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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
間章 その後のイーズマにて
107/156

107.2号

 鋼帝竜を撃破して3日目のことだ。

 オレはアンシィと2人、アイオライトさんの工房を訪れていた。

 今、工房はどこも大忙しらしい。

 その原因は、鋼帝竜が遺したアダマンタイト製の鱗だ。

 戦闘中、ダメージを受けた奴は、身体の鱗を全て取り払って、身軽になったのだが、その際に海や港へと落ちた鱗は、奴が死んでもそのまま残った。

 つまり大量のアダマンタイトという、鍛冶師垂涎の戦利品を得たわけで、現在は、冒険者達に鱗の回収をお願いするとともに、アダマンタイトの加工法について、ベテランの職人から、若手達にもレクチャーが行われているらしい。

 あの巨大な鋼帝竜の鱗ということなので、アダマンタイト製の城でも建てられるんじゃないかというくらい大量にあるはずだ。

 武器づくり、防具づくりがさかんなイーズマだが、ほかにもカラクリや造船など、アダマンタイトを利用できる場面はいくらでもある。

 どんな風に分配されるかは、まだ、はっきりとは決まっていないが、少なくとも、しばらくは休む間もないだろうというのがアイオライトさんから聞いた話だった。


「でも、職人としては、腕が鳴るんじゃないですか?」

「……そうだな……確かに……作ってみたいものは……山ほど……ある」


 やはりアイオライトさんも職人として、ワクワクする気持ちはあるようで、そのいつもムスッとしたように見える顔にも、どこかしら楽し気な雰囲気が感じられる。

 しかし、少しだけアイオライトさんは頭をもたげた。


「あれ、どうかしました?」

「……いや……また……しばらく……娘に……会えそうに……ないと……思ってな」

「あっ……」


 アイオライトさんが、元々いたレフォレス村から、イーズマに引き抜かれて、おおよそ3年ほど。

 その間、一度もレフォレス村には帰れていないらしい。

 当然、アイオライトさんとしても、アイナちゃんには会いたいだろうが、これから来るであろうアダマンタイトフィーバーの間は、とてもここを離れることはできないだろうし、痛しかゆしといったところなのだろう。


「ほんの数日だけでも帰省できたりとか……?」

「……厳しい……な……依頼が……山とある……」


 アイオライトさんは性格上、なかなか依頼を断るということもできなさそうだし、このままずるずると帰れない時間が伸びていく可能性も……。


「思うんですけど、いっそのことアイナちゃんの方をこっちの呼び寄せるとか」


 アイナちゃんがアイオライトさんと別れたのは6歳の時だ。

 今のアイナちゃんは9歳。村では大人顔負けに仕事もこなしていたし、なによりも天真爛漫なあの娘は、イーズマでも十分やっていける気がする。


「……それは……」

「アイナちゃん、もう9つだし、たぶんアイオライトさんと別れた時よりもずっと大人ですよ。あんな立派な麻縄も作れるし、自分の事は大概自分でできますし」

「……ふむ……」


 アイオライトさんが顎に指を当てて、考えを巡らせる。


「……すぐにとは……いかないが……」

「なんだったら、オレ達、アイナちゃんをここまで護衛してきてもいいですし。まあ、アイナちゃん自身の意思もあるので、本人にまずは聞いてみなくちゃですが」

「……必要があれば……頼むかも……しれない……」


 どうやら、アイオライトさんは、アイナちゃんをこちらに連れてくることを前向きに考えてくれているようだ。

 たぶんだけど、アイナちゃんはレフォレス村での生活よりも、お父さんと2人一緒にいられることを選ぶ気がする。

 イーズマ自体、鋼帝竜という脅威もなくなったわけだし、子どもを呼び寄せることにもあまり抵抗はなくなったと言えるだろう。

 そう遠くない未来に、2人が一緒に暮らせることを願わずにはいられない。


「……俺の話は……これくらいに……して……」


 アイオライトさんがオレの隣に腰掛けていたアンシィへと視線を向ける。


「……新しい……身体は……どうだ……?」

「最高よ。硬いモノぶっ叩いても全然痛くないし」

「……そうか」

「うん、本当に感謝してるわ! ありがとう!!」


 アンシィも、ずっとアイオライトさんには礼を言いたかったのだろう。

 柄にもなく、深々と頭を下げるその様子には、心からの感謝の気持ちが感じられる。


「……また……傷つく……ことがあれば……いつでも……来るが……いい」

「ええ。その時は、また頼むわ!」


 とはいえ、今のアンシィは、おそらく世界中のほとんどの武器より高い強度を誇る。

 なにせ、伝説級の金属3種の合金で作られているのだ。

 強度もさることながら、変形機能を有し、さらには意志の力すら物理的な攻撃力へと置換することもできる。

 そんな今のアンシィが傷つくことは、そうそうないだろう。


「あ、そうだ。アイオライトさん」


 そう。アイナちゃんの事と、アンシィから感謝の気持ちを伝えること以外にも今日はもう一つ目的があった。


「"あいつ"は、どんな状態なんですか……?」

「……すでに……修繕は……済んでいる……」

「ほ、本当ですか!」


 心から安堵するオレの元へと、アイオライトさんは布に包まれた"それ"を持ってきてくれた。

 取り払われたそこにあったのは、銀色の光沢を放つスコップ……そう、オレが神域の大空洞を攻略する際に使った、あのスコップだ。

 最後の最後、オリハルコンを発掘する際に、刃の部分が砕けて、ボロボロになってしまった一時の相棒だったが、今は元の姿を取り戻し、その美しい銀色の刃が光を反射している。


「良かった! 本当に……!!」


 オレは慈しむように、綺麗になった銀のスコップを手に取った。

 こいつには本当に感謝している。

 あの神域の大空洞。攻略できたのはコルリとこいつのおかげだ。

 道中ももちろんだが、最後の最後に、こいつが命を張ってでも、力を貸してくれなければ、オレはアンシィを復活させることができなかった。

 感謝の気持ちを伝えるように、オレはその柄をグッと抱きしめた。


「ありがとうな……」


 そうつぶやいた瞬間だった。

 ドクン!


「えっ……?」


 銀のスコップが脈動した。

 そして、その刃が、柄が、持ち手が、光を放つ。

 この光は、アンシィがいつも人間の姿に変わるときの……?

 やがて、光が収まると、いつの間にかオレに抱きしめられるようにして、一人の女の子が膝の上にちょこんと座っていた。

 驚くほどに艶々と光る銀色の髪を腰の辺りまで提げ、真っ赤な目をしたまるで人形のような少女。

 まるで感情などないかのように、虚空を見つめていたその赤い瞳の焦点があったかと思うと同時に、パァと音でも聞こえそうなほどの勢いで、少女の表情が笑顔へと変わった。

 そして、オレと見つめ合う。

 一瞬後、少女はオレに思いっきり抱き着いていた。


「ディグくん!! ディグくんだぁ!!」

「お、おいおい! ちょっと……!!」


 突然の状況に、まったく思考が追い付いてこない。

 えっ、あのスコップが人間の女の子に変化したってこと……?

 それってまるでアンシィじゃん……。

 オレは助けを求めるようにアンシィに視線を向けるも、当のアンシィも面食らったように、オレ達の方を見つめている。

 いったい、こりゃどうすりゃいいんだ。


「あ、ごめんなさい、ディグくん!! 久しぶりに会えたから、つい……」

「あ、いや……。き、君は、あの銀のスコップ……なのか……?」

「うん!! ディグくんに使ってもらって、神域の大空洞を攻略した、あの銀のスコップだよ!!」


 少女は一度立ち上がると、くるりと回って見せる。

 短い白のプリーツスカートがひらりと揺れる。

 アンシィと同じく、へそ出しの服を着ており、肩からは短めのケープを羽織っている。

 絶対領域にはガーターベルト……なんつうか、オレの好みどんぴしゃな……。


「えへへっ……どうかな? 人間の姿の私って可愛い?」

「う、うん……」


 正直、めちゃくちゃ可愛いけども。

 オレは、アイオライトさんの方へと視線を向ける。

 彼も彼で、突然の出来事に、怖い表情のまま固まっている。

 ダメだ。全員状況に理解が追い付いていない。ここはオレがなんとかせねば。


「あ、あのさ……。なんで突然人の姿に?」

「うーん、私にもよくわからないんだ。でも、神域の大空洞の中で、ずっとディグくんに使ってもらっているうちに、なんだか意思が芽生えちゃったの。それで、お父さんに直してもらったら、人間になれるようになっちゃった」

「えーと……」


 お父さんというのはアイオライトさんの事だろう。

 自分の名前が出てきたからか、ようやくアイオライトさんがフリーズから復帰し、ぽつりとつぶやいた。


「……材料のせいか……」

「えっ?」


 今、なんて?


「……銀のスコップの……補修に……残っていた……アダマンタイトと……ヒヒイロカネを……使った……」

「な、なぜゆえ!!」


 いや、確かに、こいつには世話になったから、できるだけ丁寧に直してあげてほしいとお願いはしたが、まさかの希少金属!

 ヒヒイロカネは魂に働きかける金属だから、何かしらそれが影響しているのは間違いない。

 けれど、さすがに人間の姿になれるのは……もしかして、転生者であるオレのせいか?

 オレが使用したことで、なんでもないスコップに意思が芽生えたとしたら……。

 今後不用意に他のスコップに触れるのが怖くなるのだが……。


「と、とりあえず……」


 まあ、この娘が何者になろうが、受けた恩は受けた恩だ。

 オレは姿勢を正すと、彼女に頭を下げた。


「せっかく話せるようになったんだから、ちゃんと伝えるよ。ありがとう。君のおかげで、アンシィを助けることができた」

「ディグくん……。ううん、いいのよ。私もディグくんに使ってもらって、凄く嬉しかったのよ。それに……」


 再び、銀のスコップの女の子はオレの腕へと抱き着く。


「私、ディグくんのこと、好きになっちゃったの……!」

「うえぇっ!?」

「なっ!!」


 思わず変な声を出してしまうオレと眉間に皺を寄せるアンシィ。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って……! ほ、本気?」

「うん! 大好き!! だって、カッコいいし!!」

「ちょ、ちょっとあんた! ディグのどこがカッコいいって言うのよ……」


 アンシィが思わずインターセプトしてくるが、少女の目の輝きは益々強くなるばかりだ。

 ああ、これ、恋は盲目ってやつだ。


「あんなに誰かのために必死になれる人、ディグくんしかいないよぉ」


 猫なで声で、オレへと頭を預けてくる銀のスコップの女の子……くっ、正直かわいい……。

 だが、そんな女の子をオレから引きはがそうとするアンシィ。

 いつもオレが誰と接近しようが、全然気にすることのないアンシィが、こんな風になるなんて珍しいな。


「ちょっと、あんた、うちのディグから離れなさい……!!」

「いーやー!! 私、ディグくんの傍にいるもん!!」


 アンシィに引っ張られつつも、女の子は、オレへと輝いた瞳を向ける。


「あのね!! ディグくん!! 私もディグくんの旅に連れて行って!!」

「えっ……!?」

「ちょ、あんた、アタシたちについて来ようって言うの!?」


 アンシィの額から冷や汗が流れる。

 こいつ、もしかして……。


「ねえ、いいでしょ! ディグくん!! お父さんも!!」

「……えっ……」


 突然、振られたアイオライトさんは、勢いに押されてか首を縦に振った。


「お父さんの許可はもらったし、いいよね! ディグくん!」

「いや、オレは別に……構わないけど……」

「ちょっと、ディグ!! あんた、私以外のスコップも連れて行こうっていうの!?」

「あ、いや……」


 やっぱり完全に嫉妬してんな、こいつ。

 人間の女性が、いくら寄って来ようと、我関せずなアンシィだけど、同族(同じスコップ)が相手となると、また、違うらしい。


「わかってるよ! ディグくんには、心に決めた(スコップ)がいるって……。私、ディグくんを困らせるつもりはないの。ディグくんが必要な時だけ扱う、都合の良い(スコップ)でいいから!!」


 なんかその言い方、オレが二股かけてるクズ男みたいで嫌なんですが……。

 まあ、少なくとも、スコップがもう一本増えるというのは、いざという時にも対応できるし、彼女が来てくれるのは実際非常にありがたい。

 メインスコップはあくまでアンシィなので、彼女を使う機会はそう多くないとは思うが、彼女はそれでもいいと言ってくれているし。

 オレはアンシィと顔を見合わせる。


「アタシは、絶対、嫌だからね!!」

「そう言うなよ。お前を復活させる時にも、この娘には凄く世話になったんだ。だから……」

「くっ……それを持ち出されると……」

「さっきも言ったように、私は2番手でいいの!! ディグくんの1番はあなたって決まってる。だってあんなに必死に助けようとするんだもの」

「ま、まあ、アタシとこいつは相棒だからね」


 胸を張るアンシィ。

 ああ、これもう流れ入ってるわ。


「それに、私、ちゃんとした神器じゃないから、あんまり長い時間この姿ではいられないし、スコップでいる間も、たくさん寝てなくちゃいけないんだ。だから、普段はディグくんの持っているマジックボトルの中に入れておいてくれて構わないから」

「そ、それなら……別に、一緒に来てくれてもいいわよ」


 ほら、ちょろい。


「本当!? ありがとう!! ディグくんも、いいよね!!」

「ああ、君が来てくれると、助かるよ」

「やーん!! やっぱりディグくん、好きー!!」


 ハートマークを飛ばしつつ、ギュッとオレを強く抱きしめる銀のスコップの女の子。

 アンシィと同じくスコップに欲情するわけにはいかない……いかないのだが……胸柔らけぇなぁ、おい。


「そうだ。君、どう呼んだらいいんだ?」

「あ、そうそう!! せっかくだから、名前つけて欲しいの!!」

「名前かぁ……」


 そういや、アンシィの名前もオレがつけたんだったな。

 うーん、スコップ状態でも、人間の姿になった今も、目を引くのはそのきらめく銀色。


「んじゃ、シルヴァなんてのはどうだ?」

「シルヴァ……うん、かわいい!! 私は、これからシルヴァよ!! よろしくね、ディグくん!!」


 ニコニコ顔で、目にハートマークを浮かべながら、オレを見つめてくるシルヴァ。

 こうして、オレ達の旅に同行する仲間が、また、増えたのであった。


「むぅ……。一番は……アタシなんだからね」

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