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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第9章 想いを奏でて
148/156

148.拒絶

「転生者……だって……?」


 男の子はそう言った。

 事実、ボクの相棒(ギター)、エリクスと同様、スコップが女の子へと変化した。

 彼女が変わった時に放たれた光は、エリクスが変化する時に放つそれと全く同じだった。

 この少年が、転生者であるのは、おそらく本当のことだろう。

 族ではなく、安心したといえばしたのだが……。

 僕は、お尻の汚れを払いつつ、ゆっくりと立ち上がる。


「えーと、ごほん……。転生者であるのはわかったが……。さすがに、夜中にベランダからとは、いきなりすぎないかい?」

「すみません。ゲンヤさんに会うには、このタイミングしかないって聞いたもので……」

「ふむ……」


 確かに、僕はVIP待遇で、なかなか市街地に降りていくことはないからな。

 大方、島民に、夜の演奏の事を聞きでもしたのだろう。

 とはいえ、気になるのは、彼の目的だ。

 わざわざこうまでして、僕に会いに来たとなれば……。


「最初に言っておくが、僕は西ギルドに帰る気はないからな」


 先手を打っておく。

 僕は、この島での生活が気に入っているのだ。

 そもそも、こんな魔物なんてものがいる世界に飛ばされて、なぜか、冒険者などというものに登録され、なおかつ、クエストとかいう魔物退治までさせられそうになったことは、僕にとって、迷惑以外の何物でもなかった。

 僕は基本、平和主義者なのだ。

 だから、西ギルドのミナレスの奴から連絡が来ても、一度も返事を返さなかった。というか、読んでさえいない。

 やっとこ見つけた、戦いなんてものから離れて、夢のような暮らしができるこの場所を、簡単に手放してなどなるものか。


「ここでの生活が気に入ってるのはわかります。でも、今は、あなたの力が必要なんです」

「ふん、そんなことを言って。僕に仕事をさせたいだけだろう。言っておくが、僕は絶対に働かな……」

「魔王が動き始めました」

「…………はい?」


 魔王……といったか、この少年。

 そういえば、あの少し奇抜な格好の女神からも、魔王をよろしく、などと言われた覚えがあるな。

 要するに、この世界における悪の親玉みたいな存在なのだろうが、はっきり言って、そんな存在とはかかわりあいになりたくない。


「悪いが、魔王とかいう奴のことは君に任せた」

「えっ!?」


 少年が明らかに慌てている。


「す、少しだけ考えてみてください! 魔王が動き出したということは世界の危機ってことで……」

「その世界の危機という奴は君が救ってくれ。僕では力になれない」


 実際、僕がこの少年に協力するといっても、何ができるというのだろうか。

 僕に出来ることは、エリクスと共に、音楽を"奏でる"ことだけ。

 仮に、戦いの場に駆り出されたとしても、できることなど何もないのだ。

 事実、僕は、無理やりに任された討伐クエストとかいうやつも、一度も達成することはできなかった。

 当然だ。楽器など、戦闘では何の役にも立たないのだから。


「ちょっと……あんた、本気で……!!」

「アンシィ、よせって!!」

「あんたね!! 魔王が本気で暴れ出したら、この島だって、どうなるかわからないのよ!!」


 鬼の形相で抗議の声を上げてくるオレンジ髪の女の子。

 

「わかったから、すぐに帰ってくれ。僕には……関係のないことだ」


 僕の言葉を聞いた途端、さらに暴れ出そうとした女の子を少年が必死に抑えていた。

 だが、そんな様子を見ても、僕の心はどこか冷めていた。

 ついさっきまで、あんなに高揚感を感じて演奏していたというのに、冷や水を浴びせられた気分だ。

 魔王なんて……僕の知った事ではないのに。


「早く出て行ってくれないか。このまま居続ける気であれば、警備の者を呼ぶが」

「このチキン野郎!! あんたなんか、魔王にやられて死んじゃえばいいのよ!!」

「だから、アンシィ……!! すみません。でも、オレ達、本当にあなたの力が必要なんです。だから……!!」

「しつこいな。何を言われようとも、僕は協力するつもりはない。早く……僕の前から、消えてくれ」

「…………わかりました」


 悲し気に目を伏せた少年は、わめく少女の肩を抱きながら、ベランダの淵を蹴って、空へと飛び出した。

 あとには、さきほどと変わらず、島を煌々と照らす、少しだけ欠けたお月様のみ。


「ゲンヤ様……」

「少し飲みなおすよ。君は先に寝ていてくれ」


 エリクスが今、どんな表情をしているのか、見たくなかった。

 僕は、一人、奥のワインセラーから、お気に入りのシャンパンを取り出すと、グラスに注いだ。

 スパークリングのはじけるような泡が、なぜだか、少しだけ目に染みた。




「──って感じで、まったく取り合ってもらえなかったよ」


 ホテルのスイートルームでの出来事の後、オリーブさんの宿酒場まで戻ったオレは、仲間達に彼とのやりとりの一部始終を伝えていた。


「話に聞いてはいたけど、本当に、根性なしのクズ野郎だったわ!! あー、思い返しても、腹が立つ!!」


 アンシィは、未だにご立腹のご様子だ。

 とはいえ、その気持ちも十二分にわかる。

 正直、オレも、アンシィほどではないが、怒りの感情が湧いたのは事実だ。


「このまま協力を取り付けることができないままでよいものか……」

「いいじゃない。あんな奴! アタシ達を見ただけでビビってたし、たぶんまともに戦いだってできやしないわ!」


 まあ、確かに、あまり強そうな印象は受けなかった。


「どうする、ディグ?」

「ここまで来たんだ。手ぶらで帰るわけにもいかないさ。明日、もう一度、彼の部屋に行ってみるよ。今度はちゃんとホテルの入り口から」

「それしかないか……。とりあえず、今日はもう寝るとしよう。そろそろアルマが限界だ」

「ああ」


 うつらうつらするアルマの様子をほほえましく見つつ、その日は、それぞれ就寝ということになった。

 とはいえ、アンシィは、まだ、怒りが収まらないようで、これからリシアとコルリを連れて、夜の街に繰り出すらしい。


「あんたも来なさいよ」

「ああ、アルマをベッドまで運んだら、すぐ行くよ」


 というわけで、2階の部屋まで、アルマをお姫様だっこしていった帰りだった。


「あ、あの……」


 部屋の扉を閉めて、すぐに横合いから声がかけられた。


「ああ、リシア、どうしたんだ?」

「えっと、その……」


 リシアが仲間になって、1週間ほど経つが、まだ、彼女はパーティに馴染めないのか、オレに対しても、他の仲間達に対しても、遠慮がちだ。

 仲間達と会話をしていても、自分からその輪に入ってくることはない。

 オレの仲間達は、かなり気さくな方だと思うが、それでもやはり、彼女からしてみれば、すでに固まったメンバーの中に、追加で入るというのは、なかなかにハードルが高いことなんだろう。

 緊張をほぐすように、オレはその頭をポンポンと軽く叩いてやる。


「あっ……」

「ゆっくりでいいよ」


 オレがそう言うと、リシアはこくりと頷くと、少しだけ声を大きくして話し出した。


「あの、吟遊詩人(トルバドゥール)の転生者様……絶対、仲間にしてあげて下さい」

「どうしてそう思うの?」

「その……なんとなく……なんですが……」


 彼女は、少しだけ目を閉じる。


「その人の力が、必要になる気がするんです」


 あまりにも、漠然とした答え。

 けれど、再び開いたその瞳は真剣そのものだった。


「そっか、じゃあ、オレと同じだ」

「えっ……?」

「オレもさ、なんとなくだけど、彼の力が必要になるんじゃないかと思うんだ。というか、彼だけでなく、転生者全員の力がさ」


 女神が、なぜ、複数の転生者をこの世界に寄こしたのか。

 それを考えた時、オレの立てた仮説は、それだけしなければ、魔王を倒せないからなのではないか、というものだ。

 オレ達、転生者はただステータスが伸びやすく、強いというだけじゃない。

 それぞれが特殊な能力──概念スキルを持っている。オレの"ほる"やレナコさんの"ぬう"のように。

 その力がなければ、魔王には対抗できない。だからこそ、女神は複数の転生者をこの世界へと送った。

 そう考えるのが、妥当ではないかとオレは思っている。


「オレのこれも、あくまで確証はないことなんだけども……。リシアもそう思ってるって知れて、ちょっと自分の考えに自信が持てたよ」

「ディグさん……」

「おーい! ディグ、リシア、早くいくわよー!!」


 階下からアンシィの呼ぶ声が聞こえる。


「とりあえず行こうか。ちなみにリシア、酒って飲める方?」

「え、えっと……実は、初めて飲みます……」

「あ、そっか。記憶がないんだもんな。じゃあ、今日はほどほどで」

「おそーい!!」

「はいはい、今いくよー!!」


 さあ、と差し出したオレの手を、リシアはおそるおそるとだが、掴んでくれた。

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