2.9
食堂で日替わり定食を食べていると後ろから声がした。
「祐介、今日は遅れてきたみたいだけどもしかして人身事故のせいかい?」
遼太郎だ。しかし奴の勘は今日も冴えているらしい。
「違うよ、君の路線で人身事故が起きたことを同じ鉄道会社を使う僕が知らない訳ないだろ?」
いやまあ分かってはいるけどさ。しかし今日もまた死体を見てしまったのさ。
「またかい?君はどこかの少年探偵にでもなったのかい?」
そんな事を言うな・・・本当になったらどうしてくれるんだ。
とは言えこの状況は異常だ。
分かってはいるがどうしようもない。
「そうかな?例えば死体を作りにくい場所を歩いたりすればいいんじゃないかな?」
いや、今までの死体から考えるにそれぞれ全く違う死に方をしている。だから無駄だろう。まあ出来るだけそうするようにはするが。
それはさておきこいつは昨日裏切りやがったんだった。
「いいじゃないか、僕が女の子に話しかけようがその代償として失恋したばかりの君を放置しようが僕の勝手じゃないか」
こいつ・・・確信犯だな。
「冗談だよ、君には悪いことをしたと思っているよ。それよりも、彼女の連絡先を手に入れる事に成功したよ」
少しくらい反省しろよ・・・というかやはり遼太郎は手が早い。
「そうかな?むしろ君がなかなか手を出さないだけだと思うけど」
いやいや急に聞くのは相手にも悪いし、それに僕自身の心の準備も必要だろう。
「まあ君はチキンだから仕方ないのかもね」
・・・これ以上僕の魂を削るのは止めてくれませんか?
とまあ、少しばかり魂が削られたもののいつも通りの話を楽しんだ。
講義が終わり帰ろうとすると遼太郎に声を掛けられた。
なんだ・・・またこいつは裏切るのか・・・?
「違うよ祐介、今日は誘いに来たんだよ」
何にだ・・・まさか壺でも買わせるつもりか?
「そんな訳ないじゃないか、違うよ。君を彼女に会わせようと思ってね」
まさかあの不思議ちゃんにか?
「そうだよ、昨日少しばかり君の話をしたら是非会ってみたいと言われてね」
それはそれは、というか君はまさか僕を話のネタにしたのか?
「少しだけだから許してくれないかな?」
少しばかり君との友人関係を見直したくなったよ。
まあそれは置いとくとしてその誘いに乗ろうじゃないか。
「ありがとう、遼太郎。じゃあいつもの喫茶店に先に行っといてくれないか?後から彼女を連れて行くよ」
分かった、じゃあまた後で。
「・・・今回は上手くいくといいね」
歩き出した僕の後ろから遼太郎が何か呟いたのが聞こえた。
喫茶店で珈琲を飲みながら小説を読んでいると、遼太郎と不思議ちゃんが店に入ってきた。
遼太郎は少しばかり店内を見まわし、僕に近づいてきた。
「彼が祐介、村上祐介だよ」
少しばかり会釈し、彼女に自分の名前を言う。
「で祐介、彼女が山崎昴さんだ」
彼女は少しばかり小さな声で
「こんにちは、村上君。昴といいます」
と言った。
「今日は呼び出してごめんなさい。昨日東野君から君の事を聞いて少し気になったんです」
これが僕と昴の出会いだった。
Jun 08,2017 誤字訂正




