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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第3章 オレにサカせぬハナはなし!
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025.魔人撃破

 なんでだ。ありえない。確かに倒したはずだ。

 未だ右手に残る。奴の身体が、灰となって散っていく感触。

 確実に奴はオレの腕の中で息絶えた。

 そのはずが、なぜか、まるで何事もなかったかのように、少し前に時間が巻き戻ったかのように、3体の魔人が並んで、こちらを見ている。

 オレが1体を倒している間に増えたとでもいうのか……。

疑問の答えが出ぬままに、未だ健在な3体の魔人が、こちらへと攻撃の姿勢を見せた。

 やばい。もう3体捌く体力なんてこれっぽっちも……。


『ギギャアアアアアアアア!!!』

「くっ……!!」


 3体同時の攻撃が迫ったその時だった。


 ギュルルルルルルルルル!!!!


 台風の日に外に出た時の、金切り音。

 そんな音がしたかと思うと、ほんの目の前まで迫っていた魔人達が、一斉に数十メートルも吹き飛ばされた。

 なんだ? 突風?


「だから、来ないで、ってお願いしたんだけどな」


 いつの間に現れたのだろうか。

 オレのほんのすぐ隣には、昨晩、村で出会ったどこか幻想的な雰囲気を持つ少女が立っていた。


「えっ……」

「でも、驚いたよ。まさかトンネルを掘って、あのループを抜けるなんてね。ボクにはない発想だった」


 少女はオレの疑問の声には答えず、淡々と何かつぶやいている。

 なんなんだ?

 なんでこんな年端もいかない少女が一人で森にいるんだ?

 さっきの風はこの子がやったのか?

 ループを抜けるって、あの森にループをしかけたのはこの子なのか?

 次々と疑問が浮かんでくるが、今はそれどころじゃない。


『グギャアアアアアアアアアアアア!!!』


 吹き飛ばされた奴らが、再び、こちらへと走ってくる。

 迎撃しなければならない。


「オールアップ!!」


 フローラが再びオレにバフをかける。

 とはいえ、すでに切り札を使ってしまった。

 身体能力を限界まで上げたとしても、奴らの攻撃を捌くだけでおそらく手いっぱいだ。


「聞いてくれるかい?」

「な、なに?」


 焦るオレに、隣に立つ少女が冷静に問いかけた。


「あいつらは魔人と呼ばれる存在さ。3体いるように見えるけど、もともとは1体の魔人なんだ」

「やっぱりそうなのか」

「うん、だからね。1体だけ倒しても、他が残っていれば復活しちゃうのさ。ここまで聞けばあとはわかるよね」

「ああ」


 ならば、奴を倒す方法は一つ。


「3体同時に倒す」

「ちょうどこちらも3人だ。1人1体ということでどうだい?」

「私はいけます……!」


 少女の言葉にフローラが首を縦に振る。

 攻撃力が皆無のフローラではあるが、手元にはまだ二つあれが残っている。

 残る二つはキングシュロマンダーに使ったものよりも小ぶりではあるが、あいつ1体を倒すには十分だろう。

 オレは自分のことに集中だ。


「風よ!」


 少女の鋭い声とともに、再び、風が吹き荒れる。

 とびかかってきた3体の魔物が、弾かれるように空中へと投げ出された。


「今だ!」


 オレは、普段とは違いスコップの柄の先の持ち手だけを右手で強く握りしめ、切っ先を敵に向けて構えた。

 炎帝の加護を使えないオレの攻撃力はそう高くない。

 だが、アイナのおかげで一晩中、畑を掘り返したオレは新たなスキルを習得していた。

 この技は身体能力向上の効果がダイレクトに乗る。

 狙い撃つように、スコップモード<剣>(スペード)の切っ先をまっすぐに敵へと向ける。

 一撃で……決める!!


「スコップドリルゥウウウ!!!」


 全身のバネを使って、スコップを奴の心の臓めがけて打ち出す。

 その名の通り、ドリル。

 地面をえぐるように貫くドリルを模したこの技は、スコップの突進力を最大限に活かす。

 最高速度で到達した、スクリュー状の一撃は、見事奴の胸に大穴を空けた。

 手ごたえを感じるとともに、すぐの他の2体の様子を確認する。

 金髪の少女は、左手に光の弓を生み出すと、右手に同じく光の矢じり形成し、発射した。

 音さえも置き去りにするほどの速さで飛翔した弓は、まっすぐに敵の心臓をとらえた。

 派手に吹き飛ばされるわけではなく、貫かれたその場所から、敵は灰になって崩れ落ちた。

 これで2体。

 最後の1体はフローラだ。

 ホーリーチェインで敵を捕縛したフローラは、そのまま懐から竜血石を取り出して投擲するかと思われた。

 しかし、フローラは竜血石を取り出さず、そのまま走って敵に近づいていく。

 普段のフローラの動きよりもずいぶん速い。どうやら自分に身体能力強化をかけている。

 でも、一体なにをする気だ……?

 拘束された敵に、接近すると、フローラはおもむろにその胸に触れた。

 あ、あの感じは、オレがいつも回復してもらう時の──


「ヒールバースト!!」


 そう叫ぶと、フローラが触れた場所から、敵が爆発した。

 上半身が完全に吹き飛び、残った下半身も静かに灰になっていく。

 回復術士(ヒーラー)が使う技としては、あまりにもスプラッタな光景に思わず顔が引きつる。

 おいおいフローラさんや……。

 この回復術士(ヒーラー)、ついに自分のコンプレックスを特技に昇華してしまったらしい。

 こちらの視線に気づいたフローラが、少し微妙な笑顔で頬を掻いた。

 うちの回復術士(ヒーラー)が武闘派すぎる件について。

 と、まあ、それは置いておいて、どうやら奴らが復活する様子はない。

 その証拠に、オレとフローラの身体が仄かに光った。レベルアップだ。


「良かった。まさか、あいつらを退治できるなんて思わなかったよ」


 少女は物静かな表情に、どこか安堵の気持ちが見て取れた。


「君は……あ、いや、まずは、ありがとう! めちゃくちゃ助かった!!」


 いろいろ聞きたいことはあるが、とりあえず、まずは助けてもらったお礼だ。

 オレが深々と頭を下げると、同じくフローラもいつもの楚々とした所作で礼をした。


「律儀だね。いろいろと聞きたいこともあるだろうに」

「まあ、それはそうなんだけど、助けてもらったからには、まずは、お礼かなって」

「女の子のために畑を耕したり、君は、人間の中でも、ずいぶんお人よしみたいだ」

「え、見てたの?」


 作業をしているところを見られていたのだろうか。


「かなり遠くからね。こう見えて"瞳"と"耳"はいいんだ」


 少女の琥珀色の瞳が光る。


「いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、道すがら話そう」

「道すがらって?」

「もちろん、常闇の庭園への道すがらさ」


 少女は薄く微笑んだ。

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