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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第3章 オレにサカせぬハナはなし!
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017.ネグリジェと紅茶と

 午後の仕事もつつがなく終わり、今日も酒場で夕食を摂る。

 ぷはぁあ……あー、この一杯のために生きてる感じするわ。


「もぐもぐもぐもぐ……!!」

「アンシィ、落ち着いて食べろよ。ってか、お前さすがに最近食べ過ぎだろ。ちょっと腹出てきたんじゃないか?」

「スコップだから、太らない!」

「そ、それは羨ましいかも……」


 フローラ、元々細そうに見えて、スタイル維持に気を遣ってるんだな。うんうん。


「ところで、明日からの狩場の件だけど、フローラどこか良い場所知ってるか?」

「うーん、正直、自分も低レベル帯の狩場しか知らなくて……」

「そっかー。なんか良いとこがあればいいんだけど」


 オレが他に知ってる狩場と言えば、あの転生したばかりの頃に放り込まれたマグマの迷宮くらいだが、あそこはさすがにまだまだレベルが足りな過ぎる。

 ギルドの受付のお姉さんに相談するかなぁ。

 他の冒険者仲間は、まだ、フローラの事、怖がってる奴もいるみたいだし、情報教えてくれるか微妙だし。


「まあ、明日は明日の風が吹く、か。あ、お姉さん、枝豆おかわり!」

「ディグ、最近注文がおっさんっぽいですよ」

「失礼な。これでも、ぴちぴちの17歳じゃい」


 フローラともこんな軽口を言い合える仲になったのが、ちょっと嬉しい。


「でも、今日は早めにお暇しましょう。せっかく部屋もできたことですし」

「ああ、そうだった」


 今日はもう宿取らなくて良いんだった。

 でもなぁ……。


「どうしました、ディグ?」

「いや、ちょっと……ね」


 なんとなくアパタイさんを見てるとブルリとくるんだよなぁ。




「アパタイさん、ただいま戻りました」

「あらぁ~。遅かったわねぇ~」


 オレ達がアパタイさんの薬屋に戻ったのは、ちょうど店じまいのタイミングだった。

 アンシィを筆頭に、店先のプランターを店内に運ぶのを手伝う。


「よいしょ。これ、ここでいいですか?」

「オッケーよぉ~、ディグちゃん! 素晴らしいわ~!」


 普通にプランター移動させてだけなんだが、妙にベタベタと身体を触ってくるな、この人……。


「みんな、夕食は食べたんでしょう~?」

「ええ、いただきました」

「じゃあ、あとはお休みだけね~。あ、ところで、明日なんだけど、ちょっと朝一番にお手伝いをお願いできないかしら~」

「なになに、どんなお手伝い!?」


 食いついたのはアンシィだ。


「今朝、お話ししていた奥の方の花壇を整備しようかと思ってね。土づくりを手伝って欲しくて」

「得意分野よ! 任せなさい!」


 めっちゃ男前に返事しやがるなこいつ。

 でも、たぶん、実際やるのはオレなんだろうなぁ。


「ありがとう~。本当に助かるわ~。今日はゆっくり休んでちょうだいね~」

「ありがとうございます。では、ディグ、アンシィ、行きましょう」

「あ、ああ……」


 フローラに促されるまま、オレとアンシィは部屋へと向かった。

 背中にねっとりした視線を感じた気がするが、気のせいだと信じたい。




 さて、下宿先である別棟2階は、階段を上がったところに1部屋、そこから奥に扉があって、もう1部屋という構造になっている。

 必然的に奥に移動する際には、手前の部屋を経由せねばならず、その都合上、部屋の配置は、奧がフローラ、手前がオレとアンシィということになった。

 アンシィは基本的に就寝時はスコップに戻っていることが多いので、部屋はオレと共有という形になる。

 とはいえ、宿に泊まっていた時も、たまに女子会などと言って、フローラの部屋で人間形態で寝ていることもあったので、まあ、アンシィに関しては、双方の部屋を自由に行き来できる感じだな。

 フローラの部屋に行けるなんて、ちょっと……いや、かなり羨ましい。


「なんか邪なこと考えてない?」

「全然全然!」


 この扉開けたら、もうフローラの部屋なんだよなぁ。

 今まで止まってた安宿は、さすがに通路で部屋が分かれていたので、ドキドキ感は無かったのだが、今は扉一枚隔てたところにフローラがいる。

 そんな近場でフローラが着替えたり、眠ったり、その他諸々していると思うと、青少年としては少し興ふ……げふっげふっ。


「フローラー! アタシが見張ってるから安心してね!」

「いらんこと言わんでいい」

「はいー? 何のお話しですか?」


 と、あっちから扉を開けてネグリジェ姿のフローラが出てきた。


「ぶふぉっつ!?」


 無防備過ぎるだろ!!

 しかも、風呂上りなのか、めっちゃしっとりしとるんだけども。

 少し上気した頬に、張り付いたエメラルドグリーンの髪が妙に艶めかしい。

 あー、やばい、頭とどこかしらに血が上ってきた。

 

「何の御用でしょう?」

「あー、ごめん、フローラ。何でもないの。お休み」

「あ、はい、おやすみなさい」


 ぱたりとドアを閉めるフローラ。

 シャンプーの残り香が鼻をくすぐった。

 思いっきり吸っとこ。すぅ……。

 そんなオレの様子を汚いものでも見るような目で見るアンシィ。


「……オレに落ち度はない」

「わかってるわよ。とりあえず下手にフローラを呼ばないこと。あの娘はやっぱり……」


『天然だわ(な)』


 下宿初日の夜はこうして更けていった…………ら良かったのになぁ!!!




 さて、隣からフローラの寝息が聞こえてくるような聞こえてこないような、それに耳を澄ませちゃって眠れないような、そろそろ眠りたいようなそんな時間。

 ギシィ……。

 ベッドの軋みじゃない。階段ばしごからそんな音がした。


「えっ……!?」


 誰だ?

 こんな時間に……? いやそもそも、誰がこの部屋を訪ねるというんだ?


「ディグちゃん~。まだ、起きてるかしら~」

「げっ……」


 それはアパタイさんの声だった。

 なぜ、こんな時間にこの人が部屋に……?

 いや、怖い怖い怖い。

 ね、寝たふりしとこうか……。いや、でも、それもまた怖い……。

 アンシィ! アンシィ!……って、こいつ寝息立ててやがる。

 あー、どうしよう……。

 悩んでいるうちに、アパタイさんがはしごを登り切った。


「あら~、起きてるじゃない~。お返事くらいしてほしいわ~」

「す、すみません……」

「まだ、灯かりが点いているのが見えてね。眠れないようだったから、お疲れかと思って、ハーブティーを入れてきたんだけども」


 と、右手にポット、左手にティーカップを持って言うアパタイさん。

 どうやら、湯上りフローラのことを考えて悶々としているうちに、結構遅い時間になってしまっていたようだ。

 オレは、「ありがとうございます」とつぶやいて、素直にアパタイさんが入れてくれたハーブティーを受け取った。

 少し息で冷ましてから、口に含む。


「…………おいしい」

「でしょ~。庭の花壇で育てているハーブを使っているの~。わざわざ遠くの街から苗を仕入れた特注品なんだから~」

「へぇ……」


 なんだろう。優しいというか、どこかホッとする味だ。

 元の世界にいた頃、美紅のばあちゃんが淹れてくれた玉露にどこか似ている。

 味そのものは甘味と苦みのバランスとか日本茶とは全然違っているのだけど、なんだか飲むだけで安心感が得られるのはそっくりだ。

 そういえば、ばあちゃんも家でわざわざお茶の木を育てていたけど、これって、自分で育てたお茶特有の何かなのかな。


「アパタイさんは、昔からお茶を作ったりしてるんですか?」

「んー、お茶……というか、植物全般を育てるようになったのは、妻が亡くなってからかしらね~」

「あ……」

「何、驚いた? こんなオカマだものね~。結婚してたなんてびっくりだわよね~」


 アパタイさんは、気を遣わせないようになのか、努めて何でもないように笑った。


「あ、いえ、そんなことは……」

「もう10年も前の事よ~。亡くなった妻は元々花屋だったの~。妻が遺したこの庭を世話しているうちに、すっかり土いじりにハマっちゃってね~」


 なるほど、それで薬屋さんなのに、副業で花屋さんなんてしていたわけか。


「なんだか草花を育てていると、妻と私の間にできた子どもを育ててるみたいな風に感じることもあってね~。結局、この10年、飽きることもなく、ずーっと続けてるってわけ」

「そうなんですか……」


 見た目のイメージとは全然違う。この人、どうやら本当にそんなに悪い人ではないらしい。

 頷きながら、再び、カップの縁に口をつける。


「だから……アパタイさんのお茶はこんなに優しい味がするんですね」

「あらぁ、それ口説き文句かしら~。嬉しいわ~」


 そう言って、アパタイさんはにっこり笑った。

 お茶を飲んで、アパタイさんの昔話を聞いてるうちに、いつの間にかフローラの件で火照っていた身体の熱も引いてきたようだ。


「ふぅ、なんだかアパタイさんのお茶のおかげで落ち着けました。これなら、寝れそうです」

「あらそう~。それは良かったわ~。でも……」


 急にアパタイさんの雰囲気が豹変する。

 さっきまでの優しそうな、少し憂いを帯びたような雰囲気はどこへやら。な、なんだこの威圧感……。


「夜はまだ……これからよ~!」

「いや、ちょっと……アパタイさん……アパタイさん……ねえ! なんすか、その手つき、腰つき、ちょ、あれ、やめっ!! アンシィーーーーー!! アンシィーーーーヘルプミィイイイイイ!!!!!!」


 訂正、アパタイさんはやっぱりやばい人でした。

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