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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第8章 新たなる戦いの幕開け
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136.飛翔

 驚きの表情を浮かべていたはずのルチルが笑っていた。


「えっ……!?」

「ディグ!!」


 フローラの叫び声。

 オレは、反射的に、嵐帝の加護で、アンシィを振るうのとは真逆のベクトルへと跳ねた。

 その直後、ついさっきまでオレのいた位置を筋肉質な巨体が、弾丸のような勢いで通り過ぎる……魔人だ。

 あのまま攻撃をしていたら、アンシィが届く前に、横合いから強烈なタックルを食らっていた。

 オレは、受け身を取りながら、再びルチルと距離を取る。


「ディグ、すまない……!!」


 再び宙に浮かぶルチルを見上げたオレの元に、コルリが駆けてきた。

 その額からは、一筋の血が、タラリと流れている。


「コルリ、大丈夫か!?」

「ああ、かすり傷だ……。それよりすまない。突然角が光り出したと思ったら、いきなりあの女の方へと走っていって……対応が間に合わなかった」


 どうやら、魔人はルチルの指示で、コルリからオレへとターゲットを変えたらしい。

 光っていたということは、きっと角は、魔人が命令を受けるための受信機のような役割を果たしているんだろう。


 ドゴォオオオオオン!!


 と、今度はジアルマが、オレとコルリのすぐそばの地面へと降ってきた。


「くぅー、効いたぜ……」


 大剣を杖にして立ち上がると、ジアルマは裂けた頬から流れる血を拭った。

 気づけば、もう一体の魔人も、いつの間にかルチルの傍までやってきていた。

 ジアルマとの戦いで、それなりのダメージを負っている様子はあるが、まだまだ、五体満足。


「ふふっ、ちょっと危なかったですわ。やはりさすがは転生者。人間風情と舐め切っていてはいけませんわね」

「人間風情との戦いに、魔人のサポートが必要とはな」

「安い挑発ですわね。私は、楽ができるなら楽をしたいタイプなんですの。そちらも集合したようですし、第2回戦といきませんこと」


 こちらを見透かしたかのように、にんまりと笑うルチル。

 くそ、この調子で戦い続けていたら、その間に、街が完全に壊されちまう。

 焦るな。と、頭では思っていても、鼓動はどんどん早鐘を打っていく。


「ディグ、もう一度、オールアップ・プログレッシブで、一気呵成に行きましょう!」

「それしかないか……」

「ああ、私とジアルマもサポートする」

「俺様もか!? ……まあ、いいぜ。あの女のほえ面かく顔が見てぇ」


 にらみ合う双方。

 お互いにしかけるタイミングを計っているその最中、背後にわずかに誰かの気配を感じた。


「待て……みんな……」

「シトリン……!?」


 その気配の正体はシトリンだった。

 彼女は、苦しそうにフラフラと歩きながらも、オレ達の傍へとやってくる。


「あらあら、案外早く復帰しましたわね」

「ディグ、聞いてくれ……」


 ルチルの話には取り合わず、よろめきながらも、シトリンはオレの腕をつかんだ。


「ここは、ボク達が食い止める。だから、君は、先に街へと戻るんだ」

「シトリン……でも!!」

「ふふっ、何を言い出すのかと思えば……。肝心かなめのディグさんなしで、私たちと対等に戦えるとでも? それに……」


 ルチルが、おもむろに腕を上げる。

 すると、ルチルを中心として、ドーム状に半透明の何かが形成された。


「闇の檻……物理的な攻撃で割るのは至難の業ですわ。もう皆さんには逃げ場すらないということ……って、聞いてますの?」


 ルチルの所作など一切目に入らない様子で、シトリンはオレの瞳だけを真剣に見つめてくる。

 いつも、どこか視線を合わせることを躊躇していたシトリン。

 その彼女が、今までで一番真っすぐな視線でオレを見つめていた。

 シトリンの3つの瞳の中に、オレの姿だけが映る。


「ボクを……信じて……」


 返事はしなかった。

 オレは、ゆっくりと頭を上げる。

 仲間達を見た。

 フローラが笑顔で頷いた。

 コルリは耳をピンと立てる。

 ジアルマは、鼻で笑っていた。

 そんな仲間達に、オレは首肯だけを返す。


「な、何ですの、あなたたち……。なんでこんなに気持ちが……」


 初めて、はっきりとした動揺が、ルチルの顔に浮かんだ。


「お前には一生わからないさ!!」

「ホーリーチェイン・プログレッシブ!!」


 オレが、アンシィに乗って飛び立つと同時に、フローラが、拘束魔法を2体の魔人へと放つ。

 オールアップと同様、魔力を全力で込め続けることで、魔法の威力を倍加させた聖なる鎖は、剛力を誇る魔人だろうが、一瞬の硬直を余儀なくさせる。


「させませんわ!」

「こちらがな!!」


 飛び立ったオレへと、闇の刃を放とうとする、ルチルに、うちのパーティの頼れる前衛二人が、全力の攻撃を放つ。


「おらぁああああああ!! クソ雑魚野郎の邪魔してんじゃねぇぞ!!」

「ディグに手出しはさせない!!」


 さすがのルチルも、2人の同時攻撃に、攻撃よりも、防御を選択せざるを得ない。


「くっ!? けれど、あの闇の檻は壊せませんわよ!!」

「どうかな?」


 ルチルの握る闇の刃と鍔迫り合いをするコルリが、不敵に笑った。


「ディグ、そこだ!!」


 シトリンが教えてくれた。

 闇の檻の一番脆い場所。それは、ルチルの真上、ドームの頂点。


「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」


 嵐帝の加護を全力にして天頂へと飛翔したオレは、アンシィを腕に持ち替える。


「行くぞ!!」

「わからいでか!!」


 2人の心を重ねる。

 そう、オレ達は何でも"掘れる"。

 たとえ、それが、物理的な攻撃を寄せ付けない魔力の障壁であったとしても。


「概念スキル!! 発動!!」


 初めて、意識的に概念スキルを発動する。

 概念スキルとは、すなわち、あらゆるものを掘り抜く力。

 オレとアンシィのこの力ならば、この世に掘れないものなどない。


「う、うそ……ですわっ!?」


 スコップの先端が、闇の檻の天頂に触れた瞬間、そこには、巨大な穴が穿たれていた。


「アンシィ!! 行くぞ!!」

「振り落とされないでよ!!」


 オレは、再び、アンシィの刃と持ち手に足をかけて、サーフィンモードになると、ドーンの街がある南へと全速力で飛んだ。

 首元のマフラーが、オレの意思に反応して、大きく広がった。

 レナコさんと天衣無縫を取りに行った後、アルマの服のついでに作ってもらった伸縮自在のマフラーだ。

 嵐帝の加護での長距離移動を想定して製作されたそれは、グライダーのように広がり、飛行時のバランスを保つ。


「待ってろよ!! 街のみんな!!」


 残してきた仲間達を信じ、オレとアンシィは、ひたすら全力で、街への最短コースを飛翔した。

連続投稿1/10話目になります。

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