人は皆孤独だ
人は皆孤独だ。いつかどこかで聞いたようなこの言葉を、君はどう思う?
当たり前の事なんだけど、最近僕はよくこんな事を考えるんだ。
例えば君と僕が一緒に、そうだな、カレー屋さんに行ったとしよう。
僕達は同じカレーを食べて、「スパイスの香りがいいね」とか「辛いのは苦手だからこれくらいが丁度いい」とか、「味の好みが合うね」なんて話したりするかもしれない。
でも、僕達が同じカレーを美味しいと思ったとして、好きな味が同じということにはならないんじゃないかな。
だってほら、子供は大人より苦味や酸味に敏感だとか言うだろう? それに大人になってからだって、食生活が偏って亜鉛が不足すると、味が分かりにくくなるらしい。
人によって味の感じ方は違うんじゃないかな。
だから、僕が美味しいと感じた味と、君が美味しいと感じた味は、きっと全く同じというわけじゃない。
僕は君より辛味を強く感じているかもしれないし、君は僕より甘味を強く感じているかもしれない。
味覚に限った話じゃない。
例えば君と僕が一緒に星を見に行ったとしよう。
僕達は同じ星空を見て、「星がいっぱいだね」って言うかもしれない。
でも、僕の視力は両目とも2.0で、君の視力は分からないけど、とにかく僕より低いとしよう。
そうしたら当然、見える星の数も違うだろうね。君には見えない5等星や6等星も、僕には見えるかもしれない。
僕達は同じ星空を見ているのに、見えている星空は違うんだ。
それから例えば、僕達が一緒に海へ夕日を見に行ったとしよう。
水平線に沈むオレンジ色の太陽を見ながら、「綺麗だね」なんて、どちらからともなく感嘆の声が漏れるかもしれない。
でも、僕が見ている夕日の色と、君が見ている夕日の色は同じだろうか。
だってさ、僕が左目を閉じて右目だけで世界を見ると、左目だけで見た時と比べてほんの僅かに赤みがかって見えるし、逆に左目だけで見ると、右目と比べてほんの僅かに青みがかって見えるんだ。
同じ人間の左右の目でさえ違うんだから、君の目で見る夕日の色は、きっと僕とは違っているんじゃないかな。
僕達は同じ物を見て、同じ感情を共有しているつもりになっていても、実際はたぶん同じじゃないんだ。
同じ世界を見ているはずなのに、見えている世界は違う。
僕には君の見ている世界を見る事が出来ない。君には僕の見ている世界を見る事が出来ない。
味の感じ方も、触った感触も、熱いとか冷たいとか、そんな感覚も、きっと違う。
君の世界は君だけの物で、僕の世界は僕だけの物。
共有する事は、叶わない。
こんな風に考えていたら、「人は皆孤独だ」ってありきたりな歌のフレーズみたいなこの言葉も、本当に思えてくるんだ。
でも、出来ないからこそ、人は誰かと何かを共有したくなるのかもしれない。自分の世界を誰かに伝えたくなって、必死に言葉を紡ぐのかもしれない。
だから、自分とは違う世界を持つ誰かの事を、君の事を、知りたいと思うのかもしれない。
ねえ、君の世界を教えてくれないか。