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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第3章 オレにサカせぬハナはなし!
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027.記憶

 竜血石2発分。

 その上、シトリンの風魔法による後押しを受けた爆発は、恐ろしい威力だった。

 周囲に真空の膜を張り、環境やオレ達自身への被害を最小限に食いとどめた上で、逆に奴の周囲には空気を濃縮させ、火力を大幅に上げていた。

 魔法の事はそれほど詳しくないが、恐ろしく緻密な魔力制御をしていることは間違いない。

 やはりシトリンは只者じゃない。

 爆発は奴を中心に火柱のように燃え上がり、その火力はキングシュロマンダーを倒したとき以上であるのは明白だった。

 あまりの激しさに、こちらへは余波さえないというのに、思わず二、三歩後じさってしまうほど。

 数十秒後、その場に残っていたのは、炭化した奴の身体のみだった。


「凄すぎるだろ……」


 少しずつ灰となって崩れていく奴の姿を見ながら、さすがにやりすぎたのではという思いが少しだけもたげてくる。

 焼き畑状態になってしまったが、あの辺りに植え替えて大丈夫だろうか。


「いや……まだだ!」


 辺りの様子を覗おうと、一歩踏み出したオレをシトリンが手で制した。


「えっ……でも……?」

「魔力を感じる……奴はまだ生きてる……!!」


 奴の身体はすでに朽ちている。

 見た目からそれは明白だ。

 でも、シトリンの必死な表情を見て、オレはアンシィを構えた。

 そうだ。

 あれだけの強さの魔人を倒したのに、オレもフローラもレベルアップをしていない。

 ということは、やはり……。

 瞬間、奴の炭化した死体があった地面が、爆ぜた。


「なっ……!?」


 土を吹き飛ばし、現れたのは、のっぺらぼうの化け物だった。

 いや、あの色、肌の質感は根だ。

 本体よりもずっと大きいそれは、うねうねとうごめくと、絡み合い、引き合い、形を作っていく。

 繊維と繊維がきしむギリギリという音が絶え間なく続く。

 数秒の後、そこには人型の魔人が立っていた。


「根が本体だったのか……?」

「どうやら攻撃を受けた瞬間に、根の方に魔核を移したらしい」


 あの超高熱の爆炎でも土の中までは焼き尽くせない。

 そのままでは耐えられないと判断した奴は、その魔核というやつを無事な方に移動させていたということか。

 いや、理屈はどうでもいい。

 とにかくここから切り札を使い切った2回戦が始まるということだ。


「シトリン……勝算は?」

「正直厳しい。さっきの爆発の制御で、ごっそり精神力を持っていかれてしまったからね。魔力はまだ保つが、長期戦は厳しい」


 オレも炎帝の加護が使えない状態。

 フローラも火力の頼りであった竜血石は使い切ってしまったし、打つ手がない。

逃げるか?

 幸い根である奴は、今も地面と繋がっているのか、動きはない。

 だが、こちらが結論を出す間もなく、奴は動いた。

 先ほどは蔓だった攻撃が、今度は根だ。

 硬い根がうねるように伸び、こちらに迫ってくる。


「こなくそ!!」


 シトリンとフローラを守るように、オレは一歩前に出る。

 最悪、逃げの一手を打つほかない。

 苗の植え替えは大事なことではあるが、仲間の命には代えられない。

 だが、そんなオレの消極的な態度を見抜いたのか、奴は先ほどよりも激しく、根を伸ばす。


「うぉおおおおおお!!!!」


 オレは、アンシィでなんとかそれを捌く。

 フローラからバフが飛んできて、少し体が軽くなる。

 シトリンも精神力を振り絞って、火の魔法を放ってくれている。

 しかし、それでも物量的にも根の強度的にも、長くは保ちそうにない。

 と、次の瞬間、わずかに地面が揺れた。


「なんだ!?」


 地面が盛り上がったかと思うと、太くたくましい根がそこからオレたちの足に絡みつこうとする。

 こんな攻撃もあるのか!?

 オレは足に絡みつこうとする根をなんとかアンシィで切断し、フローラの前まで下がる。

 しかし、シトリンまでは手が回らない。


「くっ……!?」

「シトリン!!!」


 奴の根がシトリンの右脚に絡みついた。

 そのまま逆さづりの状態で空中へと持ち上げられた。

 体力が万全の状態なら躱せたはずだ。

 シトリンの魔法に頼りすぎた自分を殴ってやりたい。

 だが、それはまた後だ。

 

「ぐぁあああああああああああああ!!!」


 絡みつく根を通して、シトリンの身体から何かが奴に吸い取られていく。

 オレは一も二もなく、その根を切断しようと飛び掛かった。

 しかし、他の根がオレに向かって殺到してくる。

 2本目までの根はなんとかアンシィで切断したが、切った直後の隙をつかれた形で、オレはついに3本目の根につかまった。


「くっ……!?」


 シトリンと同じく、身体の中の何かが、奴に吸われていく。

 なんだこれ?

 力じゃない。魔力でもない。こいつが吸っているのは……記憶?

 瞬間、根を通して、オレの記憶がシトリンの記憶と混ざり合った。

 シトリン……シトリンは……。


「輝眼……族……?」

()るな!!!」 


 彼女の中で、何かが弾けた音が聞こえた。

 次の瞬間、オレは水たまりの中に突っ伏していた。

 何が起こった……?

 慌てて顔を上げると、そこにはフローラの姿があった。


「あれは……」


 驚愕の顔を浮かべるフローラ視線の先を見る。

 シトリンがいた。

 だが、さっきまでのシトリンとはまるで違う。

 ただでさえ、艶めいていた金の髪は光を放ち、黄金の筋となって、まるで無重力の空間にいるかのように波打っている。

 薄い琥珀色だった瞳は、猫のようにギラリと光り、その額には、さらに強く輝く──第三の瞳があった。

 今ならわかる。

 金色の三つ目の化け物。村人たちの噂になっていたそいつは、あの赤目の魔人じゃない。シトリンだったのだ。

 紫電のようなものがシトリンの周囲に飛び散る。

 この力は危険だ。


「見る観る診る視る看るみるぅううううううううう!!!」


 さっきの冷静な姿とは打って変わって、まるで獣のように彼女は叫ぶ。

 周辺には瞳や髪と同じ、金色の魔力が迸り、大気の震えさえ感じられる。

 シトリンが右手は振るった。

 目に見えない衝撃波が、巻き起こり、地面を抉りながら、魔人を吹き飛ばした。

 続けざまに腕をふるうたびに、魔人の肩が抉れ、腹に穴が開き、足が半ばほどからもげた。

 先ほどまでとは戦闘力がまるで違う。

 だが、止めなければならない。

 止めなければ、彼女は……。


「フローラ。シトリンを止める……!」

「わかりました!」


 記憶を共有していないフローラだが、今のシトリンが尋常ではない状態ということは肌で感じたようだ。

 フローラは自身にバフをかけると、後ろからシトリンに組み付いた。


「シトリンさん、止まってください!」

「がぁあああ!!!」


 懸命に動きを止めようとするフローラだが、シトリンに引きずられ、ずるずると前へと進んでいく。

 オレは、全速力で、シトリンの前まで躍り出た。


「シトリン!! やめるんだ!!」

「うるさい!! 人間の言葉など聞く耳持たん!!!」


 吠える彼女の迫力は魔人以上。だけど、たじろくわけにはいかない。


「貴様も()たのだろう!! ボクの正体を!!」

「ああ……()た」


 そう、オレは視た。

 ほんのわずかな間ではあったが、魔人の根を通して、オレは彼女の記憶と繋がった。

 そこで、オレは知った。

 彼女が人間ではないことを。

 元々は人の敵ですらあったことを。


「ならば、どけ!!」

「嫌だ!!」

 

 強い口調で言い放つ。

 知ったからこそ、オレは絶対に彼女を止めなければならない。

 このままその力に呑まれてしまえば、彼女はきっと後悔する。


「どけ!!!!!」


 シトリンが右腕を振るう。

 衝撃波がオレの全身を襲う。

 だが、オレはアンシィを地面に突き刺し、その衝撃に耐える。

 目を開けていられない。

 体中が痛い。

 必死なのはアンシィも同じだろう。

 だけど、言葉はなくとも、オレの相棒から確かな熱を感じる。

 フローラはシトリンの動きをなんとかとどめようと必死だ。

 ああ、そうだな。オレも頑張らないとな。


「どけぇ!!!!」

「嫌だっ!!!!」


 オレはアンシィから手を離すと、彼女の身体をグッと抱き留めた。

 言葉はいらなかった。

 彼女にはきっとそれだけで伝わるから。


「お前は……君は……」


 フッと、彼女の逆立った髪の毛が動きを止めた。

 発光していた瞳がいつもの琥珀色へと戻る。

 額の瞳も同様だ。

 そして、その美しい三つの瞳から、真珠のように一筋だけ涙が流れた。


「ボクは、君のような人間に出会ったことがない……」

「オレもだよ。オレもシトリンほど優しい女の子に出会ったのは初めだ」


 そう言って、オレはにっこり笑ってやる。

 身体が少しだけビクッと震えた。

 シトリンは一瞬、なぜだか顔を赤らめつつ、オレから視線を逸らした。

 だが、すぐに彼女の顔は戦いの場のものへと変わる。


「ディグ君。あいつはどうやらボクと君の記憶の一部から力を得たらしい」


 魔人を見る。

 シトリンの衝撃波でボロボロになったはずの魔人だったが、傷口を根が覆うようにして、まったく元の完全な姿に戻っていた。

 いや、違う。そこからさらに変わる。

 足は太く、爪が生えた。

 のっぺらぼうだった顔には鋭い牙をたたえた口ができ、金色に光る三つの瞳が成形される。

 その姿は、根でできた三つ目の竜だった。

 こいつ、オレたちの記憶の中にある畏怖、あるいは強さの象徴をコピーしやがったのか。

 三つ目はシトリン自身、そして、竜は、オレがこの世界に来てはじめて出会ったあの炎の竜だ。

 もし、奴が本当にコピー元と同等の力を持っているとすれば、恐ろしい相手になる。

 だけど、今のオレはなぜか負ける気がしなかった。


「シトリン、勝算は?」

「1000%、ボク達の勝ちだ」


 オレとシトリンは顔を見合わせると、にやりと笑った。

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