えないなんてレベルじゃない。

 絶世の美女という言葉ですらまだ温い。

 この世で一番の美少女なのではないかというくらいに、ディグの女性としての容姿は極まっていた。

 もっとも、ディグだとわかってから冷静に観察してみれば、ディグ本人の凄さはもちろんだが、それを手引きした人物の手腕に唸らされる。

 おそらく男性的なパーツを極力見せないようにミニスカートではあっても、オーバーニーソックスを履かせて、太もものみの露出にとどめたり、首元や肩なども、長い髪やお団子頭、金のかんざしなど、目を引くパーツによって、女性として見るには、たくましい筋肉に気づかれにくいようにしている。

 アンシィを使った作業で、常日頃から豆だらけになっている手のひらも、黒のグローブをはめることで上手く隠していた。

 全体的に見て、気づいて欲しくないところを目立たなくし、持ち前の顔の造形や細くて滑らかな太ももなど、ディグの武器になる部分にしっかりと注目が行くように考えられている。

 さすが、としか言いようがない。


「これは……もう決まりだな」


 案の定、ディグがランウェイを戻り始めると、観客から悲しみの声が叫びとなって表出した。

 それほど、皆、ディグの……そして、ディグを演出したデザイナーの神技に魅了されていた。

 さて、結果は観客投票によって決められるということだが、神視眼を持つボクでなくても、すでに勝負は見えていた。

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