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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第8章 新たなる戦いの幕開け
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133.ドーンの危機

「もうそろそろですわ!!」

「ああ、この距離ならボクにも感じられる!! ディグ、もう間もなくだ!!」

「わかった!!」


 オレ達はルチルが誘導する森の中を、全力で駆けぬけた。

 ほどなく、森の中の少し開けた花畑へとたどり着く。


「ここは……?」

「魔草……ですね」


 周囲に生えている花々には、いくつか見覚えがある。

 あの常闇の庭園に生えていたのと同じものだ。

 ということは、ここは魔人の好む、天然の魔力が濃いスポットということ。


「あそこだ!! ディグ!!」


 シトリンの指差す先に、大きな斧のようなものを持った人型の化け物がのそりと立っていた。

 商人たちの話に聞いた通りの筋骨隆々のその化け物は、ようやくこちらに気づいたように、ゆっくりと振り向いた。

 間違いない。こいつがキャラバンを襲った魔人。


「やるぞ! みんな!!」

「待ちやがれ!!」


 巨体を揺らし、こちらへと走ってくる魔人に向かい、真っ先に飛び出したのは、アルマの身体から主導権を奪ったジアルマだった。

 神域級の大剣と筋肉魔人の巨大な斧がぶつかり合い、火花が散る。


「へっ、まあまあのパワーだな!! だがよ!!」


 ジアルマがグッと地面を蹴ると、力負けした魔人がズズズっと後方へと滑る。


「力比べは、俺様の方が上だぜ!!」


 そのまま魔人の首を無造作につかむと、ジアルマはその巨体を上空へと投げた。

 そして、自身も飛び上がる。


「おらぁあああああああ!!!」


 大きな影を作るその背中に向かって、ジアルマの強烈な一太刀が炸裂する。

 今やレベル130を超えるジアルマの一撃は、まるで豆腐に包丁を通すが如く、魔人の身体を真っ二つに裂いた。

 やがて、豪快に大股開きで、ジアルマが地面へと着地すると、その後方で上半身と下半身に分かれた魔人が、重そうな音を立てて、地面へと叩きつけられた。


「ちっ、なんだよ。魔人なんていうから少しだけ期待したが、なんてこたぁねぇじゃねぇか」


 ジアルマが面白くなさそうに吐き捨てる。


「あらら、やっぱり凄いんですわね。ディグ様のパーティメンバーの方は」


 口ではそう言いつつも、ルチルはどこか他人事のように倒された魔人の方を見つめていた。


「シトリン、どうだ?」

「魔人の魔力が完全に消えた。討伐は完了ということで大丈夫だろう」

「ふぅ、探すのに手間がかかったわりに、魔人自体はあっけなかったわね」


 とはいえ、謎は残る。

 魔人の気配が途切れた理由や角が光っていたということ。

 ジアルマが瞬殺してしまったせいで、その辺りのことまで、しっかり確認を取ることができなかった。


「とりあえず、帰りましょう。アタシ、もうお腹ぺこぺこなんだけど」

「あ、ああ……」


 どこか釈然としないものを感じつつも、馬車のある場所まで戻ろうと、歩を進めようとしたその時だった。


(助けて……)


「えっ……?」


 誰かの声が、頭に響いた。


(誰か……助けて……)


 間違いない。確かに聞こえる。

 この声は……。


「リシア?」


 そうだ。この声は、オレ達のパーティへの加入を希望してやってきたあの内気そうな少女、リシアのものだ。

 なぜだか、わからないが、そのリシアの声が、オレの頭の中に響いていた。

 しかも、何か切羽詰まった様子だ。


「どうしたの、ディグ?」

「わからない。でも、リシアの声が聞こえるんだ……」

「リシア……? ああ、あの」


 尋ねてきたコルリも思わず首をひねった。


「みんなには聞こえないのか?」

「まったくもって」

「ディグ、もしかしたら、特定の人間だけに送れる伝達魔法かもしれない。心の中で、言葉を発してみるんだ。相手にも伝わるかもしれない」

「わ、わかった」


 シトリンの言葉に、オレは、目をつむって、心の中で言葉を返す。


(リシア……リシア……オレの声が聞こえるか?)

(ディグさん!? あ、頭の中に……。え、なんで……?)


 この慌てよう。どうやら、リシアが意図して伝達魔法を使ったというわけではないらしい。

 妙な状況に、戸惑いつつも、まずは、尋ねておかねばならない。


(何かあったのか?)

(そ、それが……)


 一瞬だけ言い淀んだリシアだったが、すぐに心の口を開く。


(街が魔人に襲われています)

「なんだって……!!?」


 思わず、心の中ではなく、実際に声を上げてしまうオレ。


(それで、お姉さんも……スコレに……)

(お、おい、なんだって? はっきり教えてくれ……!!)


 断片的にしか情報が聞き取れない。

 まるで地下に入って、ケータイ電話の電波が通じなくなってしまった時のように、徐々にリシアの声が小さくなっていく。

 何かを聞き出す間もなく、脳内に響いていた声は、まったく聞こえなくなってしまった。


「いったい何が……?」

「ディグ、落ち着いて。どうしたの?」

「街が魔人に襲われているらしいんだ!!」

「何ですって!?」


 仲間達の間にも動揺が走る。


「どうやら、早急に戻る必要があるようだ!!」

「ああ、すぐに馬車まで戻ろう!!」


 走り出そうとしたその時だった。


「あれぇ、なんで、街が襲われているのがわかっちゃったんですの……?」


 それまで、感情のない瞳で魔人の方を見つめていたルチルが、無機質な声でそう言った。


「ルチル……?」

「せっかく無茶苦茶な道案内をして、時間稼ぎをしていたのが無駄になってしまいますわ」

「おい、何を言って……」

「触るんじゃないですわ。下等生物ども!!」


 オレがルチルの肩を掴もうとした瞬間、ルチルの雰囲気が豹変した。

 金髪が逆立ち、そして……。


「あれは……」

「そんな……まさか……」


 彼女の額には……金色に光る三つ目の瞳が顕現していた。




「はぁはぁ……はぁ……」


 突然、ディグさんの声が聞こえ、会話ができたのもほんのつかの間のことだった。

 すぐに、その声は途切れ、私は、街の状況をほんのわずかしか伝えることができなかった。

 なぜ、彼と会話ができたのかはわからない。

 ただ、少なくとも、街のピンチを知った彼と仲間達は、きっとすぐに戻ってきてくれるに違いない。

 それだけが最後の希望だった。

 そう、最後の……。


 ドガァアアアアアアアアン!!!


 また、どこかで爆発音が聞こえた。

 そこかしこで建物が崩落し、街に住む人々が逃げ惑っている。

 ギルドを中心に暴れ出した6体の魔人に加え、街の周囲には、魔物の群れも放たれていた。

 魔物の方は、街の冒険者達でも、なんとか対応ができているようだけれど、魔人に関しては、どうしようもなかった。

 お姉さんの指示で、タンク系の職業の冒険者で、なんとか暴走を食い止めようとしているけれど、この街の冒険者達のレベルでは、とても止められるものではなかった。

 次々と街は破壊され、今や、その脅威は、街の中央部から波紋のように広がっていた。

 私はと言うと……当然、魔人なんかに立ち向かえるわけもなく、最初のゴタゴタでギルドから放り出されて以降、街の片隅に身を隠していた。

 一応、手にはショートソードを握りしめてはいる。

 冒険者になるならと、街の武器屋で購入した一番安価なものだ。

 ただ、私の手は、ブルブルと震えていた。


「はぁはぁ……」


 ずっと身を隠しているだけだというのに、身体が震える。息が苦しい。

 もし、魔人に襲われたら、私なんかひとたまりもない。

 いや、普通の魔物ですら、私にはどうしようもできない。

 私は、レベル1の……ただの冒険者(ぼうけんしゃ)なのだから。


「ギ、ギギィ!!」

「…………っ!?」


 その時、私が身を隠す路地の向こうで、魔物の声が聞こえた。

 右手に剣、左手に盾を持ったトカゲの化け物。シュロマンだ。 

 魔物達は、人間を追い立てるように、早足で道を進んでいく。

 ふと、逃げ惑う人々の中で、一人が倒れ伏した。


「あっ……!?」


 思わず声が漏れた。

 それは、まだ、幼い少女だった。

 足をもつれさせ、地面に這いつくばった少女に、魔物が迫ってくる。

 助けなきゃ! と思うが、脚が動いてくれない。


「くぅ……!!」


 怖い。やっぱり怖いよ。

 でも、このままじゃ、あの子は……。

 私が、駆け出せない間に、そんな少女の前に誰かが躍り出た。

 それは、純白のワンピースを身に纏った一人の女性……いや、男性だった。

 女性の格好をした男性は、少女を守るように、魔物と少女の間に立ち塞がる。

 武器はない。冒険者のようにも見えない。彼はきっとただの一般人だ。

 だけど、彼は、正面から魔物を見据え、両の手を広げ、少女を守っている。

 なんていう勇気だろうか。

 そんな勇敢な街の人の姿を見た瞬間、私の心の中で、何かが弾けた。

 私は、ショートソードを持つ腕に、力を込める。

 レベル1の私。

 冒険者登録をしたときに見せてもらったステータスも、凡庸極まりなかった。

 そんな私でも、できることがあるなら。

 ワンピース姿の男性を斬り裂こうと、剣を振り上げたシュロマンに向かって、私は駆ける。

 非力な私では、シュロマンの硬い鱗を貫くことはできない。

 狙うなら、急所。


「うわぁあああああああああああ!!!」


 力いっぱい叫びながら、私は横合いからシュロマンへと突っ込む。

 私に気づいたシュロマンが、わずかに首を傾げた。

 その喉元に、ショートソードを全力で突き立てる。


「グギッ!?」


 柔らかい喉の肉に、刃が突き刺さるなんとも言えない感覚。

 だけど、ここで私がやらなくちゃ……!!

 不快な感触に顔をしかめながらも、私は、歯を食いしばってシュロマンの首筋に刃を突き立て続けた。

 血が噴き出し、視界が赤く染まる。

 どれくらいそうしていただろうか。

 やがて、シュロマンの身体から力が抜け、地面へと倒れ伏した。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 深々と突き刺さったショートソードをなんとか引き抜き、私は立ち上がる。

 やった……私……助けられたんだ……。


「だ……だいじょうぶ……ですか?」


 声をかけると、ワンピースの男性は少女を助け起こしながら、私に笑顔を向けた。


「助かったわ~。もう、本当に絶体絶命かと思ったもの~」


 間の抜けた口調に、なんだか、こちらも少し力が抜けつつも、元気そうな様子に、私はホッと胸をなでおろした。


「あ、あの、その……」

「うん、この子を連れて逃げるわね~。冒険者のお嬢さんも、無理はしないで~」

「あ、はい……」


 そそくさと少女の手を引き、逃げ去っていくワンピースの男性の後姿を見守る。


「あ、私も……」


 ボケっとしている場合じゃない。逃げなくちゃ。

 そう、思ったその時だった。


 ドォオオオオオオオオオン!!!


「えっ……!?」


 すぐ目の前の民家が、吹き飛んだ。

 もうもうと立ち上る土煙の中、現れたのは……魔人。


『ギィジャァアアアアアアアアア!!』


 腰が抜け、その場へよろよろとへたり込む。

 ああ、ダメだ……今度……こそ……。

 諦めに瞳を閉じようとしたその時だった。


「チェストォオオオオオオ!!!」


 叫びと共に、何者かが魔人を横合いから殴りつけ、吹き飛ばした。


「えっ……あっ……!?」


 魔人を力づくで殴り飛ばすなんて、いったい……。

 徐々に晴れていく土煙の中、姿を現したのは、およそ暴力とは無縁そうな、ゆるふわな印象の女の子だった。

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