悪魔の日常 in Halloween
「ーーーっ。こ、ここは?たしか、私は…、帰り道に急にここにきて…。」
何故か私は薄暗い森の中で一人ぽつんと座り込んでいる。
ここは一体どこだろうか?
思い出せる限りの記憶を辿る。
(たしか私は北条先輩と一緒に帰っていて、急に景色が変わって、この森に…。そうだ!北条先輩は…!)
辺りを見渡すが、北条先輩の姿はない。
どこかに行ってしまったのだろうか?
(とりあえず、北条先輩を探さないと。)
そう思い、私は道を歩く。
少し歩くと今までいた薄暗い森を抜け、街に出ることが出来た。
そこは洋風な建物が並んでいて、至る所にカボチャのランタンが置いてある。
「そういえば今日はハロウィンだったっけ。」
ハロウィンに合わせて飾り付けされたような怪しい雰囲気の街ととてもリアルに仮装した人々を見て、ふと思い出した。
とはいえ、うちの近くにこんなに大々的にハロウィンをやっている地域があっただろうか?
兎にも角にもここがどこなのか、街にいる人に聞いてみようと思い、私は近くにいた背の高い女の人に話しかけた。
「あの〜、すみません。ここって何市でしょうか?」
女の人は私を見ると、少し目を丸くしていたが、すぐに呆れたような顔をした。
「…あなたの名前は?」
唐突な問いに呆気に取られたが、反射的に答えてしまう。
「風間 由美です…。」
「一人でここに来たの?」
「え、あの、一人じゃないですけど。こ、ここってどこなんでしょうか?」
女の人は少しめんどうそうな表情を浮かべる。
「ここは、テーマパークよ。」
「えっ、ここはテーマパークなんですか?」
「そうよ、あなた森から来たんじゃない?その森、外からテーマパーク内に繋がってるのよ。」
「そう、なんですか。」
「だから、故意じゃなかったにせよ、一応お金を払わず入園したってことになっちゃうの。一人じゃないならそのお友達も探して、ここから退園して貰わないと行けないのよね。」
ここはテーマパークだから街並みもハロウィン風だったのか。
それなら街中にいる人が何故全員仮装していたのかも合点がいく。
でも、うちの近くにテーマパークなんてあったろうか?
「だから、お友達の名前とか容姿を教えてくれるかしら?」
少し違和感を感じながらも、テーマパークに勝手に入ってしまったことに焦り、私は答える。
「えっと、もう一人の人は私より背が二十センチくらい高くて、スラッとしてる、黒い短髪の男の人です。名前は北条 剛と言います。」
女の人はニコッと笑ってわかったわと返事をした。
「それじゃ、こっちに来てちょうだい。」
私は女の人に促されて、街並みに並ぶ一軒の家に入った。
ここはいわゆるバックヤード的なところなのだろうか?
部屋はカントリー風な感じでとても落ち着く雰囲気だ。
なんだか懐かしい感じがした。
「さ、ここで、しばらく待っていてね。」
女の人はそう言うと、そうそうに部屋を出ようとする。
「あ、あの、お名前教えていただいてもよろしいでしょうか…?」
女の人が一瞬怪訝な顔をしたように見えたのだが、錯覚だったのだろうか。
女の人は微笑みながら答える。
「レッドローズよ。」
それだけ言うと今度こそ部屋を出ていった。
レッドローズ…、テーマパーク内のニックネームのようなものなのだろうか?
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それからどのくらい経ったのかはわからない。ただ、テーマパークから人を見つけるには十分な時間が流れたと思う。
その間、レッドローズさんはおろか誰も部屋に訪れなかった。
さすがに痺れを切らし、ドアを開けてレッドローズさんを小さく呼んでみたが誰の返事もない。
それどころか、この家は私が出す物音以外何も音が聞こえないくらいに静まり返っていた。
さすがにそろそろ、自宅に帰らないとまずいので、家を出て従業員の方を探すことにした。
外に出ると街はすっかり暗闇に包まれていて、誰もいなかった。
「あれ、そういえばさっきの街並みって明るかったっけ?」
良く考えたら、ここは私が森から出た時から夜だったような気がする。
仮装した人々についても、何故リアルな仮装だと思っていたのだろう。
どう考えても仮装だけで出来る訳がない姿をした者もいた。
そう考えると今までなんとも考えていなかった、数え切れないほどの違和感が頭に浮かんだ。
むしろなぜ何も違和感に感じなかったのかがわからない。
そして、私は気づいた。
「ここは、テーマパークなんかじゃ、ない。」
ここは大勢の化け物がいる恐ろしい場所だ。
(そうなると、北条先輩…は?)
この街を見てとっくに逃げたのかもしれない。
そう考えると安堵する気持ちと、一人ぼっちの孤独と恐怖が一気に私を襲った。
怖い。
その時、一つの家からワイワイと賑やかな声が聞こえた。
もしかしたら、ここは私が思っているような場所じゃなくて、本当にテーマパークなのかもしれない。
そう思いたくて、私はそっと気づかれないようにその家の窓から部屋を覗いた。
ーーー中には、北条先輩がいた。
いや、『いた』訳ではない。
北条先輩の頭がテーブルに置いてあった。
北条先輩の虚ろな目と目が合う。
「ひっ。」
口を押さえてその場にへたりこむ。
逃げなくちゃ、逃げなくちゃ…!
震える足を奮い立たせ私は走り出した。
ドン
何かとぶつかった。
その拍子に顔に何かがかかる。
尻もちをつきながら顔を上げると、そこにはレッドローズさんがいた。
レッドローズさんは半分より少なくなったグラスを傾けた。
「あら、ごめんなさいね。顔にかかっちゃったわ。そんな所でコソコソして、混ざれば良いのに。」
顔にかかった液体が口の中に入る。
この液体は、血だ。
「あ、あぁ、あぁあああ!!!」
私は無我夢中で走った。
森に向かってひたすら走り続けた。
そして念願の森について少しして私は何かにつまづいた。
それは人の頭蓋骨の山だった。
しかもほとんどが割られている。
「っ!うあぁぁあ!」
私は這いつくばりながら前に進む。
無我夢中で先に湖があったのに気づかず危うく落ちそうになった。
そして湖に自分の姿が映る。
この世界に来てから、初めて自分の姿を見た。
目は釣り上がっていて、本来白目である部分は真っ赤で、顔の色は血が通っていないかのように白い。
頭には二本の角が生えていて、髪は目とおなじ真っ赤な色。
よく見れば、爪も鋭く赤黒い。
そんな恐ろしい姿を見て、私はふふっと微笑んだ。
「ーーそうだ。私、こっちの住人だった。」
その後、街に戻った私をこの世界の住人である私の友人達が心配そうに見つめている。
「いやぁ、ごめんね、心配かけて。」
私が頭を掻きながらそう口を開くと、友人達は深いため息をついた。
「人間を食べるのはいいけど、毎度脳まで食べるのはやめて欲しいわ、かなり迷惑なのよねぇ…。」
呆れ顔をしているレッドローズが恐らく北条先輩の脳みそであろうものを手で握りつぶした。
「な!なんて勿体ないことを!脳みそが一番美味しいって言うのに!!」
「私は血以外興味ないわ。」
冷たくそう言い放たれて、私はしょんぼりと肩を落とした。
「まあ、確かに記憶を継承しちゃうのは難点だよねぇ…。」
レッドローズは微笑みながら、笑っていない目で私を睨みつける。
「記憶を継承だけで済むなら別にどうでもいいのよ。毎度毎度記憶が混乱して自分のことをその人間だと思い込んでるのが迷惑なのよ。」
レッドローズは再び深いため息をついた。
レッドローズ含め私の友人達は私に文句を言い終わると、何度も迷惑をかけられることに深いため息をつきながら、各々の家に戻っていった。
私はレッドローズが潰し、地面に散らばった脳みその残骸を口に運ぶ。
まろやかでこってりしていて、ここまで美味しもいものは世界広しと言えど脳みそくらいだろう。
他の残骸も次々と口に運ぶ。
そしてあらかた食べ終わったあと私は意識を手放した。
「ーーーっ。こ、ここは?たしか、俺は……。」
END
最後までお読み頂きありがとうございます。
書いた小説の整理をしてたら出てきました。
他の話を連載もしていますのでよろしければどうぞ。