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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第8章 新たなる戦いの幕開け
134/156

134.四天王現る

「ふぅ、クエストから帰ってみれば、なんだか大変なことになってますね……」


 周囲を見回したゆるふわな女の子は、その整った顔をわずかにしかめた。


「とりあえず、アイン達とは別々に特に強い魔力を放っている化け物の元に向かってきましたが、正解だったようです」


 彼女は、私の方へとやってくると、手を貸して立たせてくれた。


「あ……ありがとう……」

「いえ、ところで、あなた、冒険者さんですよね? 一体全体なんでこんなことに?」

「それは、その……スコレが……」

「スコレ?」


 理路整然と会話をすることに慣れていない私は、どうにも上手く状況を伝えることができない。

 そうこうしている間に、吹き飛ばされた魔人が、崩落した建物の残骸を押しのけて、こちらに戻ってきた。


「うわぁ、タフですねぇ。結構強めにいったんですけど」

「あの、その……」

「とりあえず、ここから離れていて下さい。私がなんとかしますから」

「で、でも……」

「ほら」


 少しだけ背を押され、私は建物の隅へと隠れる。

 いったい彼女は何者なのだろうか。

 とりあえず、相当な実力者であるのは間違いないみたいだけど。


「ふぅ、帰ったら、お昼ご飯を楽しみにしていたというのに……。これじゃ、お店も全部やってませんよね。まったくもって許せません」

『ギィジャァアアアアアアアアア!!』

「うるさいです。とりあえず、黙らせますよ!!」


 ゆるふわな女の子が、魔人に向かって手をかざす。

 すると、手の平から、すさまじい魔力が炎となって表出した。


「火炎弾"業火"」


 まるでマグマのように燃え滾る業火が、弾丸の如く飛翔し、魔人を捉えた。


『ギィジャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 燃やし溶かされるようにして、脇腹を抉られる魔人。

 しかし、それでも、女の子に向かって、魔人は歩を進めてくる。


「ほんっとにタフですね……。というか気持ち悪いです」


 生理的に無理、とでもいったような顔で、魔人の攻撃を避けると、少女は後ろに回り込む。


「本当は触りたくありませんが!」


 少女が魔人の首根っこを掴んだ。


「一撃で決めます!! 炎帝"煉獄掌"!!」


 瞬間、掴んだその手からすさまじい炎が燃え上がり、魔人の全身を包み込む。

 やがて収縮するように炎が真っ白い光を放つ頃、少女は叫んだ。


「バーンエンドォ!!」


 少し触れただけでも灰になってしまいそうな爆炎の中、魔人の身体がぼろ雑巾のように吹き飛ばされた。

 真っ黒に炭化した魔人は、そのまま地面に叩きつけられる。


「ふぅ……これで、どうでしょうか?」


 額の汗を拭うと、少女は、確認するように魔人の方を眺めた。

 さすがに、今の攻撃を受けては、魔人も立ち上がることはできないだろう。

 そう思っていたのだけど……。


「ギ、ギギィ……」


 魔人は立ち上がった。

 脇腹は抉れ、ところどころ炭化した身体をボロボロと剥がれ落ちさせながらも……。


「ちょっと……いえ、かなり引きますね……」


 ゆるふわ少女も、明らかな嫌悪感を含んだ表情で、顔をしかめている。


「いいでしょう。今度は、身体の芯から焼き尽くして──」


 再び少女が、手の平に魔力を集中しようとしたその時だった。


「ギ、ギギッ!?」


 魔人の角が唐突に明滅しはじめた。

 そして、次の瞬間、どこかに向かって走り去る。


「あ、ちょっと……!!」


 逃げられた形となったゆるふわな女の子は、行き場を失った魔力を引っ込めると、ふぅ、をため息をついた。


「まったく……。どうやら、他の化け物達も同じ場所を目指しているようですね。不本意ですが、追うとしましょう」

「あ、あの……」

「あ、まだ、いらっしゃったのですか」


 火事場の馬鹿力というやつだろうか。

 私は、何とか彼女に向かって、自分から話しかけた。


「も、もうすぐ、ディグさんが、来てくれる……はずです」

「やっぱりディグくんはいないんですね」


 この街の有名人だから、伝わるかと思ったら、案の上、この少女は、ディグさんの知り合いらしかった。


「ふむ、私達と同じくクエストで外に出ているのですかね? 何にせよ。ディグくんが出かけている間に、街のピンチを救ったとあらば……ぬふふ」


 少女は少しだけ蕩けた表情で、両手を頬へと当てた。


「今度は、あちらからしていただけたりとか……。ああ、妄想が膨らみます」

「あ、あの……」

「あ、申し訳ありません! では、私は、あの化物を追いますので!!」


 少女は、一瞬で顔を引き締めると、人間離れした脚力で、魔人が去った方向へと走り出した。


「え、えっと……」


 私はどうしたらよいのだろうか。

 とりあえず……。


「冒険者として……できることを……」


 右手で持ったショートソードの柄を、私はグッと握りしめた。




「ふぅ、やっと、力を解放できますわ。まったく、やはり神視眼を解放していないと、どうにも肩が凝りますわね」


 突如第3の瞳を顕現させた少女──ルチルが、身体をほぐすように肩を回している。


「お、お前は……」

「君は、輝眼族なのか……!?」


 オレが尋ねるよりも早く、シトリンが叫ぶように、言葉をぶつける。


()ればわかるでしょう? 私は、輝眼族。そして、魔王様の忠実なるしもべ、逢魔四天王が一人、ルチル」

「四天王だと……?」


 いよいよ魔王っぽい単語が出てきやがったぞ。


「あなたもかつては魔王側の人間だったじゃないの。お優しいシトリンちゃん」

「貴様は……」


 シトリンがグッと唇をかみしめる。

 輝眼族は、遥か昔、人間と魔族の戦争の際に、魔王側についた種族だ。

 仮に、生き残りがいたとして、そいつが未だに魔王側についていたとしてもなんら不思議はない。

 理屈ではそうわかっていても、理性が事実を拒絶している。

 シトリンにしてみれば、自分一人しか生き残りがいないかもしれないと思っていたところに現れた唯一の同族だ。

 輝眼族は、全員が女神から直接生み出された存在だというから、いうなれば、全員が肉親みたいなものだろう。

 生き別れた肉親が、敵側についていたという辛さは、想像に難くない。


「何で、魔王なんかに……!!」

「あら、魔王なんかに、とは随分な言い草ですわね。あなたが魔王様の何を知っているというのかしら」

「それは……」

「ディグ、彼女のペースに乗せられてはいけない!!」


 辛いだろうに、シトリンはそれでも冷静に、そう言い放つ。

 そうだ。いきなりの登場で動揺してしまったが、ここで無駄な時間を浪費するわけにはいかない。

 街は今、襲われているのだ。


「ふふっ、行かせはしませんわよ。彼女が街を完全に破壊しつくすまで、もう少し時間が必要でしょうから」 

「もしかして、あのスコレという少女も……」

「ご明察……というには、少し気づくのが遅すぎましてよ。私とあの娘は、魔王様の命を受け、ドーンの街に潜入していたのでございますわ」


 つまり、今、街を襲っている魔人は、スコレが指揮を執っているということか。


「何の目的でドーンを……!?」

「さあ? 私は、魔王様の命に従うだけですので」

「通させてもらう!!」

「だから、行かせません、と言ったはずですわよ」


 瞬間、ルチルの神視眼が輝いた。

 すると、倒されたはずの魔物の上半身と下半身が黒い靄を放ち、むくりと起き上がった。

 そうして、上半身からは下半身が生え、下半身からは上半身が生える。

 元々、隆々としていた筋肉はさらに肥大化し、体長も倍近く大きくなった。


「ふ、増えた上に……パワーアップしてないですか!?」

「やはり、ここの土地は魔力が豊富ですわね」


 どうやら、土地の魔力を利用して、魔人を復活させてしまったらしい。

 さすが、逢魔四天王とやらの一人なだけはある。


「さあ、私に加え、魔人が2体。どこまで楽しませてくれるか、見ものですわね」


 幼げな顔に、ルチルは妖艶な表情を浮かべていた。

昨日の更新で、始めて1日のPVが700を超えました。

ありがとうございます!

連続投稿デーまで、あと2日。

書き溜めも頑張ります。

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