26/35
【サカイメの書架】2019年2月 お題「桜吹雪」
利発そうな少年が毎朝私に会いに来る。
ランドセルをカタカタ鳴らして走ってきて、お姉さん、とまだ声変わり前の声がくすぐったい。そんな風に呼ぶのは彼だけ。嬉しかった。
でも終わりはある日訪れた。
「お姉さん、クローンなんですか」
図書館で私の種族について調べたのだろう。
ついに知られてしまった。
彼の中の、たった一人だった私がいなくなる。私はたくさんいる私の一人になる。
彼は私が分からなくなる。
でも、それでもいい。
みんな私だから。
彼がどこに行っても、私じゃない私が彼の成長を見守っている。
私の名前は、ソメイヨシノ。
一年に一度この季節には少しだけ、日本全国にいる私のクローン達が一斉に花を散らして、彼の気を引くのだ。




