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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第8章 新たなる戦いの幕開け
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137.六魔合体ゴドマズ

「…………やられましたわね」


 ルチルが、無機質な表情で、ディグが飛び去った空を見つめていた。

 ディグとアンシィならば、短時間でドーンの街へとたどり着ける。

 2人がいれば、街は間違いなく助かるはずだ。


「やはり、転生者は侮れないですわね……。この反省は次に活かさせていただくとして」


 ギロリとこちらに視線を向けたルチル。

 未だ、彼女の心を読むことはできない。

 けれど、その3つの瞳さえ見れば、明らかな憎悪をボク達に向けているのがわかった。


「まあ、彼が街に戻ったところで、到底どうなるものでもありません。しかし、彼を行かせてしまった私の評価が、下がってしまうことは否めませんわ。せめても、転生者の仲間達を始末しておかないと」


 空中に浮かぶルチルの両サイドに、2体の魔人が並び立つ。

 すでに、フローラのホーリーチェインは引きちぎられ、自由の身だ。


「簡単に行くと思わないで」

「ああ、そろそろ俺様の身体もあったまってきやがったぜ」


 コルリとジアルマが、それぞれの獲物を握りなおす。


「ふぅ、なんて好戦的な思考なのかしら……」

「コルリさん! ジアルマさん! あいつはこちらの思考を読んで、攻撃してきます! 十分な注意を!」


 フローラの助言に、前衛の2人が頷く。


「いや、2人は、先に魔人を始末してくれ」

「シトリン?」


 少し驚いた様子の仲間達の前へと、ボクは一歩進み出る。


「ルチルは、ボクが一人で引き受ける」

「………………はぁ……?」


 ルチルの目が点になり、一瞬後、彼女は、腹を抱えて笑い出した。


「くくくくっ!! 一人で引き受ける? シトリンちゃんが? どんな自己分析をなさってるんですか、あなた?」

「冷静に勝つための算段をしているだけだ。ボクが君を引き留めておけば、フローラのサポートを受けたコルリとジアルマは、魔人を必ず撃破してくれる」

「前提が間違っていることになぜ気づかないのかしら。もしかしてふざけてます? あなたが一対一で私を引き留められると思っていることが、片腹痛いと申し上げているのですわ」

「できるさ。その証拠に──」


 真正面から、ボクはルチルを見据え、言い放つ。


「君は、ボクの思考を読めなくなっていることに気づいていない」 

「何を言って……えっ……?」


 ボクは神視眼の力を解放する。

 風の魔法を身に纏い、自らの身体を飛翔させると、ボクは、ルチルへと一気に肉薄し、掌底を放った。

 完全に魔法特化である輝眼族の少女が、接近戦を挑む。

 その突飛な行動に、ルチルの反応が遅れた。

 ボクの光の魔力をまとった掌は、寸前で、ルチルの闇の刃で受け止められるが、彼女の首筋には冷や汗が浮かんでいた。


「あ、あなた……!?」

「もう、ボクの心は読ませない。仲間達にも手を出させない!」

「生意気な!!」


 イーズマで、再びレナコに会った時、彼女は、ボクのサークレットに調整を施してくれた。

 元々、このサークレットは、ボクが神視眼の力を任意で制御できるように作ってくれたものであったが、イーズマでの鋼帝竜での戦いを経て、レベルが上がり、再び、力を使うことに慣れたボクにとって、このサークレットはすでに必要ないものになっていた。

 だから、レナコは、サークレットを制御のためではなく、より戦闘で役に立てるように、機能を取捨選択できるようにしてくれた。

 その一つが、魔力の遮断を双方向ではなく一方通行にできるようになったこと。

 サークレットには、もともと心読スキルを制限するために、魔力を完全に遮断する機能が備わっていた。

 そのため、神視眼を使っていない時は、外部からの魔力も遮断できるが、逆に使っている時は、外部からの魔力の影響を受けてしまうという特性があった。

 しかし、調整により、こちらが魔力を使っているときでも、相手からの魔力は遮断できるようになったのだ。

 つまり、今のボクは、自分は神視眼を媒介とした魔法で攻撃しつつも、相手からの精神攻撃は跳ね返すことができる。

 ただし、この機能は心読以外のことに限られる。相手の心を探ろうとすれば、こちらの心をも無防備にさらす必要があるのが心読だ。

 さっきは、ルチルの心を読もうとするあまり、手痛いカウンターを食らうことになってしまったが、こちらがルチルの心を読もうとさえしなければ、相手からの心読も、精神攻撃も受ける事はない。

 お互い心を読めなければ、あとは、ただ、単純に戦闘力そのものの戦いだ。

そして、新たに天衣無縫が織り込まれたこのサークレットは、ボクの神視眼の力を倍加する機能をも持つに至った。

 あとは、ボクがそれを使いこなせるかどうか。


「シャイニングアロー!!」

「ダークネスアロー!!」


 中距離で、お互いの魔法がぶつかり合い、激しい衝撃が周囲に広がる。

 魔法の威力は、ほぼ互角。


「実力を隠していましたの!?」

「そんなことはない!!」


 強いて言うならば、負けられないという想い。

 ディグが信頼してくれているというその想いが、ボクをどこまでも強くしてくれる。


「絶対に、君を止める!!」

「しゃらくせぇですわ!!」


 自らの潜在能力の限りを引き出す思いで、ボクは、ただひたすらに神視眼の力を振り絞った。




 ドーンの街の有様はひどかった。

 魔人を追って、街中を走る中で、クエストからもっと早く帰って来ておけばと、何度も悔いた。

 それほどの惨状が、街中には広がっていた。

 ギルドの職員たちが、避難誘導をしてくれたようで、幸いなことに、多くの住民が、街の外の草原へと逃げることができたようだけど、多くの建物が倒壊し、また、火の手が上がっているところさえもあった。

 あー、あのお店……今日は、あそこでランチを食べようと思っていたのに……。

 地面に落ち、中ほどで真っ二つに割れたお気に入りの料理店の看板を惜しみながらも、私は、走り続けた。

 ほどなくして、街の中央にある公園へとたどり着く。

 ほんの10日ほど前、ディグくんのお嫁さんになるために、彼の仲間の冒険者達と5番勝負を繰り広げたあの公園だ。

 でも、その様子は、あの時とは大きく変わっている。

 手入れされていた芝生は、ところどころが剥げ、街灯もその多くが折れてしまっている。

 なによりも、中央にあった、あの特徴的な噴水がこなごなに砕かれ、破片をそこかしこにまき散らしていた。


「これは……ひどいですね……」

「フュンっ!!」

「あっ、フィー」


 街に出るときに分かれたフィーが、こちらへと走ってきた。

 いや、彼女だけじゃない。

 アイン、ツヴァイ、ドーラも同じく、合流する。


「良かったっ。みんな無事だねっ!」

「あの化物ども、こっちに逃げてきたわよね」

「ああ、どうやら、一か所に集まるつもりらしいね」

「で、でもどこに……?」


 5人揃って、周囲を見回す。

 すると、先ほどの噴水の残骸が、いきなり飛び散った。

 そして、見通しのよくなったそこに立っていたのは、5体……いや、6体の魔人。

 うち5体の魔物は、ここに来るまでに、私達姉妹と交戦し、それぞれダメージを負ったようで、四肢が欠損したり、身体の一部が炭化している。

 そして、その5体は、唯一ダメージを負っていない6体目の魔人を中心に、その周囲を囲っている。

 紫焔の光が5体の魔物を包みこみ、なにやら、儀式めいた雰囲気が感じられる。


「何をしてるのかしら?」

「嫌な予感がするね……。何かする前に、一気にやっつけてしまおう」

「そうですねっ!」


 ツヴァイ、アイン、フィーは頷き合うと、それぞれ陣形を組んだ魔人へと攻撃態勢に入った。


「おっと! 今、攻撃されるとちょっとまずいな!」


 その時、横合いから、一人の少女が現れた。

 薄紅色の髪の毛をポニーテールにまとめ、円形の盾を装備した冒険者風の少女だ。

 彼女は、まるで、守るように盾を構えると、ツヴァイ達の進行方向に割り込んだ。


「どきなさい!! そこに立ってられると邪魔!!」

「邪魔してるんだよ。魔人は僕が放ったんだからね」

「なっ!?」


 この少女が魔人を?

 にわかには信じられないけど……。


「だとしたら、許せないわ!! どかないなら、押し通るだけよ!!」


 ツヴァイが、少女をどかそうと、まわりげりを放つ。

 手加減してない。

 人間相手に使うにはどうかと思う鋭さで放たれた蹴りが、ポニーテールの少女へと炸裂した。

 けれど……。

 

「うそっ……!?」

「へぇ、凄い蹴りだね。盾を持ってなかったら吹き飛ばされてかも」


 少女は、まるで余裕そうに、そんなことを宣った。


「ツヴァイ!!」


 アインが、横合いからさらに斬り込む。

 ブロードソードでの一撃が、少女の盾を捉える。


「こっちの人も、なかなかのパワーだ。けど、この程度じゃ、僕の盾は揺らがない」


 そんな……!?

 今は人型になっているけれど、元々がドラゴンである私達のパワーは、普通の人間とは比較にならない。

 攻撃力ももちろん高く、今まで魔物を撃ち損なうことなんてなかった。

 それが、こんな華奢な少女に、簡単に止められてしまうなんて。


「はぁあああああああああああああっ!!」


 フィーが声を上げた。

 モーニングスターをぶんぶん振り回し、勢いをつけて振り下ろす。

 アインとツヴァイが飛びのくと同時に、殺人的な遠心力で強化された鉄球が少女へと振り下ろされた。

 フィーは、ママから受け継いだ【剛力】スキルを持ち、私達姉妹の中で、一番力持ちだ。

 その全力の攻撃は、地面にクレーターを作ってしまうほど。

 さすがに、殺してしまったかも……と、一瞬冷やりとした自分だったけど……。


「そ、そんな……!?」


 フィーが驚愕の声を上げた。

 少女は、圧倒的な加速度で放たれたフィーの鉄球すらも、真っ向から受け止めていた。

 一歩も下がることすらなく……。


「さあ、完成だ」


 少女が盾を掲げる。

 すると、その後ろで、魔人達がほの暗い光を放った。

 5体の魔人の身体が、グロテスクな肉片へと変わったかと思うと、中央にいた1体へと吸い込まれていく。

 一瞬後、そこには、強靭な手足を持つ巨体が、私達を見下ろしていた。


「僕の名は、スコレ。そして、こいつは、六魔合体ゴドマズ」


 円形の盾を突き出し、スコレと名乗った少女は宣言する。


「この街は、僕たちがすべて破壊しつくす」

連続投稿2/10話目になります。

この機会に、ブクマ&評価をいただけるとたいへん嬉しいです。

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