145.転生者を探せ
魔王軍の四天王、ルチルとスコレ。そして、彼女達の使役する魔人により、ドーンの街が大きな被害を受けてから、4日の時が過ぎていた。
その間、オレは、アンシィとともに、土木作業に精を出し、街中の地面は、ほぼほぼ以前のフラットさを取り戻している。
特に住民の憩いの場である公園の整地作業はかなり頑張った。
公園の半分ほどを占めるくらい、大きいクレーターができていたけれど、全部丁寧に埋めてやった。
なんなら、以前よりもきれいになったくらいだ。
冒険者達の連携で、瓦礫もほぼほぼ撤去され、街は少しずつだが、元の活気を取り戻してきている。
草原に作られたキャンプも、日が立つごとに、規模が縮小されつつあった。
そんなある日、昼食を済ませた後、無事だったアパタイさんの店の一室(改装が完了したオレの部屋だ)で、オレ達は、ぎゅうぎゅう詰めになって座っていた。
目の前には、異世界スマホ。
オレは東と西の代表である、艶姫さん、ミナレスさんと連絡を取っていた。
『お嬢からの特別回線で、何かあったことはわかっていたが、まさか魔王軍とはな』
『いよいよ、きな臭くなってきよったな』
画面越しに、2人が唸っている。
それはそうだろう。
魔王が、明らかな意図を持って、どこかの街を襲ったなどというのは、それこそ何百年ぶりというレベルの話らしい。
2人がどう対処すればよいか、頭を捻るのも当然と言えた。
『目的は結局わからないんやな?』
「ええ、オレが狙われたにしては、街を破壊する意味がわかりませんし……」
『ドーンは駆け出し冒険者の街だからな。後々の脅威の芽を摘む、という意図があったのではないか』
「うーん、そうなんですかね……」
正直、オレ個人としては、その可能性は低いと思っている。
実際に一戦交えたオレからすると、魔王軍の実力はかなりのものだ。ドーンの街の一般的な冒険者では、とても歯が立たない。
オレのように、獲得経験値上昇のスキルを持つ、転生者ならばともかく、何のスキルも持たない普通の冒険者が、魔王軍の脅威になるまで、実力を磨き上げることができる事例なんて、相当稀な事だろう。
『なんにせよ。また、襲われる可能性があるというのは怖いな』
『ああ、ドーンだけの話やあらへん。魔王軍が本格的に動き出した以上、ウエスタリアやイーズマやって、いつ魔王軍に襲われるかはわからへんし』
『防備を固めるのは必須というわけだな。とはいえ、それだけでは、後手後手になる』
『そや、古来から魔王を倒すには、勇者やろ。ディグはん、あんた、いっちょ魔王を倒して来てくれへん』
「……やっぱり、そうなりますよね」
言ってはなんだが、オレは、選ばれし転生者というやつだ。
遥か昔の魔王も、転生者により、討伐されたらしいし、今の時代、それを担うのは、やはりオレということになるのだろう。
おそらく、それが、女神がオレをこの世界へと寄こした理由でもある。
いや、だが、あるいは……。
「まずは、戦力を整えよう」
「戦力……ですか?」
シトリンの提案に、みんなが耳を傾ける。
「この世界には、ディグの他にも転生者がいる。その者たちの力を集めるんだ」
そうだ。シトリンの言う通り、この世界には、オレを含めて、少なくとも5人の転生者がいる。
その中の1人、レナコさんとはすでに親しい間柄だが、残りの3人とは、まだ、顔を合わせたこともなければ、名前すらも知らない。
まずは、彼ら彼女らと面識を持って、協力して魔王討伐に当たるのが筋というものだろう。
「確かに、概念スキルを所持している転生者達が協力できれば、魔王討伐の勝算も上がりますね!」
「ああ、だから、まずは、残る3人の転生者にコンタクトを取ろう」
仲間達は、それぞれが「うん」と頷き合う。
「ミナレスさん、艶姫さん、転生者達の居場所を教えて下さい」
それぞれの冒険者組合に所属しているはずの転生者達。
その現在の居場所を、代表である2人なら知っているはずである。
だが、ミナレスさんと艶姫さんの表情は、どことなくすっきりとしない。
『……すまん、ディグはん。東に所属しているもう1人の転生者は、もう何か月も戻ってない。野垂れ死んどることはないと思うけど、すぐには居場所はわからへん』
『西の1人も同様だ。彼女は方向音痴でな……。目立つ娘なので、時折噂程度は聞こえてくるのだが、今、どこにいるのかまでは……』
「マ、マジですか……」
2人とも、ほとんど行方不明といっていい状態だとは……。
「あ、あと、1人はどうなんですか?」
『ああ、あと1人の転生者の居場所ははっきりしている』
そう言いながらも、ミナレスさんの表情はどこか暗いままだ。
『彼は、この中央大陸から、西の海を越えた先にあるサザビィという島にいる』
「サザビィ島……」
『ああ、別名"芸術と快楽の島"。世界随一のカジノを有する西の孤島だよ。転生直後、西冒険者組合に所属することになった彼は、とあるクエストでそこに赴き……それから帰ってこない』
「ええっ!?」
なんだそれ。どういうことだ……?
『伝書鳩で書簡を送れば、一応、鳩が何も持たず帰ってくるので、島にいるのは間違いない。もっとも、返事等一度も返してくれたことはないが』
「な、何か、トラブルに巻き込まれているとか……?」
『どうなんだろうな……。彼は、結構な快楽主義者のようだったから……』
つまり、島の居心地が良すぎて、帰ってこない、ってこと?
「えーと……」
『ディグ君、言いたいことはわかる。だが、一応、彼も転生者だ。更生の道がないとは言い切れない』
いや、もう"更生"って言ってしまってるじゃないですか。
「わ、わかりました……。他に宛てもないですし、とりあえず、その転生者の元を訪ねてみます」
『すまん。ギャンブルの島だけあって、入島するだけでも高くつく、そこは西冒険者組合が負担させてもらおう』
不安は募るが、とりあえずやることは決まった。
目指すは、"芸術と快楽の島サザビィ"。
「明日にでも、ドーンを発とう」
「でも、私達がいないうちに、また、魔王軍が襲ってきたら……」
「街には、ドラゴンシスターズがいる」
コルリが言った。
「彼女達は、何があっても、ディグの街を守ると約束してくれた。彼女達なら信頼できる」
「ああ、フュン達になら、街を任せられる。それに、何かあっても、アンシィとディグだけなら、早急にドーンまで戻れるのは実証済みだ」
嵐帝の加護による高速飛行能力。
レナコさんのマフラーによるグライダー効果によって、航続距離と速度の伸びたオレとアンシィなら、多少離れた場所にいても、早急に戻ってくることができる。
「ふむ、そうと決まれば、善は急げだな」
「ミナレスさん、その転生者の事をもう少し教えて下さい」
『ああ、そうだな……。その転生者の名は"ゲンヤ"。EX職業は──』
なんとも言えない表情で、ミナレスさんは、宣った。
『吟遊詩人だ』
9章開幕。連続投稿10/10話目になります。
今日の更新は以上になります。
果たして、日間ランキングに入れるかどうか……。
あとは、経過を見守らせていただきます。