物語に飢える男
ミステリー小説好きであることは
以前にも書いた。
こうして、ゆったりした時間の中で、
物語に飢える心を、コーヒーの中の氷のように
くるくるとかき回しながら
男は、頁をめくり
溶ける氷と、解けない謎の
スローなレースを楽しんだ。
その一文がシンプルであればあるほど、
心の揺れ幅が大きくなる事を
男は、感じた。
時には、隣の座席のオバちゃん二人組の
甲高い会話に邪魔されそうになる事もあった。
しかし今は、そんな心配は全く無用だった。
聴こえてくるのは、店内に流れる静かな洋楽だけ。
なんて素敵な空間なのだ!
男は、更に物語に没頭した。
読み進めるうち
男は、後書きにあった言葉を思い出し
後ろの方の頁を開いた。
お気に入りの一文を見つけ
ひとつ頷いた後
男は、読みかけのページに戻ろうとしたが、
何故か数ページ戻ったところで指が止まり
そこに書かれた一文を読むことになった。
この物語の真相を表す、犯人の名が記されていた。