表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第7章 五頭分の花嫁
117/156

117.求婚×5

「あぁー、さっぱりしたぁー!」


 大衆浴場で汗を流し、一人宿への道を歩く。

 イーズマの蒸し暑さが少し懐かしく感じるほどに、ドーンの街の気候は爽やかで過ごしやすい。

 夜空に浮かぶ三日月を見上げながら、肩で風を切るように歩いていく。

 そうしていると、何人か見知った顔に声を掛けられた。

 どうやら、イーズマでのオレ達の活躍が、ギルドを通じて冒険者達にも伝わっていたようで、ねぎらいの言葉をかけられることがほとんどだ。

 オレの活躍をまるで自分の事のように喜んでくれるドーンの冒険者達。

 フローラの件はあるにしろ、基本的には良い人が多い気がする。

 なんにしても、こうやっていろんな人に話しかけられると、オレも随分この世界に馴染んできた気がするなぁ。

 来たばかりのころは、あまりの自分の弱さに愕然としたものだが、今やレベルも100を超え、「概念スキル」なんてものも得ることができた。

 もしかしたら、そろそろ魔王に挑むことも考える時期に来たのかもしれない。

 とはいえ……。

 頭の中に、仲間達の姿が浮かぶ。

 フローラに、シトリン、アルマ、ジアルマ、そして、コルリ。

 この世界で出会ったかけがえのない仲間達。

 魔王を倒したとき、少なくともアンシィは、元の世界に帰ることになるだろう。

 オレは正直まだ、迷っている。

 この世界で得たものは大きい。

 だが、あの世界に残してきたものも決して小さくはない。

 家族は、きっとオレの事を心配しているだろうし、美紅をはじめ、クラスの友達たちも、もしかしたら、心配してくれているかもしれない。

 ネット小説だって、まだまだ読み漁りたいし、オレにその趣味を教えてくれた、"あの娘"との約束だって、まだ、果たせていない。 

 そのことを考えると、いつかは帰らないといけない。そう思える自分もいた。


「まあ、決断は今じゃなくてもいい」


 まだまだ、みんなとやりたいことは山ほどある。

 アンシィも帰るのはもう少し先でもいいと言ってくれたし、今、しばらくは、仲間達とともに、面白おかしくゆる~く冒険を続けていきたいものだ。

 と、そんなことを考えているうちに、今日泊まる予定の安宿が見えてきた。

 さあて、今日もエロイ妄想でもしながら、一人で寝ちまおう。


「ディグくん?」

「んっ?」


 誰かに名前を呼ばれて、振り向く。

 そこには一人の女の子が立っていた。

 見た目からして年齢はオレと同じくらいだろうか。

 桃色のワンピースを着たその少女は、冒険者のようにはとても見えない。

 はて、こんな知り合いいただろうか?

 ふわふわのセミロングのその娘は、作られたかのように整ったその顔で、柔らかく微笑んだ。

 か、かわいい……。


「やっぱりそうだ! ディグくん……やっと会えた……!!」


 桃色の髪をゆらし、駆け寄ってきた女の子が、オレの胸へと飛び込んできた。


「えっ、ちょ……?」


 めちゃくちゃかわいい子に抱き着かれて、嬉しいのは嬉しいのだが、頭の中をどんなに掘っても、この娘が誰なのか、全然覚えがない。

 でも、この娘、明らかにオレのこと知ってるっぽいし……あれか、美人局か……?

 若干、警戒の色をあらわにしたオレだったが、女の子は、本当に嬉しくたまらないといった表情で、オレの胸に頬ずりしている。

 美人局だとしたら、凄い演技力だ……。

 と、その女の子が、突然、ハッとしたように、オレの胸元から離れた。


「ご、ごめん! 私、フライングしちゃった……!!」

「フライング?」


 どういう意味だ?


「ディグくんの顔見たら、我慢できなくって……。また、明日、会いに来るから!! それじゃ!!」


 一方的にそれだけ言うと、女の子は、一般人とは思えない、ものすごいスピードで駆けて行った。


「…………なんだったんだ?」


 疑問に思いつつも、考えても無駄だとオレは宿に到着すると、すぐに床に就いた。

 その時のオレには、まさか、この出会いがただの始まりに過ぎなかったのだということを知る由もなかった。




「ディグさん!!」


 翌朝の事だった。

 起床したオレは、宿の食堂で一人でモーニングを食べていた。

 そこに声がかけられ、振り向く。

 また、美少女がいた。

 一瞬、昨晩声をかけてきた娘かと思った。

 実際、顔立ちも非常によく似ていたのだが、瞳や髪の色と髪型が微妙に昨日の娘とは違った。

 昨日の娘の髪色は、赤に近いピンクだったが、この娘はオレンジ色に近い。

 その上、頭には、まるでうさぎの耳のような大きなリボンがついている。


「おはようございますっ!!」

「えっ、うん……おはよう」


 誰? と思いつつも、挨拶を返す。

 いや、昨日の娘の妹かなんかか?

 いかにも元気印、といったこの娘の顔にも、当然、オレには覚えがない。


「あの……君は……?」

「あっ、私はですねっ!!」

「ディー君っ!!」


 と、それを遮るように、一人の少女がオレの右腕に抱き着いてきた。

 まっピンクの髪色をした、ロングヘアーの少女。

 スレンダーなその腕が、オレの首へと回される。

 そして、マジマジとオレの顔を見てひとこと。


「ああー、やっぱりディー君、かっこいい……」

「ツ、ツヴァイ!! いきなり抱き着くのはダメだって……」

「しょーがないじゃない! ディー君が格好良すぎるのが悪いのよ!」


 ぷんすかしつつも、彼女はオレの首をがっつりホールドしている。

 細腕のわりに、なかなか力が強い。

 ちょっと痛いぞい。


「と、とりあえず、一旦離れてもらっても……」

「えー!! ……まあ、確かに、いきなりだったわね。ごめんなさいね。ディー君」


 案外素直に離れてくれたロングヘアーの少女が最初に声をかけたショートボブの元気な少女と並び立つ。

 並ぶと、改めて二人がよく似ているのがわかる。

 顔立ちはもちろん、体格か肌の色、その上、存在感抜群の大きな胸まですべてが似通っている。

 本人たちも言っていたが、どうやらやはり姉妹のようだ。

 これだけ似てるとなると、もしかしたら、双子かもしれない。

 いや、昨日の娘も含めて、三つ子か?

 だが、こんなに美人の姉妹なら、絶対記憶に残っているはずなのだが……やはり思い出せない。


「ディー君? もしかして、私たちのこと、忘れちゃったのぉ?」


 オレのいぶかし気な視線に気づいたのか、髪の長い美少女の方が、うるうると瞳をにじませる。


「あ、いや、その……」

「無理もないよお姉ちゃんっ。今の私達って、あの時の私達とは全然違うしっ」

「でも、ディー君なら、愛の力できっとわかってくれると思ったのにぃ」


 ごめん。マジでわからない。


「ディグさんっ、少しだけ私達についてきていただけませんかっ? そうしたら、私たちのこと、ちゃんとお話しさせていただこうと思うのでっ」


 ショートボブの女の子の言葉に、オレは若干不安な思いを抱えつつも、こくりと頷いた。




 2人の美少女に連れられてやってきたのは、街の中央にある広場だった。

 中央に噴水があり、憩いの場所として、街の中でも子供からお年寄りまでに親しまれている場所だ。

 水の噴き出るその近くまで連れてこられたオレの元に、さらに2人の人物が近づいてきた。

 その姿を見て、オレは固まる。


「やー、ディグ君。久しぶりだね」

「ディグ……会えて嬉しい……すごく」


 そう言って、並び立つ、ショートカットとセミロングヘアーの美少女。

 固まった理由は明白。この2人も、さっきの2人と同じ顔をしていたからだ。

 全員が同じ顔……なにかのドッキリにでもかかったような気分だ。

 実際、何か魔法で容姿を近づけているのだろうか……?

 それにしては、まったく同じ容姿というわけでもないし、混乱は益々深まるばかり。


「ディグくん、来てくれたんだね」

「あっ……君は……」


 止めとばかりに、昨晩出会ったゆるふわロングヘアの娘も現れる。

 これで同じ顔が5人……これ以上増えないだろうな?

 5人はお互いに目くばせをすると、噴き出る噴水をバックに、横一列に並んだ。

 同じ顔ではあるが、全員が全員、とんでもない美少女だ。

 こうやって並び立った姿は、かなりのインパクトがある。

 美少女達は、少しだけキリリと顔を引き締めると、オレの瞳を見つめた。


「星の数ほどの夜を君を想って過ごしたよ」

「本当に、本当に、会いたかった……」

「ずっとあなたに感謝を伝えたかったのっ」

「あなたと触れ合いたかった」

「私達、みんな、あなたのことが大好きなんです、だから」


『私達を、あなたのお嫁さんにして下さい』


 ……………………はい?


「いや、ちょっと待ってくれ。それはいったいぜんたいどういう……!!?」


 いきなりの展開に、寝起きの頭が、急速にぐるぐると回る最中、後ろから噴き上がっていた噴水の水が途切れた。

 そうして、開けた空間のその向こうには……。


「げっ……」


 アンシィをはじめとした、オレのパーティの仲間達が、まるで石膏のように固まった表情で、こちらを見つめていた。

7章は短め予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ