135.悪魔の輝眼族
「うぉおおおおらぁあああああ!!!」
2体の魔人へと颯爽と飛び掛かっていたのは、やはりジアルマだった。
強そうな相手が現れて、ジッとしてられる奴じゃない。
大剣を引きずるように、間合いを詰めると、ジアルマは魔人に向かって、一閃した。
しかし……。
「グルゥウウウアア!!!」
分かれた上半身から復活した魔人が、自らの腕でそれを受け止める。
「な、なんだと……!?」
「グルァアアア!!!」
そのまま、力任せに腕を振るうと、いとも簡単にジアルマの身体が宙を舞った。
「くっ!?」
態勢を立て直し、再び大剣を振るうが、やはりそれも、魔人の剛腕に留められる。
先ほどまでとは、パワーも耐久力も、そして、反応速度も段違いだ。
「へっ!! ようやく面白い相手が現れたぜ!! こいつはタイマンでぶち殺す!!」
激しいバトルを開始したジアルマと魔人。
だが、そのジアルマに横合いから攻撃を加えようとした者がいた。
下半身から生まれたもう一体の魔人である。
ふとましい脚とは思えない、素早さでジアルマに迫るそいつ。
だが、その頬に、一筋の傷が刻まれた。
コルリである。
「ディグ!! こいつらは、私達に任せて!! 本丸を!!」
「ああっ!!」
2体の魔人をジアルマとコルリに任せ、残るメンバーでルチルと対峙する。
「ふふっ、鋼帝竜を倒しただけあって、やはりあの2人もなかなかやりますわね。私が強化した魔人は、レベル99の者でもたやすく葬りされる力があるというのに」
「ルチル! 今からでも遅くない!! 魔族側につくのはやめるんだ!!」
「あー、そういうので、ほだされる私ではありませんので。あと、最初に言っておきますと、同族でも、容赦はしませんわよ」
言葉通りに、ルチルが神視眼に力を込めると、暗黒色の剣が、空中にいくつも浮かび、襲い掛かってきた。
「闇魔法!?」
「全員オレの後ろに!!」
オレは、土壁スキルを使い、魔力でできた刃から身を守る。
「まぁ、土で防御なんて、あまりエレガントではありませんわね」
「泥臭さがオレと相棒の持ち味でね!!」
軽口を叩いて、自分を鼓舞すると、オレとアンシィは嵐帝の加護の力で、奴へと飛翔する。
先ほどから、相手はその場を動いていない。
あくまで、予想だが、彼女の機動力は大したことない。
「ぶっぶーですわ。動く必要がないだけです」
「えっ!?」
思考を読まれた!?
そう思った時には、オレは何かにぶつかっていた。
見ればそれは、いつの間にか、進行方向に設置されていた、謎の黒い球体だ。
腹部にまとわりついたそれから、電撃のような激しい衝撃が放たれる。
「ぐぁああああああああっ!!」
「ディグ!!」
「はい、遅いですわ」
シトリンが風魔法で、オレを助けようとするが、その魔力が放たれる直前に、黒い球体が、今度はシトリンに襲い掛かる。
フローラも同様だ。
『ぐぁああああああああああああああああっ!!!』
「まったく。やはり、人間と言うのは、戦闘中でも無駄な思考が多いですわね。シンプルじゃないですわ」
自分の髪の毛をもてあそびながら、つまらなそうにつぶやくルチル。
黒い球体の電撃が過ぎ去ったオレは、地面に膝をついて、息を整える。
そうだ。忘れていた……。
彼女が輝眼族だとすれば、心読スキルを持っているということ。
オレ達の思考は、常に読まれて続けている。
今みたいに、下手な攻撃は、すべて、発生する前につぶされてしまう。
これまで戦った敵と同じように戦うことは不可能。
だが、それは、相手だけのアドバンテージじゃない。
「ま、そう考えますわよね」
同じく黒い球体からダメージを受けながらも、シトリンがオレの前へと進み出た。
輝眼族には、輝眼族。心読スキルには、心読スキルだ。
「シトリン、頼む……!」
「ああ」
決意を込めた瞳で、シトリンは神視眼の力を全力で解放する。
額のクリスタルが、金の光を放ち、幾何学模様を浮かべた。
だが……。
「な、なぜだ……?」
シトリンの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「心が……読めない……!?」
「あなたのような型落ちの輝眼族の力では、私の心は読めませんわよ」
ルチルは鼻で笑うようにして、シトリンをねめつける。
「私はすでに、普通の輝眼族よりも先のステージにいるのです。考えて、わかりませんでしたか? 普通の輝眼族が、闇の魔法なんて使えると思います?」
そうだ。シトリンの最も得意とする属性は"風"と"光"。
それは、シトリンだけが得意というわけではなく、輝眼族の特徴といったものだろう。
しかし、ルチルは、闇の魔力で戦っている。
本質的に光の存在であるはずの輝眼族が、闇の魔法を使うなんて、そもそもがおかしいのだ。
「やはり、何千年も眠っていて、脳が錆び付いていらっしゃるのかしらね。ちなみに、こんなこともできますわよ」
「ぐっ!? ろあえ;sんたおんdgぽだfばpbsfxぱんpsxふぁpbfだ!!!!?」
「シトリン!!!?」
突然、シトリンが苦しみ出した。
しかも、尋常な苦しみ方じゃない。
目を見開いて、言葉にならない言葉を発しながら、倒れ伏す。
オレは、完全に気絶してしまったシトリンを必死に抱き支えた。
「何をした!!!?」
「私の心を読もうとしつこかったので、カウンターをしかけさせていただいた次第ですわ。この子、悪意とか憎悪に随分弱くなっているようでしたから、少しそういった悪感情を思念波として送らせていただきましたの」
「そ、そんな……」
もはや化け物なんてレベルじゃない。
こいつの強さ、能力は常軌を逸している。
このままじゃ、街へ引き返すどころか、この場で全滅もあり得る。
「あなたの思っている通りですわ。私達の力は、魔王様から与えられたもの。人間如きがどうにかできる強さではありませんの。素直に諦めた方が良いのではなくて?」
「ああ、確かにそうかもしれない……」
オレは、シトリンの周りに土壁を形成し、安全を確保すると、ルチルへと向き直った。
そして、アンシィを握る手に力を込める。
「だけど、どんなにお前が強かろうと、シトリンをこんなにしたお前を、オレ達が許すと思うか?」
「ふふっ、許すとか許さないとか、そんな狭量な尺度では──」
ルチルが言葉を切る前に、オレは、目の前の地面を掘り抜いた。
一息にルチルの足元の地面までトンネルを掘ると、そのまま、スコップドリルでルチルを狙う。
だが、当然のように、ルチルはオレの攻撃が届く前に、空中へと飛び上がっていた。
「だから、あなたの行動は丸わかりですってば」
「だったら、これならどうだ!!」
アンシィが、炎帝の加護を発動する。
スコップの刃先が赤熱し、そして。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
同時に、オレは、自分自身の中にある、熱いエネルギーを解放した。
「これは……!?」
さすがのルチルもわずかに驚きの声を漏らす。
フュン伝手に与えられた、炎帝竜からの新たな加護。
なんのことはない。それは、アンシィが以前もらったものと同じ、炎の力を身に纏う加護だ。
レベルが上がった今のオレだからこそ、人間でありながら、炎帝の加護を受け入れることができた。
そして、オレが得たものとアンシィが得たもの。2つの加護の力は1つとなり、より大きな炎となる。
名づけるならば……。
『炎帝の魂!!』
爆炎を纏った刃が、ルチルを掠める。
金髪のわずか数本が、焦げるとともに、風に散った。
「素晴らしいですわ!! この炎!! 竜帝のものですわね!!」
「フローラ!!」
「オールアップ・プログレッシブ!!」
フローラの呪文により、オレの身体がスッと軽くなる。
バフがかかったのだ。
相手に思考が読まれてしまうならば、それを前提に戦うのみ!
全力のパワーで、全力のスピードで、全力の炎で。
相手が対処できないほどの攻撃をぶちかますのみ!!
「いいですわ、ディグさん!! その単純明快な思考!! まさに、かつての輝眼族が追い求めた人物像!!」
「はぁあああああああああああああ!!!」
奴の戯言には耳を傾けず、オレは、とにかく全力全開でアンシィを振るう。
コルリのアドバイスを経て、フローラが自ら編み出した呪文「オールアップ・プログレッシブ」は、一律に能力を向上させる通常のオールアップとは異なり、魔力を込めれば込めるだけ、対象の身体能力が向上するという魔法だ。
常に大量の魔力を込め続けなければならないこの呪文は、フローラがそれだけに集中しなければならないという欠点はあるものの、その能力向上の度合いは、他のバフ系呪文の追随を許さない。
普段のコルリよりも、さらに速い体捌きを獲得したオレは、縦横無尽にルチルへと攻撃を繰り出した。
炎帝の魂の攻撃力もあり、ルチルの顔にも、さすがに余裕がなくなっている。いける!!
「いける!! じゃありませんわよ!!」
ルチルが腕を振ると、漆黒のかまいたちが吹き荒れる。
輝眼族が得意とする風とルチル特有の闇の混合魔法だろう。
その破壊力はすさまじい。
まともに受ければ、致命傷。ならば!
「受け流す!!」
フローラのバフにより、究極的に高まった動体視力で、かまいたちの軌道を完全に読む、幾筋かのその刃を掻い潜るようにして、オレはルチルに肉薄した。
初めて、ルチルの顔に焦りの表情が浮かんだ。
さあ、シトリンにしたことの報いを受けろ!!
「おらぁあああああああああああ!!!」
オレは、唐竹割りの如く、アンシィを真っ向から全力で振り抜いた。
20000PV到達しました!
明日11月22日(日)の19時15分頃から、連続投稿を行います。
まだ、ストックあまり書き溜められていないので、今から頑張ります。
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宜しくお願いします。