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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第2章 アノコにイヤせぬキズはなし!
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011.フローラの秘密

「ここが、この街で一番の武器屋です」

「へぇ、ここが……!」


 大量の金貨を腰に提げて、やってきたのは様々な装備品を扱っている武器屋だ。

 魔王討伐を誓い合った仲とはいえ、アンシィはあくまでスコップ、掘る道具にすぎない。

 魔物と戦うには、それ相応の武器も必要になってくる。

 というわけで、さっそく武器を選びに来たわけだ。


「ディグさんは剣を扱うのですか?」

「そうだね」


 まあ、王道で行けば、やはり剣だろう。

 お金に関しては問題ないので、とにかく気に入ったものを選んでみるとしよう。


「あ、ディグさん、あれなんかいかがでしょうか?」

「ほほう」


 フローラさんが指し示しているのは、壁に掛けられた一振りの剣だ。

 いわゆるブロードソードというやつだろうか。

 幅広の両刃で、柄の先にはなにやら魔法めいた装飾が施されている。

 いかにも業物といった雰囲気がしていて、なかなかカッコいい。

 よし、こういうのはフィーリングだ。


「これ、触ってみたいんですが」

「ほう、この剣に目をつけるとは、お目が高い!」


 店の店主は両手をすり合わせながら、対応してくれた。うん、視線がちらちらオレの腰の金貨袋にいってますよ。


「かの名工アイオライトが鋳造した一点ものでございます。一振りすれば、雲を裂き、また、一振りすれば大地を削るといわれるほどの魔剣でございますよ」

「へぇ」


 そりゃ凄い。いわゆるチート武器ってやつじゃないの。


「今、お持ち致します」


 店主が壁から剣を外して持って来てくれる。

 ようやくこれで、オレもまともに戦えるようになる……。

 店主の話が多少盛ってるにしても、この剣にはたしかに異様な迫力のようなものがある。

 普通の剣に比べたら、圧倒的な切れ味があることは間違いない。

 わくわくするぜ、まったく。


「お待たせ致しました」


 そういって、鞘から抜いた魔剣を恭しく持ち上げてくれる店主。

 オレは、その剣を持ち上げようと柄に触れた。

 その瞬間だった。


【システムエラー。EX職業(エクストラクラス)採掘士(スコッパー)が武器を使用するのは禁止されています。直ちに武器を放棄して下さい】


「はっ?」

「どうかされましたか?」

「あ、いや……」


 訝しがる店主に生返事で返す。

 システムメッセージはオレだけにしか見えていないし、聞こえていない。

 オレの職業で武器を使うのは禁止されてるってこと……。

 いやいやいやいや、それはさすがにあんまりだろう。

 ずっとスコップ(アンシィ)だけで戦い抜けって? 無茶言っちゃいけねぇよ。

 うん、システムエラーがどうしたってんだ。

 オレは、剣で戦う。そうする。

 というわけで、オレは、剣の柄を握り、振り上げた。

 さすが魔剣というだけあって、思っていたよりもずっと軽い。

 雲を裂くやらなんやらはともかく、確かにこれなら存分に──


【システムエラー。武器を廃棄します】


「えっ……」


 次の瞬間、握り込んだ柄から崩れるようにして、魔剣がバラバラになって床に散らばった。

 呆然と立ち尽くすオレと店主、そして、フローラさん。


「…………お客さん?」

「べ、弁償します……」




「ふぁああ……」

「ディ、ディグさん、そう気を落とさないで下さい」


 フローラさんの気遣いが心に染みる。

 あの後、他の武器を試してみる気にもならず、剣の弁償代だけ置いて、逃げるように武器屋から出てきた。

 さすがに魔剣というだけあって、あれだけパンパンに膨らんでいた金貨袋もかなり萎んでしまった。

 それにしても、この世界のシステムというやつ、便利だと思っていたけど、とんでもない、めちゃくちゃ厄介じゃないか。

 オレはどうやらスコッパーとして、スコップで戦い続けなければならないらしい。

 いや、むしろ戦うなということだろうか。

 素直に穴でも掘ってろって? けっ!


「あ、剣はゲットできませんでしたが、ディグさんにはスコップがあるじゃないですか……って、あれ?」


 フローラさんと出会った時に持っていたスコップが無くなっているの怪訝に思ったのだろう。

 オレは腰からノーマルスコップモードのアンシィを取り出すと、スコップモードを<剣>に切り替えた。


「わ、凄いですね! このスコップは魔法の品なのですか?」

「魔法と言えば、魔法なのかな」


 まあ、普通のスコップよりは随分高性能だろう。


「これからどうしましょうか?」

「そうだなぁ」


 次にやってみたいことといえば、やはり。


「クエストとか受けてみたいかも」

「あ、クエストですか? 薬草採りなら得意です!」


 グッと、力こぶを作るポーズをするフローラさん。かわええなぁ。

 いや、だけど、オレがやりたいのは。


「どうせなら採取よりも、討伐クエストっていうのがやってみたいかな」

「あ、討伐クエスト……ですか」

「うん。もっとも、武器が武器だから、最初はうんと弱いモンスターとかが良いけど」

「わ、わかりました。では、街の近くの森や沼地を住処にする一番弱いやつのところに行きましょう。さすがに、それなら怪我はしないはずです」

「怪我? うん、まあ、しないに越したことないしね。それで行こう」


 というわけで、オレ達は、ギルドでクエストを受注すると、街の北西方向にある森へと向かったのであった。




 シュロマンダーというらしい。

 見た目はオオサンショウウオのようだが、少ししっぽが長い。

 この世界の魔物というやつは、ベースとなる生き物を巨大化したようなものが多いようだが、ご多分に漏れず、こいつもオレの身長くらいはある。

 はいつくばって進む姿勢は、どことなくワニにも似ている。

 そんな低レベル冒険者向けモンスターとオレは対峙していた。

 |回復術士<ヒーラー>であるフローラさんは、オレのすぐ後ろに控えている。

 さて、初めてのまともな魔物討伐。まともな武器を使えない気持ちを切り替えて、良いところを見せなければ。


「アンシィ、行くぞ!」

「・・・・・・」


 なぜか、アンシィは何も答えてくれない。

 もしかして、自分以外に武器を買おうとしたから怒ってる? 

 あ、いや、スコップモードの変更はしてくれたし、怒ってはない…よな? どうしたんだろ?

 まあ、いいや。とにかく、今は目の前の魔物に集中だ。


「よし!」


 さっきの山賊相手の時の二の轍は踏まない。

 今回は、スキルも使って絡み取るぞ。

 

「砂かけ!」


 というわけで、オレの強力無比な(ということにしておきたい)スキルで先制だ。

 スコップモード<角>(フラット)で近くの地面を掘って、とにかくぶちかける。

 ザッザっとどこかまぬけな音と共に、大量の土がシュロマンダーにふりかかる。

 うん、元々、泥の中にいたりする魔物みたいだから、全然効いてないね!


「はぁはぁはぁ……次は……」


 …………あれ、もうできることなくね。

 落とし穴設置は、こうやって会敵している以上今から作っても意味ないし、土壁や緊急回避穴エマージェンシーホールは防御・回避スキルだし。

 他にもいくつかスキルは取得済みではあるけど、攻撃に使えそうなものがない。あれぇー。


「頑張って下さい! ディグさん!!」


 EX職業(エクストラクラス)持ちと買いかぶっているのか、フローラさんはオレをキラキラした目で見守っている。

 くっ、これはカッコ良いところ見せねば。

 スキルが使えなければ、とにかく叩くのみ!

 すでに最初と言ってることが違うが、気にするな!


「スコップモード<剣>(スペード)!!」


 剣先状態で、シュロマンダーに斬りかかる。

 だが、ぬめぬめとした身体には叩いても叩いても、それほどダメージが蓄積していっているようには見えない。


「はぁ……はぁ……」

「シュロオオオオッ!」


 疲れで、一瞬手が止まった瞬間、シュロマンダーが牙をむいた。

 そのまま突進攻撃をまともに脛に受ける。そこ弁慶!!!


「アウチッ!!」


 思わず飛び上がったオレに、シュロマンダーが吐き出した泥の塊が命中する。

 吹っ飛ばされるほどの威力ではないが、運が悪い事に、顔面にヒットした。

 結果、土が目に入ってくそ痛い。そして、前が見えない。

 どんな状況かもわからない中で、巨体にのしかかられて、身動きすら取れなくなる。ってか、重ぇ!!


「し、死ぬぅ……」

「ディ、ディグさん!!」


 フローラの慌てた声が聞こえたと思えば、シュロマンダーがオレの上からコロンと転がった。

 どうやら、フローラさんがなんとか押してどかせてくれたららしい。


「あ、ありがと……」

「とりあえず一旦距離を取りましょう!」


 フローラさんの提案で、一旦シュロマンダーから少し離れる。

 幸い、相手はこちらを危険対象だと思っていないのか、追ってくる気配もない。


「大丈夫ですか?」

「うん、なんとか」


 実際のところ、脛への突進と、泥玉攻撃のせいで、結構身体のあちこちが痛い。

 かっこわりぃ……。


「あ、でも、どうせだったら回復お願いしてもよいかな? せっかく回復術士(ヒーラー)のフローラさんがいるんだし、ね」

「えっ………………わかりました」


 フローラさんは、ごくりと唾を飲み込むと、なぜか決意を込めた目で杖を構える。

 回復呪文ってそんなに気合が入るものなのか?


「では、行きます!」

「う、うん……」

「………………彼の者の傷を癒せ! ヒール!!」


 詠唱を終え、いよいよ呪文の名前を叫んだ次の瞬間だった。


 ドガァアアアアアアアアン!!!


 轟音と共に、距離を取っていたシュロマンダーがいきなり爆発した。

 え、今、何が起こった……。


「な、なんだ……?」

「あっ……あっ……また…やってしまいました……」

「また……?」


 フローラさんは、両手で顔を覆うと、そのまま立ち上がって、走り去っていった。


「えーと……」


 後には、わけのわからないままのオレが取り残された。




 いったいどうしたことでしょう。

 フローラさんがオレへの回復呪文を唱えた直後、突然討伐対象だった魔物が爆発した。

 うん、討伐完了だね。やったね。とはいかない。

 なにせ、当のフローラさんがパーティを組んでいるにも関わらず、一人でどこかに走り去ってしまったんだから。


「あー、やっぱりこうなるのね」

「あ、アンシィ」


 今までずっと黙っていたアンシィが、久々に口を開いた。


「やっぱりって……?」

「最初にあの娘があんたを助けた時も、今と同じような状態になったのよ」

「いや、どういうこと?」

「つまり、あんたに回復魔法をかけようとして、突然爆発が起こったってこと」

「はあ? なんで回復呪文を唱えて、爆発が起こるんだよ?」

「それは……私にもわからないけど」


 爆発ねぇ。

 つまり、フローラさんの回復呪文は、攻撃呪文だってこと?

 最初に助けてくれたとき、オレが気絶してしまったのも、疲労からじゃなくて、近くで爆発が起こったからだったのか。


「とにかく、フローラさんを探さないと」

「あんた、本当にお人よしねぇ。今回は、たまたま敵に当たってくれたから良いけど、もし、自分に当たってたらとか考えないの?」

「そりゃ、怖いけどさ。でも……」


 最初に山賊に襲われそうになったとき助けてくれたのは彼女だ。

 自分でオレを気絶させてしまったとはいえ、その後、介抱してくれたのも、服を用意してくれたのも彼女。

 ギルドのことだって、換金や武器の事だって、何も知らないオレに、全部教えてくれたのも彼女だ。


「彼女が悪い人じゃないのはわかる」

「はいはい」


 アンシィは、人間体に変化すると、どこか諦めたような、いや、むしろこうなることがわかっていたように笑った。


「んじゃ、私も探すの手伝うわ。あっちの森の方へ入って行ったわね」

「さすが相棒。オレ、アンシィの事好きだな」

「アタシもあんたの事、嫌いじゃないわよ。ほら、行くわよ」

「おうともさ!」


 二人一緒に走り出す。

 時刻もすでに、夕刻、早く見つけないと、ちょっと危ないかもしれない。

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