113.星空と5人目の仲間
イーズマに滞在する予定の日数もあとわずかとなった。
ここ2、3日は、コルリの付き添いで、近隣の比較的強い魔物を狩ったりしながら、少しずつ今の自分たちの力を試したりなんかしていたのだが、正直言って、かなり温かった。
もっとも、この辺りで一番難易度の高い迷宮が神域の大空洞だったわけで、そこを攻略できたオレとコルリ、さらには仲間のみんながいる状態では、そんじょそこらの強豪モンスター程度では、もはや勝負にすらならなかった。
うーむ、オレ達、本当に強くなってしまったんだなぁ。
なんとなく、一足飛びにレベルアップしてしまったことへの一抹の寂しさも感じつつ、今日も魔物退治を終えて、遊郭に戻ると、艶姫さんとミナレスさんと出会った。
「あ、ディグはん♪」
「ディグ君か」
なにやら話していたらしい2人が同時にこちらへ振り向く。
「今、戻りました」
「また、高難易度の魔物退治をこなしてくれたそうやね。ギルドの受付が、めっちゃ喜んどったで」
「あはは、もうここにいるのもあとわずかですからね。ちょっとでも、魔物退治を頑張っておきたくて」
「すっかりベテランの冒険者だな」
ミナレスさんが、少し眩しそうにオレ達の方を見るので、なんだかちょっとだけ恥ずかしくなる。
「はは、まだまだですよ」
「謙遜しなや。ところでな。さっきも言ってたように、もう君らもイーズマを発つやろ。最後になんか思い出作りでもできへんかと思って」
「思い出作りですか?」
思い出作りねぇ。
正直、イーズマでの思い出はもう十分すぎるくらい作れたような気もするが、確かに、みんなで何かするというのはいいかもしれない。
レナコさんやトルソーも、まだ、こちらに残ってくれているし、ミナレスさんもいる。
もしかしたら、今度はジアルマも何らかの形で参加できるかもしれないし、そういう機会を設けるのもやぶさかじゃない。
「いいと思います」
「やろ? ただ、場所をどうしよかな、と思うて。うちのプライベートビーチは、まだ、とても使える状態やないし……」
鋼帝竜に破壊された無人島を思い出す。
大波のせいで、多くの木々が倒れ、ビーチにも岩などが散乱していた。ペンションも建物自体は無事だったが、水をかぶったせいで、中はぐちゃぐちゃになっていた。
けど……。
「艶姫さん。オレ達がプライベートビーチを整備しましょうか?」
「えっ?」
「土木系の作業は、割と得意なんですよ。なっ?」
そう言うと、仲間達もしきりに頷いてくれた。
「でも、かなりの作業量やで。やっぱり君達だけに任せるわけには……」
「大丈夫ですよ。これでもオレ、スコッパーですからね。さらっさらの砂地を取り戻して見せます」
グッと、力こぶを作ってそう言うと、艶姫さんは、ようやく「そうか」と微笑んでくれた。
「わかった。じゃあ、任せてもええかな? 明日には合流して、うちらも手伝うから」
「むしろ明日までには終わらせておきますよ。だから、みんなで思いっきり遊びましょう」
ってなわけで、オレ達はプライベートビーチを再び使えるようにするために、一足早く、無人島へと向かったのだった。
「アンシィ、行くぞ!!」
「合点!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおお!!!』
砂浜に声を響かせ、オレ達は、ところどころにある倒木や岩を掬っては投げ、掬っては投げる。
まずは、大きなごみを全て失くす!
それが終わったら、スコップモード<鍬>で、砂地を均し、小さな石を全部取り除く。
ちょっとでも石が残っていたら危ないからな。
それが終わったら、近くの森の整備だ。
以前、ジアルマが抉った地面も含めて、ばっちり綺麗にしてやるぜ!!
「よーし、やるぞぉ!!」
『うぉおおおおおおおおおおおおお!!!』
「元気だな。ディグとアンシィは」
「何気にこの手の作業大好きですから、あの2人は」
箒で、建物の中の隅に残った砂を掻き出しつつ、ボクとフローラはやる気満々のディグとアンシィを眺めていた。
「おーい、フローラさん、シトリンさん、ここの窓はこんな感じでいいのかな?」
と、新しい窓枠を持ちながら、問いかけてきたのは、イーズマへの渡航中で出会った機巧技師志望の青年、ブルートだ。
彼も鋼帝竜撃破の功労者として、ぜひ、呼びたいとディグが言ったので、こうしてついてきてもらった。
本来ならここがきれいになってから参加してもらう予定だったのだが、本人が役に立てることがありそう、だということで、こうやって手伝ってもらっている。
「ああ、大丈夫だ」
「了解! あ、アルマちゃん、その工具取ってくれるかな?」
「はい、ブルート様! どうぞ!!」
こちらの2人もなかなか良い連携で、作業を進められているようだ。
この分なら、なんとか今日中に、すべて元通りに直すことができるかもしれない。
「よし、フローラ。ボクたちも頑張ろう」
「はい! やりますよぉ!」
こうして、日がな一日中作業に勤しんだボクたち。
夕方には、食料の調達に行ってくれていたコルリも合流し、その日は、綺麗になった砂地に全員で寝転びながら星を見上げた。
夜でも灯篭の火が絶えないイーズマでは、あまり星が綺麗には見えない。
しかし、灯りのない、この無人島では、夜空にきらめく星々がどれもはっきりと見える。
たまたま新月だったことも影響しているのだろうが、いやはや、これは一見の価値があった。
そうして、そのまま、みんなで砂浜でうとうとし始めた時だった。
「あ、あの……聞いて欲しいことがある……」
そう切り出したのはコルリだった。
「い、いきなりであれなんだけど……私も、みんなについていっていい……?」
戦闘中に限らず、普段から鉄面皮で、凛々しい印象のあるコルリにしては、とても弱弱しい声。
それだけに、神視眼を使わずとも、彼女の緊張がつぶさに伝わってきた。
「いいよ」
「えっ、あっ……軽」
ディグの速攻の返事に、さすがのコルリもキャラに似合わず、面食らっている。
「パーティに新しいメンバーを入れるかどうか……もっと慎重に決めなくていいの?」
「実は、もうみんなとは相談済みだ」
「えっ……!?」
そう、数日前、ディグから、ボク達は相談を受けていた。
もし、コルリがオレ達についてきたいと言ったら、パーティに入れても構わないか、と。
答えはもちろん、全員がイエスだった。
「艶姫さんが言ってたんだ。コルリはきっとオレ達のパーティに入りたがるってさ」
「艶姫様が……?」
「君の事なら、なんでもお見通しみたいだよ」
「…………そっか」
コルリは、少しだけ目を閉じる。
「世話になる」
「こちらこそ」
寝転がったまま、そんなやりとりをするのが、どこかおかしくて、自然と周りの仲間達がくすくすと笑いだした。
当人たちにも、それは伝播し、みんなして笑い合っているうちに、一人、また、一人と眠りに落ちていった。
最後まで残ったのは、ディグとコルリ、そして、ボクだ。
「艶姫さんは、わかってはいるけどさ。でも、ちゃんと明日伝えなよ」
「ああ、ちゃんと伝える……」
そのやりとりを最後に、2人もついに眠りへと落ちた。
残るのはボクだけ。
「ふぅ……」
静かな夜だ。
少しだけ、あの森で過ごした100年余りの夜を思い出す。
でも、今は……。
近くに仲間がいる安心感を感じつつ、ボクもまた、星明りの下、まどろむように眠りへと落ちた。
はじめて1日400PVを超えました! ありがとうございます!
間章残り2話となります。最後まで宜しくお願いします。




