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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
間章 その後のイーズマにて
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108.カラクリ職人、ジャスパー

 アイオライトさんの工房からの帰り、オレにはもう一つ寄らなければならない場所があった。


「えっと、ここ……か?」


 目の前の工房というよりは、工場とでもいった方がしっくり来るような、無骨な真四角の建物。

 その大きく開いた扉から、ちらちらを中を覗う

 どうやら、何かの作業中らしく、多くの工員が、集まって話をしていた。

 ふむ、勝手に入っていいものだろうか。


「あ、ディグ君!!」


 と、いまいち入るタイミングを計りかねていたところに、ブルートがやってきた。

 そう、ここはブルートが世話になっている工房。

 ジャスパーというイーズマ最高のカラクリ職人の工房だった。


「ブルート! 良かった。元気そうだな!」

「おかげさまでね!」


 ブルートは鋼帝竜との戦いの時、なぜかカラクリのロボットに乗って、オレの最後の一撃を援護してくれた。

 鋼帝竜のアダマンタイトの槍の攻撃で、そのロボットはボロボロになり、海へと落ちてしまったが、ブルートの様子を見るに、なんとか怪我もなく帰還できたようだ。

 もっとも五体満足であることは、撃破の直後に、海へと助けに出てくれた東の冒険者達からも聞いていたので、それほど心配はしてなかったのだが。


「いや、それにしても、凄かったよ!! あの鋼帝竜を倒しちゃうなんて!!」

「ありゃ、みんなのおかげだよ。オレは最後の止めを刺しただけ」

「それにしたって凄い!! あの定期船での戦いの時は、実力を隠してたんだ!」

「ん? ああ……まあ、そんなところ」


 あれは、実際スランプだったんだけども……まあ、いいや。


「今日は、親方に呼ばれたんだよね?」

「ああ、なぜだかわからないけど、一度話がしたいって」

「今、親方は奥の自室にいるんだ。案内するよ」


 そう言うブルートに連れられて、オレとアンシィは工房の中へと入る。

 そこには、ブルートが乗っていた巨大なロボットが、まだ、ほとんど鋼帝竜との戦いで受けたダメージを残した状態で寝かされていた。

 腕はちぎれ、装甲には多数の穴が開いている。よくブルート無事だったな……。

 どうやら、工員たちは、こいつの修理作業についていろいろ相談しているようだ。

 そんな作業場を通り抜け、奥にあった階段を昇った先に、小さな扉があった。


「親方ー! ディグ君を連れてきました!」

「かー!! 何度言うたらわかるんじゃ!! わしのことは博士と呼ばんかい!! とりあえず、はよ入ってこい!!」


 というわけで、ブルートが扉を開き、オレ達はその小部屋の中へと入る。

 そこには、計器類やオレ達の世界で言うところのパソコンのようなものがいたるところに設置され、中央には、巨大なモニターが鎮座していた。

 そして、その手前、回転式のイスがくるりと回ると、そこに座っていたのは、小柄な老人だった。

 おそらく猫の獣人なんだろう。老人ながらどこか愛嬌のある丸顔の頭には、灰色の猫の耳がピョンと飛び出している。


「君が、転生者か?」

「あ、はい、えーと、ディグっていいます」

「おい、ブルート、茶を煎れてこい」

「わかりました!」


 ブルートが部屋を出ていくと、ジャスパーさんは、立ち上がって、オレの事を無遠慮に眺めた。


「え、えーと……」

「黒髪黒目、肌の色、やはりあの少年に似とるな」

「え?」


 あの少年とはいったい……。


「まあ、とりあえず座るがいい。椅子は……その辺のを使え」


 とのことだったので、オレとアンシィは、近くに置かれていた椅子にとりあえず座った。


「ところで、えーと、ジャスパーさんは、なんでオレを呼んだんですか?」

「わしは、以前から、異世界の"科学"というものに興味がある」


 カラクリと科学……確かに似ているし、興味を持つのも当然か。


「お前の前に来た転生者の少年に聞いたんじゃ。異世界では、"自動車"と呼ばれる4輪の車が走り、"電車"と呼ばれる轍を進む巨大な箱があるらしいな。その他にも、"飛行機"や"インターネット"、"核兵器"、こちらの世界の技術力とは雲泥の差がある」

「うーん、まあ、確かに……」


 単純な科学技術という面では、やはりオレの元いた世界とこちらではかなりの差があるのは否めない。

 とはいえ、こちらにはスキルや魔法といった元の世界にはない技術も多く存在する。

 どちらが優れているとは一概には言えないように思う。


「それにな。一番、わしにとって衝撃だったのは、"ロボット"じゃ」

「ロボット?」

「異世界では、日常生活をロボットがサポートし、さらには、巨悪に立ち向かうために、様々な超兵器を内蔵した、巨大なロボットが存在するのだという」

「えっ……あ……いや……」


 確かに、今の時代、ロボットはある。

 でも、所詮、ペッ〇ー君レベルで、まだまだ、そんな巨大ロボットなんて存在するはずもない。

 せいぜい、人気アニメで出てくるロボットの実寸大立像立てるくらいのもんだ。


「わしはな……その巨大ロボットを完成させたいんじゃ!! あのイーズマジンではまだまだ、完成形とは言えん!!」


 拳を握りしめ、ギリギリと歯ぎしりをするジャスパーさん。

 いや、むしろ、今の段階で、"ロボット"というジャンルにおいては、大きくオレの元いた世界、上回ってますけども……。


「だから、頼む……! もっと、異世界のロボットについて、教えてはくれんか?」

「えっ……その……」


 教えられることなど、何もないのだが……。

 どうしようかと思っていたら、ブルートがお茶を持って帰ってきた。


「すまんな。少し興奮してしまった」

「い、いえ……。あっ、ブルート、サンキュー」


 ブルートからお茶を受け取り、ジャスパーさんと一緒にズズズと飲む。

 うん、玉露だな。落ち着く味だ。

 いや、落ち着いてる場合じゃなかった。

 ジャスパーさんは、完全にオレ達の世界には、巨大ロボットが実際に存在していると思い込んでいる。

 その上で、より詳しく巨大ロボットについて聞くことで、自分のロボットの完成度をさらに高めようと考えているのだ。

 いったいぜんたい、前に来たっていう転生者はどんなことを吹聴したんだよ……。


「あ、あのですね……」

「教えてくれるか、少年!」

「い、いや、実はですね……」


 オレは包み隠さず、オレ達の世界には巨大ロボットなど存在せず、それが出てくるのは、"アニメ"の中だけであることを告げた。


「なん……じゃと……」

「というわけで、その……オレから教えられることは何も……」

「そうか……そうじゃったのか……」


 ジャスパーさんが肩を落とし、ブルブルと震えている。

 相当ショックを受けているようだ。やっぱり黙っていた方が良かっただろうか。

 そんな風に思ったのも、つかの間、ガバッと顔を上げたジャスパーさんの顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「つまり!! わしの技術はすでに異世界のそれを凌駕しとったっちゅうことか!!」

「えっ……?」


 まあ、オレの世界では空想の産物でしかなかった巨大ロボットを、それなりの完成度で作り上げてしまったのだから、確かにそう言えるのか……。


「そうかそうか!! やはりわしは、この世界どころか、どうやら異世界を含めても、一番の天才だったようじゃにゃ!! にゃっはっはっ!!」


 とりあえず、なんだか機嫌が良くなったので、良いことにしよう。


「時に少年よ! その"アニメ"とやらのロボットについて、知っていることがあれば、いろいろ教えてくれい!! 再現できるものがあれば、取り入れたい!!」

「えっ、あー、オレはネット小説専門なんで、ロボットアニメについては有名どころしか知りませんけど……」


 というわけで、それからしばらく、オレは持っている限りのロボットアニメの知識をジャスパーさんに伝えた。

 ジャスパーさんどころか、隣で聞いていたブルートも興味津々だったようで、次第に二人の視線にも熱が籠ってくる。


「なるほどな……よくもまあ、これだけ様々な技術を思いつくものだ」

「まあ、フィクションですから……」

「いや、じゃが、この世界ならば、再現できる可能性がありそうなものもあるぞ。よーし、アイデアがむくむくと湧いてきたわい!! ブルート、弟子たちを集めておけ! すぐに今後のイーズマジン大改造についてまとめるぞ!!」

「は、はい!! 親方!!」

「博士と呼べいっ!!」


 そんなこんなで忙しなく部屋を出ていくブルート。

 同じくジャスパーさんも早く作業がしたくてうずうずしていると言った様子だ。


「貴重な話を聞かせてくれて、感謝しとる。礼だ。こいつを持っていけ」


 ジャスパーさんから受け取ったのは、かまぼこ板のような形状をした手のひらに収まるサイズのカラクリ道具だった。

 板の真ん中の辺りだけがプリズムのようになっており、光が当たると、虹色に輝いている。


「これは?」

「前に来た少年から聞いたアイデアから作った"多目的通信装置"……お前たちの世界で言うところの"すまほ"というやつじゃ。異世界の住民は、皆、これを持っておるのだろう?」

「あー、言われてみれば、確かにスマホっぽい! そうですね。オレも転生する前は日常的に使ってました」

「そうじゃろ。そうじゃろ。こいつはな。なんと指向性のある魔力を飛ばし、パスを繋ぐことで、大陸の端から端にでも、お互いの声を届けることができる優れものじゃ。その上、あやつから聞いた特徴をできる限り再現した。写真も取れれば、音を録音したり聞いたりすることもできるぞい」


 なにそれ、ほんとうにスマホじゃん。

 これがあれば、例えば、ドーンにいながら、イーズマの艶姫さんと話をすることもできるだろうし、かなり利便性が高い。

 その上、写真や音楽も残せるというのも、現代っ子であるオレにとっては、なかなかポイントが高い。


「詳しい操作については、転生者なら感覚的にわかるじゃろ。こいつをやる。せいぜい活用するがいい」

「うわぁ、嬉しいです。ありがたく頂戴します」


 オレが言い終わるのも待たず、ジャスパーさんはさっそく作業場の方へと駆け下りていった。

 いや、しかし、ロボットに続いてスマホもか。

 本当に、この人なら、さっきオレが教えたロボットの技術や技まで再現してしまうかもしれない……。


「ジャスパーさんが本気出したら、魔王を倒す発明とかもできちゃうんじゃないかな……」


 でも、本当にそんなことになったら、ジャスパーさん自身が大魔王に成り代わって、カラクリで世界征服してしまいそうな気がする。

 どことなく感じるマッドサイエンティスト感がそう思わせるのだろうか……。

 末恐ろしさを感じつつも、オレは、アンシィとともに、ジャスパーさんの工房を後にしたのだった。

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