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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第7章 五頭分の花嫁
122/156

122.第3回戦「手料理」

 街中へと戻ったオレ達は、勝負の場所となるとある酒場へと足を運んだ。

 昼間とはいえ、調理場を貸してもらえるなんて、なかなか融通の利くことだ。


「火山に落ちてる石をあげたら、快く貸してくれたわ」


 竜血石かよっ!?

 いや、あれ一個で家がひとつ建つんだぞ……。

 そりゃ、調理場くらい快く貸してくれるわ。


「いろいろ材料も揃ってる」


 材料棚や魔力式の冷蔵庫などを一見して、コルリが言った。

 ここの酒場は、利用したことがあるが、一酒場とは思えないほどに、料理のメニューが豊富だった。

 用いられている食材の種類も多いというわけで、それだけでかなり作れる手料理の幅も広がるというものだ。


「では、始めるとしましょう。制限時間は60分ね」

「ああ」

「じゃあ、ディーくん」

「お、おう……よーい、スタート!」


 かくして手料理対決がスタートした。

 それぞれまずは、食材の確保へと向かう。

 ツヴァイがまず手にしたのは、じゃがいもと玉ねぎと牛肉だ。

 そのラインナップからすると、カレーか肉じゃがといったところか?

 対して、コルリが手にした食材は……ダメだ。動作が早すぎて、何を取ったのかさえ目で追えなかった。その上数が多い。

 調理台の上に、でかでかと鎮座するロブスターだけがやけに目立っている。

 おそらく、イーズマ料理……つまり、和食を作ってくれるのだとは思うが、果たして、どんな料理になるやら。

 ちなみに、調理にあたり、ツヴァイはピンクのエプロン、コルリは割烹着を着ているのだが、なんというか、もうグッドです。

 さて、材料が揃ったところで、それぞれ調理開始だ。

 ツヴァイはじゃがいもと玉ねぎの皮をむくと、包丁で切り始めた。

 ドラゴンだから、料理なんてしたことあるのだろうかと思っていたが、なかなかどうして滑らかな手つきだ。

 ゆっくりとだが、丁寧に仕事を進めている。

 右の調理台で作業をしているコルリは、まさに目にも止まらぬ速さ。

 いつもの刀を振るう要領で、空中に野菜を放り投げると、次の瞬間には、すでに細切れになっている。

 レベル100を超える圧倒的なステータスと鍛え抜いた剣技は、手料理においても、役立っているようだ。


「うわぁ、コルリ様凄いです!!」


 アルマが両手を結んで、感嘆の声を上げる。

 確かに、コルリの調理は、もはやパフォーマンスといっても良いレベルだ。

 その上で、"魅せる"だけでなく、それ以外の作業も着々と同時進行で進んでいる。

 あくまで一般的な調理手順を行っているツヴァイと比べると、派手さでは圧倒的にコルリだろう。

 けれど……。

 オレは、もう一度ツヴァイの方へと目を向ける。

 ツヴァイはようやく野菜と肉を切り終わると、鍋で炒め始めていた。

 この調理手順から考えると、おそらくカレーではなく肉じゃがだろう。

 コルリと比べると、随分ゆっくりペースにも見えるが、一つ一つ確認するように笑顔で作業をする様には好感が持てた。

 ぐぅーと隣に座っているアンシィの腹の虫が鳴った。

 見れば、口の端からよだれが垂れている。

 まあ、その気持ちもわかる。 


「さて、どっちの料理も楽しみだ」


 完成するまでの数十分間、まるで新妻のように丁寧に調理を進めるツヴァイとパフォーマンスじみた調理をするコルリの様子をオレは思うさまに楽しんだ。




 さて、かくして、約束の60分が過ぎた。

 それぞれが作った料理には布がかぶされ、まだ、その全容は見えない。


「どちらから披露する?」

「あなたが先攻でいいわよ」


 ツヴァイはあくまでも自信満々にそんなことを宣う。

 正直、料理対決において、後攻は不利だ。

 なぜなら、より空腹の状態であった方が、料理というのはおいしく感じるからだ。

 審査員であるオレが、すべての料理を完食しなければならないということはないが、それでも、多少の不利は否めない。


「いいんだな?」

「もちろんよ」

「……わかった。じゃあ」


 コルリが料理にかぶされていた布を取り払った。


「お、おお……!?」


 思わず声が漏れた。

 それは、いわゆる懐石料理だった。

 純白に輝く白ご飯に、湯葉のようなものが浮かんだ味噌汁、白身魚のお刺身に、伊勢海老を模したロブスターのお椀盛、さらに焼き魚など、まさにより取り見取りの料理が机にところ狭しと並べられている。

 どれもイーズマ特有の料理ばかり。海産物が多く、こんなに材料があったのかと思わんばかりのラインナップだが、おそらく、見た目はイーズマ料理でも、様々なもので代用をしてそれらしくしているのだろう。

 たった60分で、これだけのものを作り上げてしまうとは……さすがあの艶姫さんに仕込まれただけのことはある。


『じゅるり……』


 周りで見ていたアンシィやドラゴンシスターズ達が、思わずよだれを垂らす。

 いや、確かに、見た目にも華があるこれらの料理は、否が応でも食欲をそそる。


「本来なら、先付から順番に出していくんだけど、あまり時間をかけてたらそっちの料理も冷めちゃうから。ディグ、どれでも好きなものからどうぞ」

「お、おう!」


 最初に手をつける料理は決まっていた。

 この懐石料理を見たその瞬間、オレが一番気になっていた料理。

 そう、寿司である。

 ほんの小さなお皿の上に、2貫だけ置かれた寿司。

 いわゆる懐石料理でいうところのお凌ぎにあたる料理なのだろうが、ついぞこの世界に来てからは味わったことのない寿司に、身体が反応して、ごくりと喉が鳴ってしまう。

 マグロに似た赤身の魚の乗ったそれを、手に取ると、オレは醤油をつけて、口へと運んだ。


「う、美味い……!!」


 少しマグロとは違うが、とろけるような食感とぎっしりと詰まった身の味は、十分に美味と言って差し支えない。

 するすると2貫を平らげると、次は、味噌汁へ。

 白みそだろうか、おそらくイーズマから持参していたのであろうものを使った味噌汁は、日本人であるオレの肺腑にスッと落ち着くように染み渡る。

 ああ、しみじみと美味い……。

 その後も、オレの手は止まらず、机の上に所狭しと並べられた料理をオレは次々と平らげた。

 アンシィが、我慢できないとばかりに料理に腕を伸ばそうとしているが、フローラとシトリンが必死に止めている。

 すまんな、アンシィ。今回の審判はオレなのだ。

 それにしても、本当にどれもこれも美味い。高級料亭もかくやという味に、オレは満足げにくちくなった腹を押さえた。


「はぁ、満足……って、あっ!?」


 しまった。ついつい全部平らげてしまった。

 これからまだ、ツヴァイの料理を食べないといけないというのに……。

 うぷっ……まだ、入るだろうか……。


「さあ、次は私の番ね」


 そんなオレの胃の事情など知ってか知らずが、ツヴァイが、自身の料理の上にかぶさった布を取り払った。

 机の上にあったのは、たった一つの陶器のお椀だ。

 また、大量の料理が出てくるかもしれないと思っていたオレは少しだけホッとする。


「これは……」


 予想はしていたが、ツヴァイの作った料理は、やはり肉じゃがだった。

 この世界でも比較的一般的な家庭料理。

 量はもちろんだが、コルリの作った懐石料理めいた御馳走と比較すると、かなり慎ましやかな印象を受けるのは否めない。

 それでも、ツヴァイは自信満々の表情だ。


「さあ、どうぞ、ディー君♪」

「あ、ああ……」


 促され、オレはスプーンを手に取る。

 正直、お腹がいっぱいで、今さら肉じゃがを腹に入れたいという気分でもない。

 しかし、勝負の審判を任された以上、不公平なことをするわけにもいかない。

 オレは若干脂汗を浮かべながらも、しっかりと煮込まれた男爵イモをスプーンへと乗せた。

 見た目は本当に普通の肉じゃがだ。特に何か工夫がされているようにも見えない。

 なんで、ツヴァイはこんなに自信満々なんだ?

 少し疑問に思いつつも、オレはスプーンですくった男爵イモを口へと放り込んだ。


「…………あっ……」


 咀嚼したその瞬間、甘さが口に広がるとともに、なんと表現すればよいのか……どこか優しい味が舌へと深く伝わった。

 懐かしいような、それでいて、なんとも新鮮な気持ちを感じる味わい。

 まさに、彼女が作ってくれた手料理。そんな味だ。

 知らず知らずのうちに、オレは二口、三口と肉じゃがを頬張っていた。


「ずっとこの料理だけ練習してたの。ディー君に喜んでもらいたくて」

「そうなんだ……」


 ツヴァイは食べてもらえて嬉しくて仕方がないといった表情で、頬杖をつきながら、オレの食べる様子を見守っている。

 そんな彼女の指をよく見れば、何枚も絆創膏が巻かれていた。

 単純に考えて、生まれて間もない彼女、しかも、料理なんて文化のないドラゴンの女の子が、これだけのものを作れるようになるのには、かなりの努力が必要だっただろう。

 正直、決して特別美味しいというわけじゃない。

 あくまで一般的な家庭料理のレベル。単純な味という意味では、コルリの料理と比べるべくもない。

 だけど、この肉じゃがには、たとえお腹がいっぱいであろうが、するすると食べれてしまう妙な魅力があった。

 やがて、オレの持つスプーンが皿の底に当たった。

 満腹だったはずなのに、気づけば、オレはツヴァイの作った肉じゃがを完食していたのだ。


「さあ、いよいよ判定ですね」


 オレが食べ終わったことを確認すると、フュンがそう促した。

 ふぅ、と一度深く息を吐く。

 少しだけ迷ったが、それでも、オレの気持ちはすでに決まっていた。


「じゃあ、発表するよ。オレが自分の口に合うと思った手料理、それは……」

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