124.バブみ
『アウトォオオオ!!!!!』
アルマを除いたオレの仲間達の手によって、オレはアインから無理やり引きはがされた。
どこかムワッとした肌の温かさが遠ざかり、ホッとしたようなそうでもないような……。
「ちょっと皆さん!! それは妨害行為に当たりますよ!!」
半ば審判と化していたフュンが抗議するが、仲間達は当然、オレの身体をキープして離さない。
あ、フローラさん、地味に当たってますよ。アインに勝るとも劣らない感触が。
「妨害結構!! ディ、ディグにむ、胸を吸わせようとする……なんて……!!」
意外なことに、比較的いつもは表情に乏しいコルリが顔を真っ赤にしながら、反論している。
「だから、その何が……」
いけないんですか? と続けようとしたフュンだったが、オレの仲間達の尋常ではない様子を見て、さすがに何か人間族的なタブーに当たると悟ったようで、口を噤んだ。
ふぅー、と息を吐くフュン。
「……わかりました。アイン」
「仕方ない。私としては、たっぷりおっぱいを飲んでもらいたかったんだけど」
そう言って、ワンピースの上から、乳房を持ち上げるアイン。
いや、もうそれだけで目に毒です。っていうか、フリだけじゃなく、本当に出るの!?
それは、ちょっとご相伴に……。
「ディグ、さすがのボクも……」
「わーわーわー!! シトリン、心読禁止ぃ!!」
まあ、そんなこんなで、アインのアピールタイムはここで終了ということになった。
となると、次はアンシィの出番なわけだが……。
「むーん、おっぱいはダメなのね」
「いや、お前もかよ」
こいつも乳吸わす気満々だったわ。
ドラゴン対スコップの母性対決ってやっぱ無理あるわ。
「じゃあ、別の方向性で行くしかないわね」
というわけで、草っ原の上で、対面するオレとアンシィ。
なんか、こう改めて顔をまっすぐ見合わせると、どうも気恥ずかしいな。
それにしても、アンシィの母性……か。
いつもの元気でどこか子どもっぽい様子からは、あんまり想像がつかない。
「うーん、じゃあ、とりあえず」
アンシィは、その場に正座をした。
「はい」
「はい?」
「膝枕」
「あ、ああ……」
なるほど、そういう。
オレは、恐る恐る地面に寝転がると、アンシィの半ばまで露出したふとももの上に頭を乗せる。
うぉー、なんだこのすべすべ加減。
あれか、伝説級の金属で新たなボディを得たことで、肌の滑らかさもパワーアップしているとでもいうのか……。
そんな突拍子もないことを考えてしまうくらい、極上の感触だ。
そうして、今度は頭に手が触れた。
普段の雑な動きとは違って、ゆっくりと優しくオレの頭を撫でていく。
「ば、ばぶー……♪」
いかん。思わず自然におぎゃってしまった。
正直に言おう。めちゃくちゃバブみを感じてます。
なんだろう。昼間の公園という環境もあるんだろうけど、この感じ、どこか本当に赤ん坊だったころを思い出させる。
もちろん、そんな記憶なんてとても覚えているはずはないのだが、穏やかで暖かなこの空気感は、記憶の奥底にしっかりと染みついている。
まどろむような気持ちでいると、追い打ちとばかりに、アンシィが口を開いた。
「ね~むれ~、ね~むれ~、母のむね~に~♪」
子守歌……だと……。
しかも、意外なことに、びっくりするほど柔らかな歌声。
CV.茅〇〇衣かってくらい透明感のあるその声に、まぶたが自然と下がってくる。
これは、もはや、バブみを感じるなんてレベルじゃない。
「み、見てください! ディグ様の顔!!」
「な、なんて穏やかな表情なんだ……!!」
天にも昇るような幸福感に包まれたオレは、まるで幼子のように安心しきった表情を浮かべていることだろう。
それくらいアンシィの膝枕と子守歌のコンボには、バブみを超えた抗いがたい何かがあった。
ああ、勝負の行方とかもうどうでもいい。
このまま幸せな気持ちで眠ってしまおう。
そんな風にさえ思ったその時だった。
『ずるーーーーーーいっ!!!!』
甲高い声が聞こえたかと思うと、オレが常に腰のベルトにひっかけている筒──マジックボトルが震え、中から光が飛び出した。
せっかく眠ってしまいそうなほどに穏やかな気持ちでいたオレだったが、突然の大声に、びくりと震える。
同時に目を開いたその網膜に飛び込んできたのは、プリーツスカートをきわどくなびかせつつ、オレの胸へと一直線に飛び込んでくる銀髪の少女──シルヴァの姿だった。
「シルヴァ……!?」
「ディグくーん!!」
「ぐふぉっ!!?」
完全に弛緩しきっていた腹部に、落下の勢いそのままにシルヴァが飛びついた。
ひ、昼飯が……出る……。
「ちょ、ちょっと!! あんた、何いきなり出てきてるのよ!!」
もちろんアンシィも黙っているわけもなく、せっかくの子守歌も中断して、シルヴァを糾弾するも、それに気圧されるシルヴァじゃなかった。
「だって、アンシィばっかりずるいんだもん!! 私も、ディグくんを甘やかしたい!!」
どうやら、マジックボトルの中から、今までの経緯は眺めていたらしい。
アンシィがオレに膝枕したり、子守歌歌って甘やかしている姿を見て、自分もしたくなってしまった……と、大方そんなところだろう。
「ダメよ!! これはアタシとアインの勝負なんだからね!! あんたは引っ込んでなさい!!」
「私だって我慢したんだよ!! でも、やっぱりアンシィばっかりそれするのはずるいもん!! ほら、ディグくん!!」
「あっ!?」
シルヴァは、無理やりにオレをアンシィから引きはがすと、自身の膝の上へと乗せる。
うほっ……アンシィの肌もすべすべで最高に心地よかったが、シルヴァのふともももなかなか……。
「ほら、ディグくん、私の方が気持ちいいでしょ」
「ちょっと!! 返しなさい!!」
ほんの一瞬のうちに、今度はアンシィが、オレの首を引っ張った。
「うっ!?」
ゴキリと首の骨が鳴る。
再びオレの頭はアンシィの膝の上へ、しかし、首の痛みで、もはやそのすべすべの感触を心から楽しむこともできない。
「返して!!」
ゴキッ!!
「そっちこそ!!」
ボキボキ!!
「私の膝の方が気持ちいいもん!!」
バキボキィ!!
「アタシの方がすごい!!」
ベキベキボギィイイイ!!!
奪われ、奪い返されるごとに、オレの首からやばい音が鳴るとともに、激痛が走る。
もはや、バブみがどうとかそんな話じゃない。死ぬ。
「もう!! こうなったら……!!」
再び、オレの頭を奪い返したシルヴァが、今度はオレの頭を膝に乗せるのではなく、思いっきり……胸に押し付けた。
「ぶふっ!!」
サラサラのケープごしに、シルヴァの比較的豊満な胸の感触が伝わる。
ただでさえ首の痛みで、熱を持ち始めていたオレの頭は、その柔らかさと甘ささえ感じる匂いで、一気にパーンと思考力がはじけ飛んだ。
半ば理性を失ったオレは、思いっきり息を吸い込む。
ふぁああああああ、くっそいい匂いぃいいいいい!
「きゃっ……もう、ディグくんったら、くすぐったいよぉ~」
余りの吸引力に、びくりと身体を震わせたシルヴァだったが、まんざらでもなさそうに顔を赤らめる。
うへへ、かわいいのぅ……。
ビクリ!!
ふと、後ろから恐ろしいほどの殺気を感じた。
振り返って確認するまでもない。アンシィだ。
自然と首筋に冷や汗が流れるほどに、圧倒的な負のオーラを背中越しにビンビン感じる。
やばい……殴られる……!?
もふっ。
「へっ!?」
攻撃を警戒してこわばっていた後頭部に感じたのは、痛みではなく、なんとも言えない柔らかさだった。
うん、間違いない、これは。
「アタシのおっぱいの方が……気持ち良い!!」
やっぱりだー!!!
こいつ、オレの後頭部に、自分のおっぱい押し付けてやがる!!
あれほど、おっぱいはいかんと釘を差されていたのに……対抗心とは恐ろしいな。
いや、だが……。
2人の美少女スコップに挟まれるようにして抱きしめられたオレ。
頭の前面にはシルヴァのおっぱい、そして、後頭部にはアンシィのおっぱいだ。
オレの頭は、さながら、おっぱいというバンズに挟まれた1枚のパティ。
そういえば、昔、ポ〇キッキで「おっぱいがいっぱい」なんていう神曲があったなぁ……。
そんなどうでも良いことばかり考えてしまうくらい、あまりにも特殊すぎる状況に、かえって客観的に自分の状況を俯瞰してしまう。
もはや理性を保てるとか保てないとかのレベルではなく、身体から力抜けて、ぴくりとも動けない。
それどころか、自分が今、どんな気持ちなのかも自分でわからない。
少なくともわかること、それは……。
(これ、絶対バブみじゃない……)
呼吸すらままならなくなってきたこの状況、徐々に靄のかかっていく頭の中で、オレはそんなことを思っていた。
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