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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第8章 新たなる戦いの幕開け
144/156

144.最後のパーティメンバー

「食べる?」


 そう言って、ディグさんが差し出してきたのは、街の人々にも振舞っていた魔物肉のステーキだった。

 どうやら、撃退した魔物の肉を解体したものを、あの大きなスコップで焼いて調理したものらしい。

 なにかソースがかかっているのか、香ばしい香りが鼻腔をくすぐると、自然に「きゅ~」とお腹の虫が鳴った。


「あっ……!」


 結構な音量。ディグさんにも確実に聞かれてしまった。

 恥ずかしくなって、私は、顔を真っ赤にしてうつむいた。


「一日頑張って、お腹減ってるだろ? よかったら、食べてくれ」


 ディグさんが差し出したお皿を私は恐る恐る受け取った。

 同時に手渡されたナイフで、少しだけ切れ目を入れる。

 ふわふわとした感触。

 一度、ディグさんの目を見ると、彼は、どうぞ、というように微笑んだ。

 私は、小さくひとかけらを口に運んだ。


「…………おいしい」

「そう? 口に合ったならよかった」


 私はこくこくと頷く。

 気づくと、ナイフを持つ手が止まらなくなっていた。

 自分でも気づかないうちに、相当お腹が減っていたんだろう。

 そういえば、朝から何も食べないままに、1日が過ぎてしまっていた。

 必死に食べ続けていると、いつの間にか、皿の上にはひとかけらのステーキもなくなっていた。


「あっ……!?」


 あまりに必死に食べ過ぎていた。

 ディグさんに引かれていないだろうか。

 恐る恐る視線を上げると、私の横に腰掛けたディグさんは、さっきの私と同じように、お月様を見上げていた。


「月が綺麗だな」

「月……」


 お皿を置いて、私も再び月を眺める。

 こんなとき、なんて言うんだっけ。

 確か……。


「……死んでもいいわ」

「えっ……?」


 ディグさんが驚いた表情を浮かべた。


「リシア、君、なんで、その返しを……?」

「えっ?」


 ふと口から出た言葉だったので、理由はない。

 けれど、なんとなく、この言葉を返さなくちゃいけない気がした。

 でも、冷静に考えて、何で、こんなこと、私言ったんだろうか……。


「あ、ディグ様ー!!」


 言葉を返せず、戸惑っていると、そこに5人の影がやってきた。

 ディグさんのパーティの仲間達だ。

 驚いた表情を浮かべていたディグさんは、気を持ち直したように振り返ると、仲間達に笑顔を向けた。


「シトリン!! 良かった!! 目覚めたんだな!!」

「ああ、ゆっくり休ませてもらった。ディグも大活躍だったそうだな」

「みんなに送り出してもらった手前、格好悪いところは見せられないからな」


 ディグさんとシトリンさんは、お互いに拳を打ち付けて、健闘を称え合う。


「そちらの少女……リシア、だったな。君のおかげで、街の危機を知ることができた。ボクからも礼を言わせてくれ」

「え、いえ、その……」


 深々と頭を下げてくる金髪のまるでお人形さんのように可憐な女の子に対して、私もできる限り腰を折って、礼をする。


「リシア様には、テレパス能力があるんですね」

「街の人たちの中にも、あなたに助けられたと言っている人が多くいた」

「フュンちゃん達の事も助けてくれたみたいで、ありがとうございます!」

「あの、その……」

「こらこら、矢継ぎ早に話しかけない。困ってるじゃない」


 アンシィさんが、皆を宥めてくれたおかげで、ホッと息を吐く。

 今回の一件で、少しは成長できたかと思ったけれど、やっぱり大人数に話しかけられるのは、まだまだ苦手だ。


「とにもかくにも」


 アンシィさんが、私へと手を伸ばし、すっと、私の右手を掴んだ。


「ありがとね! あんたのおかげで、街は救われたわ!」

「私なんて……大したことは……」

「謙遜なんて、やめてください。私達を助けてくれたのも、あなただっていうのに」

「えっ……」


 いつの間にか、私達のすぐそばに、5人の女の子がやってきていた。


「あっ、ドラゴンの……」


 戦闘後、ずっと眠りについていた彼女達もようやく目覚めたらしい。

 薄桃色のワンピースに身を包んだ五人の少女は、こちらへとゆっくり歩いてくる。


「フュンといいます。その節は、助けていただいて、ありがとうございました」


 5人の女の子達からも頭を下げられ、私はもう、かえってたじたじになってしまう。


「いろいろと助かりました。でも、聞きたいこともあります。あなた、私の魔法を使っていましたよね?」

「え、そうなのか?」


 当然の疑問だった。


「え、えっと……」

「うん」

「私の、職業(クラス)の能力なのかも……しれません」

「あー」


 私のEX職業(エクストラクラス)冒険者(ぼうけんしゃ)という特に珍しいものであることをディグさん達は知っている。

 その言葉だけで、彼らは納得してくれたようだった。


「つまりあれか。人の能力のコピーができたりするってことか?」

「その可能性は高いかと思います。炎帝の炎を再現するなんて、他の職業(クラス)では、おおよそ不可能でしょうし。それに……」

「どうしたフュン?」

「いえ、なんでもありません。それよりも……」


 話を打ち切ったフュンさんは、ディグさんの方へと向き直った。


「ディグくん、ご褒美の時間です」

「えっ? ああ、そういえば……」


 あっ、そういえば、ディグさんが助けに来た時、そんな約束をしていたっけ。


「街を襲う凶悪な魔人を撃退した私達姉妹に、ぜひ、ディグくんからご褒美を!」

「えー、といってもなぁ」


 ディグさんは、ひとしきり考えた後、半ば困ったように、フュンさんの頭を撫でた。


「ごめん、今はこのくらいしか思いつかない……」

「なでなで……ですか。もう少し上を期待していましたが……なんでしょう。凄く満足している自分がいます」


 結局ディグさんは、その後、丁寧に5人のドラゴンの女の子達の頭を順番に撫でていった。

 5人の少女たちは、そのなでなでを心から満足げに受け入れていた。よほどディグさんのことが好きなんだろう。


「あー、あと、魔物のステーキがあるんだ。特大の奴、今から追加で焼くから」

「お肉ですか!! ディグさんからのなでなでに加えて、お肉とは……じゅるり」

「あっ、アタシもまだお腹に空きがあるからね! ……じゅるり」

「フュンちゃん、アンシィ、よだれよだれ」

「あー、ちょっとだけ待ってくれ。リシア……」


 ディグさんが、私の方へと向き直った。


「えっと……」

「最後のパーティメンバーなんだけどさ。君に入って欲しいと思ってる」

「えっ……!?」


 その言葉は、私の思ってもみないものだった。


「街のためにこれだけ働いてくれたんだ。オレ達は、君を信頼している」

「記憶喪失の件も、受付のお姉さんから聞きてる」

「私達、魔王と喧嘩することになってしまったので、ちょっと危険な旅にはなっちゃいそうですが……」

「それでも、良ければ」


 ディグさんのパーティのみんなは、私ににっこりと微笑みかけた。

 全員が、私に対して手を差し出す。

 一瞬だけ、躊躇した。

 でも、6人の笑顔が、私に最後の勇気をくれた。


「みなさん……宜しくお願いします……」


 私の小さな手が、これから仲間になる、6人の手と重なっていた。




「特命は、ひとまず成功と言うわけだな」


 手を重ね合うディグ達の様子を、映像越しに見ながら、魔王様は独り言ちた。


「よくやってくれた。オージャイト」

「いえ、魔王様の特命とあらば」


 オレは、恭しく膝をつく。

 満足げに微笑む魔王様の姿は、今日も可憐だ。

 その姿を見ているだけで、胸が熱くなってくる。

 ダメだ。いかんいかん、主に劣情を催すなど、到底許されないこと。

 しかし、ああ、なんて可愛いんだろうか。

 それにあんなにおへそを出して。

 お腹が冷えてしまったらどうするのだろう。

 オレが温めてあげた方がいいだろうか。

 あのすべすべのぽんぽんを、オレの手で……。


「オージャイト、どうした?」

「い、いえ、なんでもありません」


 くっ、また、トリップしてしまうところだった。

 いかん。本当にいかん。オレはどうかしている。

 以前は、こんな風になることはなかった。

 もっと理知的で、クールな男だったはずだ、オレは。

 けれど、"あいつ"が魔王様の特命を受け、代わりに魔王様と接する機会の多くなった途端、オレのどこかの回路がおかしくなってしまったらしい。

 もちろん今までも敬慕の情は大いにあった。

 とはいえ、この感情は、もはや敬慕を逸脱してきているように感じる。

 それに……。

 オレは、視線を魔王様と同じく、投射された映像の方へと向ける。

 あの男だ。

 あの転生者の男を見ていると、なぜだか、胸がざわざわする。

 いったいあの男がなんだというのだ。

 魔王様の興味を惹く何があるというのだ。


「オージャイト」

「はっ!!」


 苛立ちが顔に出てしまっていたのだろうか。

 ヒールのかかとを鳴らしつつ、魔王様が立ち上がった。

 不興を買ってしまったかと、びくりと背筋を震わせた瞬間、魔王様の指がオレの胸に触れた。


「……次の特命も期待している」

「ま、魔王様」


 余りに近い距離にある魔王様の顔。

 その精緻な作りに、オレは唾を飲み込んだ。

 もう辛抱ならん……いや、ダメだ。抑えろ……。


「私は少し休む。ルチルとスコレを労ってやってくれ」


 やけに響く足音を残して、魔王様は、大広間を後にした。


「…………はぁ……はぁ……魔王様……」


 まったくもって、小悪魔でいらっしゃる。

 いや、小悪魔程度ではなく、魔族の王なのだから、当然か。

 心臓が飛び出るかと思った。

 と、そこへ、2人の人物が転移してきた。

 輝眼の魔女ルチルと鉄壁の守護神スコレ。

 魔王軍が誇る四天王がうちの2人だ。


「戻ったか」

「はっ、オージャイト様」


 ルチルと、スコレが膝をつく。


「しかし、作戦は失敗に……」

「構わぬ。いや、むしろ、お前たちはよくやった」

「……どういうことですの?」

「言葉通りだ。魔王様の特命は完遂された。計画は、次のステージへ入る」


 マントを翻し、宣言する。

 さて、次の特命では、"彼女"に活躍をしてもらうとしよう。


「すべては、魔王様の意のままに」

8章はこれにて完結です。


連続投稿9/10話目になります。

この機会に、ブクマ&評価をいただけるとたいへん嬉しいです。

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