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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第3章 オレにサカせぬハナはなし!
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019.レフォレス村の一大事

 かくして、オレ達二人と一本はアルフィニウムの苗を背負い、馬車に揺られていた。

 酒場で情報を集めたところ、常闇の庭園があるという魔の森は、ドーンの街から半日ほど馬車で移動した先、レフォレス村という農村の近くにあるらしい。

 というわけで、オレ達はまずそのレフォレス村に向かっている。

 今日の夕方頃にはレフォレス村に到着し、情報収集をする予定だ。

 ある程度確証のある情報が得られれば、翌朝には魔の森に向かいたい。

 なにせ、苗の生命力はあとわずかだ。できるだけ、早いうちに常闇の庭園を見つけなければ、枯れてしまうのもそう遠い日ではない。


「村の人達が少しでも庭園の事をご存知だといいんですが」

「ああ、可能ならガイドさんも雇えればなぁ」


 地元の事はやはり地元民に聞くのが一番。なおかつナビゲートしてもらえれば最高だ。

 と、村に着いてからの行動を検討しているうちに、いつの間にか馬車の車窓から見える景色は、すっかり田園風景になっていた。


「うわぁ、広いなぁ」


 田舎の村と聞いていたが、想像していたよりもはるかに耕地面積が広い。

 オレも前世ではどちらかと言えば田舎よりの土地に住んでいたが、見た感じだと、オレが住んでいた街の農地よりも広い気がする。

 現代のような農耕機具が発達していないだろうに、どうやってこんな広い土地を耕しているのだろうか。


「でも、変ね」

「ん、何がだ?」

「確かに畑なんだけど、畝がないのよ。それに土も固そう」

「ふむ」


 アンシィの言う通り、広大な畑の実に半分ほどが、何の作物も育てていない土だけの状態なのだ。

 連作障害を回避するために、土地を休ませている可能性もあるが、それにしても、あまりに土が踏み固められすぎている気がする。


「あんなんじゃ、土を休ませたことにもならないわよ」

「畑をむやみに広げ過ぎて、土地を放置せざるを得ないとか」

「その割には、最近まで手入れがされていた雰囲気があるのよねぇ。なんなのかしら」


 あれやこれや話し合ったが、結局、その場では、それだ、という答えも見つからず、そうこうしているうちに、馬車は村へとたどり着いた。

 馬車から降りてみた景色は、ザ・牧歌的という感じだった。

 絵に描いたような農村で、茅葺の家々が立ち並び、牛などの家畜たちが牧草を食んでいる。

 穏やかな田舎の村。だが、決して粗末というわけではなく、酒場など、娯楽施設などの建物もあった。

 オレ達は御者さんに謝礼を渡すと、3日後にもう一度、ここに来て欲しいとお願いして、その後は酒場に移動した。

 まずは休憩……ではなく、情報収集だ。

 ちょうど日も暮れかけ、農作業を終えた農夫達が酒場にやってくる時間帯だろう。

 そう思ったのだが。


「誰もいないわね」


 酒場は思ったより立派な内装で、土地がある分、街にあるものよりもずっと広い。

 でも、そんな広い酒場は閑散としており、客はもちろん、店主らしき人物も見当たらない。


「まだ、お店をやっていないのでしょうか?」

「うーん、だったら、店の前に看板とかあってもよさそうなもんだけど」

「とりあえず宿、先に取っちゃいましょうよ。ついでにご飯も」


 アンシィは長い馬車の旅でお腹が減ってしまったのか、下腹辺りを押さえている。

 スコップのくせに、人間より燃費悪くなってねぇか。


「そうするか」


 オレ達は誰もいない酒場を出ると、宿を探す。

 すると、おそらく村唯一であろう、こじんまりとした小さな宿が見つかった。

 良かった。こちらは明かりが点いている。


「ごめんくださーい」

「…………ん、お客さん?」


 オレの声に、店の奥の方から慌てて宿主らしい人が出てきた。

 やはり田舎で宿屋の店主も農家と兼業なのか、作業着姿で、顔にも泥がこびりついている。ほんのついさっきまで、農作業に精を出していたようだ。

 でも、その割には少し汚れ過ぎじゃないだろうか。下半身だけでなく、上半身も泥まみれだし、やや薄い髪の毛にも、泥の塊がところどころ斑点のようについている。


「す、すみません……まさかこんな時にお客さんが来るとは思わず……こんな格好で申し訳ねぇです」

「あ、いえ、気にしないで下さい」


 自分も半裸で街道歩いていた経験があるので、恰好についてとやかく言える立場じゃない。

 しかし、こんな時間まで農作業に精を出すとは、酒場の件といい、この村の農夫たちは、皆働き者なのかもしれない。


「精が出ますね。こんな時間まで農作業なんて」

「あ、いや、農作業ってわけじゃねえんだけどもよ……」

「?」

「旅人さんらは何の御用でこんな辺鄙な村までぇ?」

「あ、オレ達、冒険者なんですけど、実は魔の森に──」

「冒険者だってぇい!!」


 突然店主がガバっと身を乗り出してきた。


「あんた、冒険者様けぇ?」

「あ、はい、まだ、駆け出しですけど……」

「ちょ、ちょっと待っててくれねぇか。かかぁーっ!! かかぁーっ!! 冒険者様が来なすったぁ!! 村長んとこに伝えてけれぇー!!」


 そう言って、奧にいるであろう奧さんを呼びにいく店主。

 あ、これ、面倒なパターンのやつだな。




 冒険者が来たという噂は、あれよあれよという間に広がり、いつの間にか、オレ達は村で一番立派な建物──おそらく村長さんの自宅の居間へと案内された。

 村の会合などで使う場所なのか、それなりに広さがあり、オレ達が座る対面や両サイドには十数名の村の男衆が座していた。

 目の前にいる高齢の男性が口を開く。


「冒険者様、こんなところまでご足労いただいて申し訳ない。私は、このレフォレス村の村長をしていますムシューダと申します」

「あ、えーと、ディグです」

「アンシィよ」

「フローラと申します」

「ディグ様、アンシィ様、フローラ様、この度は村の一大事に駆けつけて下さってありがとうございます。本当にどれだけこの時を待っていたか……」

「えーと……」


 村長さんを含め、村の男衆たちは今にも泣き出しそうなほど、感極まっていた。

 さすがにただの一冒険者が村にやってきただけで、こんな風にはならないだろう。

 この感じ、何か盛大に勘違いされている気がする。

 ここは早めに誤解を解いて置いた方が良さそうだ。


「村の一大事ってどういうこと?」


 アンシィ! その聞き方、たぶん厄介事に足突っ込んじゃうやつ!


「え? あの、お三人様は、クエストを受けて来て下さったのでは……」

「いや、オレ達、魔草を植え替えるために、魔の森の中にあるっていう常闇の庭園を探しに来たんだけど……」

「なんですと!? クエストを受けて来て下さったわけではないのですか……」


 途端に、落胆の表情を浮かべる村の人々。

 うっ、ちょっと心に刺さる。


「クエストを受諾したわけではありませんが、何かお困りのことがあるのでしたら、お話を伺えないでしょうか?」


 フローラが冒険者かくあるべきという感じで村長に尋ねた。

 あ、もう、これ海苔のかかった禿……じゃない、乗りかかった船パターンのやつだわ。


「おおっ……なんと慈悲深い。さぞ、高名な回復術士(ヒーラー)様とお見受けします。何卒、我々にそのお力をお貸しください」


 村長が語った村の危機とは、かいつまんで言うと、魔物による被害だ。

 この村では、主に農業や畜産業、養蜂業を営んでいる。

 しかし、村人の数は少なく、人力だけでは、領地として与えられた広大な土地を耕すには人手不足である。

 だから、この村では、古くから、農地の開墾や耕作に魔物の力を有効活用していたらしい。

 それらの魔物が上手く機能しなくなったこと、よそから害獣がやってきたことで、現在村の仕事には大きな支障がでているということだそうだ。


「一つ一つのことであれば、今までも村人の力で対処してきました。けれど、今回はそれが同時多発的に起こってしまっており、ギルドにクエストとして依頼を出させていただいた次第です。もっとも、すでにクエスト依頼を出してからひと月以上が経過しているのですが……」

「なるほどねぇ。確かにそれは困るわね」


 詳細を聞いたアンシィが、訳知り顔でうんうんと頷いている。

 確かに、村の主産業があらかた生産ストップしている状況なのは、村人にとって死活問題だろう。

 オレ達の他にクエストを受注した冒険者が現れるとも限らない。

 あまり時間はかけられないが、しゃーない。

 オレはアンシィとフローラに目配せをすると、二人は「うん」を首肯して返してくれた。


「わかりました。オレ達がなんとかします」

「おおっ!! 本当ですか、冒険者様!!」

「はい。その代わりといってはなんですが、村の問題が解決したら、常闇の庭園探しっていうオレ達の目的にも協力して下さい」

「もちろんです! そ、そうと決まれば、今晩はゆっくり休んで下さい!! ほら、みんな、冒険者様に、御夕食をご用意しなさい!!」


 こうして、オレ達は、自分の目的への協力を取り付けるためにも、村の厄介事を解決することになったのだった。

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