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【サカイメの書架】2019年6月 お題「花火」
「ひゅるるる。どおん。ぱらぱら」
奇妙な擬音を楽しそうに口ずさみながら老人は私を海の見える崖の上へと案内した。
「夏の風物詩なんて言われたもんだがね。今の若い人は知らねんだなあ」
私はデータベースから情報を拾う。
「二十世紀後半に廃れたという、爆弾を爆発させて楽しむ遊びですよね」
遊びじゃねえ芸術だよと老人は笑った。
「危険で低俗な遊びです」
しっ、と老人は指を口に当てた。
「上がったぜ」
海からしゅうしゅうと何かが上昇した。
瞬間。
同心円状の巨大な三色の光が視界を包みこんだ。続く豪快な太鼓のような音が私を弾いた。
「な……何ですかこれは」
「三重芯変化菊。一尺玉だ。これが花火だよ。最高に贅沢な夜空の使い方だろう?」




