128.2人の冒険者
「あぁああああああああああああ!!! もう我慢できねぇ!!!!!」
近くの森で簡単な討伐クエストをこなして、ドーンの街へと帰る道すがらのことだった。
後ろから2番目を歩いていたアルマが急に立ち止まった。
最後尾を歩いていたコルリが声をかけようとしたときには、アルマの身体はすでにジアルマへと変わっていた。
ジアルマはめちゃくちゃ猛っていた。
どうやら、ぬるいクエストばかりの最近のお気楽生活に嫌気が差していたらしい。
根っからのバトルジャンキーのジアルマだ。
当然の帰結と言えば、それまでなのだが、やはり、それだけでは済むはずもなく、欲求不満の矛先を勝手にライバル視しているコルリへと向けた。
当たり前のようにコルリも応戦した結果、どうなったかと言えば。
「はぁ……」
オレは、ため息をつきながら、巨大な穴ぼこだらけの草原を見渡した。
はい、こうなったわけですね。
いやぁ、本当に激しいバトルでした。
もうね。印象的には、ゴジラ対キングギドラってもんよ。
最強クラスの冒険者が、駆け出しの街のすぐそばの草原で戦った結果、そこかしこに巨大なクレーターが穿たれ、さらに近くの林の木々まで、ばっきぼきに倒れた状態にしてしまった。
さすがにこのままにはできないということで、パーティーリーダーであり、なおかつスコッパーでもあるオレは、アンシィとともに、こうやって必死にその後始末をしているというわけだ。
うん、ため息がでるのも仕方ないというものだろう。
「まったく、後片付けをする人の身にもなってほしいもんだ……」
ひとしきり暴れたジアルマは、アルマの中で再び眠りに入ったが、また、いつ暴走し出すとも限らない。
っていうか、確実に近いうちに暴走するだろう。
しばらく日常を謳歌してしまったオレ達パーティだったが、そろそろ、本腰を入れて、次の目標ってやつを定めないといけない時期に来てしまったようだ。
「うーん、とは言ってもなぁ……」
はっきり言って、目標と言われても、あんまり思いつかなかった。
強いて言えば、魔王討伐……なのだが、ぶっちゃけ、魔王の"ま"の字も感じられないほど、平和なドーンで暮らしていると、どうにも目標としてイメージがしにくいのだ。
あとは、高難易度の迷宮の攻略あたりになるわけだが、そうなると、ドーンの街から遠く離れた場所に行かなければならない。
ドラゴンシスターズはまだまだ、ドーンの街の生活に慣れてないし、彼女達を置いて、今、どこか遠くまで行ってしまうのは、少し忍びない気もする。
「できるだけ近くて、歯ごたえのある迷宮とかあればいいんだけど……」
あとで、ギルドのクエストのお姉さんにでも相談してみようか。
そんな風に、考えながら、オレは黙々とクレーターを埋めていったのだった。
さて、そんなことがあった翌日だった。
受付嬢の爆乳お姉さんのボインを眺めに……もとい、何か近場で歯ごたえのあるクエストがないか聞きに、仲間達とともにギルドを訪れると、なんだかやけにギルドの中が盛り上がっていた。
「何か催し物でしょうか?」
疑問に思いながらも、いつものようにスイングドアを開けると、そこには人だかりができていた。
どうやら、何かがその人だかりの中心にいるらしい。
屈強な冒険者達が、やいのやいのと騒ぎ立てている。
雰囲気からすれば、喧嘩か何かといったところか?
「あっ、ディグさん!!」
と、声をかけてきたのは、乳柱……もとい受付のお姉さんだった。
「どうしたんですか、これ?」
「どうしたもこうしたもないですよ!! 今朝やってきたばかりの外野の冒険者同士がバトル始めちゃったんですよ!!」
「えー……」
いや、ギルドの中でバトルとか、ジアルマ並に激しい人たちだな。
「それもこれも、ディグさんのせいなんですからね!!」
「うえぇっ!? 何で!?」
来て早々、なんかよくわからん責任負わされたんだが。
「あっ、ディグの奴が来たぞ!」
「ほんとだ!!」
オレとお姉さんのやり取りに気づいた顔見知りの冒険者達が、声を上げる。
すると、壁になっていた冒険者達が、まるで道を作るように左右へと引いた。
見通しのよくなったその先に立っていたのは2人の冒険者だった。
どちらも少女だ。しかも、かなりかわいい。
一方は、まるで踊り子のような衣装に身を包んだ金髪の女の子。
小柄で、顔立ちもかなり幼いが、その見た目に不釣り合いなほどに……乳がでかい。
いわゆるロリ巨乳と言うやつだ。ポイント高いね。
もう一人の少女は、薄紅色の髪の毛をポニーテールにまとめた少女だった。
こちらも年齢は同じくらいだろう。腕や腰など、ところどころが露出したプレートアーマーを身に纏っている。
どことなく勝ち気そうで、少年のような印象も受ける少女だが、スタイルはとても均整が取れており、端的に言って、おへそぺろぺろしたい。
直前までバトっていたらしい2人の美少女冒険者は武器をおさめると、オレの方へと駆けてきた。
「あなたがディグさんですね!」
「君がディグだな!!」
2人がまったく同時に、オレの右手と左手を取った。
「そ、そうだけど……」
最近は、顔立ちの整った女の子に囲まれて、随分耐性がついてきたと思っていたが、やはりこんな風に美少女2人にいきなり手を取られると、心臓がびっくらこいちまうぜ。
そんな、こちらの動揺など知ってか知らずか、2人は満面の笑みを浮かべる。
「そうなんですね!」
「やはりか!」
また、2人の言葉が重なり、彼女達はにらみ合った。
「私の方が先です」
「いや、僕の方が先だ!」
あー、なんかこの状況……ミナレスさんと艶姫さんと初めて会った時を思い出すなぁ。
なんて、考えていたら、2人がいきなり跪いた。
「うぇっ!?」
思わず変な声が漏れる。
いやいや、いったいどうした。
「ディグさん!」
「ディグ!」
「私を!」
「僕を!」
「あなたのパーティに入れてください!」
「君のパーティに入れてくれ!!」
完全にハモった2人の声を聞きながら、オレは早々に途方に暮れていたのだった。
8章スタートです!
今回の章もそこまで長くはならないかと思います。
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