世界平和の為に結婚させられそうです！
前作「ハーレム万歳！」にまさかの続編希望の声を頂きましたので、やっちゃいました。
こんにちは、翔太です。日本を代表する平凡・新米サラリーマン。人生初めてのボーナスが入ったら、ちょっとお高いスーツと革靴を買おうと思ってたのに、そうは問屋が卸しませんでした。
実は魔物にさらわれた姫様を助けるべく、勇者として異世界に召喚されてしまった俺。もちろんびっくりしたけど、これって巷でよく見るファンタジーな展開じゃない？ そういう事で２つ返事で了承し、勇者・翔太の冒険の旅が始まった。
俺を召喚したと思われる魔法使いの1人が、俺に特殊能力「魅了」が備わっていると言った。何その美味しい能力。 神様ありがとう！ でもどうやって発動するの？ 常時発動型なの？ ともあれそれが効いてるのか、可愛い女の子達に囲まれて、夢にまで見たハーレム生活に大満足な俺。こんなお約束な展開なら、姫様はもちろんの事、きっと姫様をさらった魔物もキュートな女の子に違いない。目指すは姫様奪還、そして大好きな女の子達とキャッキャうふふな毎日だ！
と こ ろ が だ。
今俺の置かれているこの状況はいったい何なんだ……。ちと浮かれ過ぎたのは認めよう。しかしこんな事があって良いのか？ 自分の気持ちを整理する為に、順を追って思い出していきたいと思う。しっかりしろ俺。もしかしたら、これは悪質な夢かもしれない。
まず、召喚された王都から進むこと2週間。時に歩き、馬車にのり、船に乗りながら行程を進む。特に戦闘的なものはないまま、姫様の囚われる魔物の住処までたどり着いた。本当に戦闘って言ったら、酒場で怖いお兄さん達に絡まれたり、野犬の群れに襲われたりした位。俺は特に戦闘技術があるわけでもなく――そりゃそうだよね、ただのサラリーマンだし。そんな時は俺の頼もしいパーティのみんなが応戦してくれた。おかげで、巷で賑わうスキルだのチートだのというお約束な展開はなく、俺は女子の後ろに隠れるただの勇者だった。
そして遂に魔物と対峙した。俺は脳内で必死に練習した文句を思い出す。
「俺は異世界より召喚されし勇者、翔太。魔物よ、命惜しくば姫君を我らの元に返すがよい！」
これをね、言うつもりだったの。「いのちおしくばひめぎみ」の所が難しくて何度も練習したの。しかし、俺の必死の努力を余所に、まず口を開いたのがエルフのロジーナだった。彼女は俺のパーティの中でもしっかりしたリーダー的存在で、魔法が得意なツンデレ美女だ。その彼女が魔物に向かってこう言った。
「貴方の望み通りの人を連れてきたわ。」
——え？ 今なんて言いました？
望み通りの人連れてきたって、パーティのみんなしかいないよ？ まさか、この俺の愛しいハーレムちゃん達の中から誰か差し出すという事なのか。
勇しき我がハーレムちゃん達との事前の打ち合わせでは、魔物へ仕掛けるタイミングはこちらで測るから、俺は合図があるまで控えていてとの事だった。決め文句を言うくらい良いだろうと思って用意はしていたが……。
俺は理解が追い付かず、魔物とロジーナを交互にきょろきょろと見た。……うん？ 何故か魔物こっちめっちゃ見てるんですけど。怖いんですけど。なんか鼻息荒いんですけど。
そうして呆気にとられている間に交渉はスムーズに成立した様で、姫様は彼女達の元へ戻った。俺はというと……うん、これは何と言えばいいのかな。やばい、目から汁が出てきた。心の冷や汗かもしれない。
俺は……、魔物の住処に置いて行かれた。
魔物の住処といったが、洞窟のような物を想像してはいけない。仮にも一国の姫君を2週間近く拘束していたのだ。薄暗い森の中にあるにも関わらず、基礎のしっかりとした立派な木造平屋が建っていた。中は意外に広く、居間や寝室、台所等が備え付けられていた。
俺の見たものが幻覚でないとすれば、女中らしき魔物――褐色の肌に、ヤギの角と蝙蝠の羽を装備したエプロン姿の女の人だ。その人達が魔法陣と共に消えようとしていた。姫様をさらった魔物がそばにおり「ご苦労」なんてねぎらいの言葉ををかけている。
何が起こっているのでしょう。俺の愛しいハーレムちゃん達は戻ってくるよね？ トイレ休憩かお色直しかは知らないけど、俺このままじゃないよね？ みんなにこやかに退散してた上に「勇者様あとは頑張ってぇ♡」なんて言われたけど、頑張る事なんて何も無いよね？
魔物の家から女中が全て消え、俺と魔物が1対1になった。すると魔物は台所に行き、何をしているのかと思えばお茶セットを持ってきたのだ。可愛らしい模様の陶器のティーセットからは、何やらいい匂いがする。魔物の図体がデカいからなのか、ティーセットが玩具みたいだ。
相手の顔が赤いのは気のせいなのか。気のせいだよな。俺の目が充血しているせいだと言ってくれ。恥ずかしそうにチラチラこっち見るんじゃねえよ！ お願いだから！
魔物は言った。
「ま、まあ座れ、嫁殿」
……魔物と対峙した瞬間から頭が要領オーバーだった。つまり何がなんだか分からなくて、「YO ME DO NO」という単語が理解できなくて……20秒程意識が無くなり、その間白眼を向いて口から泡を吹く勇者の俺だった。
◇
ミノタウロスという化け物を知っているか？ 牛頭人身、つまり牛の頭と人間の体を持つ、迷宮に隠れ住んでいた伝説のアレだ。俺の目の前にいる魔物はそれによく似ている。牛頭とは言っても顔のパーツはうまい具合に人間らしく、腹立たしい事になんか格好いい。何でだ。あの鼻触りたいんですけど。そんで牛は牛でも、こいつはバイソン系だ。全身は黒っぽい短毛に覆われ、ボリュームのある髪の毛はドレッドヘア。三つ編みを1本だけ顔のサイドに垂らしているて、前髪は長く片目は隠れていた。獣の耳がついていて、そのすぐ上には立派なツノが2本。そしてデカい図体、太い首や手足にたくましい胸板は、おそらく戦う男子達の羨望の的になるだろう。
……はい詰んだ。俺は完全にこいつに勝てる気がしないね。俺はどうしたらいいのかしら。
首には綺麗な羽の首飾りをしていた。たくましい上半身はそのままで、膝までのゆるいハーフパンツのみを履いている。人間と同じように2足歩行で、手も足も指が5本ずつ。俺と一緒だ。そんなヤツが、さっきから恥ずかしそうにこちらを伺っている。だからやめてって！ 怖いから！ちびっちゃうから！
短い失神から目覚めた俺は、目の前の魔物改め牛男を観察しながら、淹れてもらったお茶をすする。お茶を淹れる手がブルブル震えてテーブル中にお茶がこぼれているのは見なかった事にしてあげるんだ。俺大人だからね。……ああもう、このお茶美味しい。いっそ悲しくなるほどに。問題の牛男さんはさっきからモジモジしてるばかりで何も話してこない。お茶を飲んで少し落ち着いた俺は、話しかける事にした。
「お、俺の名前は翔太です。人間で勇者やってます。よく状況が分からないんですけど……今は一体どういう……？」
相手に水を差し向ける。よく見たら牛男さんめっちゃまつ毛長い。あれか。牛だからか。
「……私の名前はカレタカ。"守る者"という意味だ。えーー、しょ、……しょしょ、しょうた、殿……においては、ますます御健勝の事とお慶び申し上、げ……」
そういうと牛男——カレタカさんと言ったか。ポーっと蒸気機関車ように湯気を出した。だからね、何だよその反応は！
もういいもんね。この際聞いちゃう。だって俺勇者だもん。俺は意を決してカレタカさんをキッと睨みつける。
「ねぇ、カレタカさんって。……俺の事もしかして好きだったり、します？ 」
すると当の彼は、頭を抱え込みズルズルとテーブルに崩れ落ちた。お？ 今だったらコイツやれそうな気がする。やるか？ やるか？
「…………だった。」
何かボソボソと声が聞こえてきた。基本ビビリな俺は、急に殺意を抱かれたんじゃないかと思い、身をすくめる。
「……夢、だった。しょ、しょしょた殿のような人間に会う事が……」
はい、何やら回想が始まる雰囲気ですが、俺はショタではなく立派な成人男性ですよ。
「ずっと小さい頃から、夢見てた。この世には存在しないと言われる、高貴な黒目黒髪の人間。特にその神秘的な瞳は黒い宝石の如く。肌はきめ細かく象牙色。小さく幼い顔立ちで、手先がとても器用。魔法も何も使えない、とても弱く儚い生き物。……会ってみたかったんだ。それが今、私の目の前に、ちゃんといる。私はどうしたらいいんだ……」
俺の方こそどうしたらいいんですか。握手でもしてあげればいいんですか。ダメだ、あの図体でやられたら俺の右手は木っ端微塵だ。
その後も、ポツポツと語るカレタカさんの話を総合すると以下のようになった。
この世界には、人間界と魔界の良好関係を結ぶべく、古えよりある約束が存在した。その約束とは、人間と魔族の婚姻である。勢力的には魔界側が圧倒的に強く、人間側は歯が立たない。ところが魔界的には人間界は辺境の地であり、侵略した所であまり旨味はない。それどころか内部の自然保護団体や歴史研究家達は、人間界侵略に否定的だ。そこで魔界側がある提案をしてきた。実は魔族の中には一部変わり者が存在するのだ。人間愛好家である。何故か権力者に多い。提案とは侵略をしない代わりに、魔族へ嫁ぐ人間を差し出す事であった。ちなみに後で知った事だが、人間界側ではこの婚姻は面子に関わる為、極々秘密裏に行われていたらしい。人間側の婚姻相手は、主に王位継承権から離れた姫君若君が選ばれていた。外国留学と名を変えて。
今回の婚姻で魔族側がカレタカ、お相手は王家の第3王女だったのだが、彼は少しばかり我儘を言った。
「黒目黒髪の人間。若くていきが良い奴。婚姻はそいつじゃなきゃ嫌だ。さもなければ、そちらが古えの条約を反故したと見なす。全面戦争も厭わない」
権力を笠にした期待とハッタリと本音だ。それを聞いた第3王女が感動した。
「なんて素敵な殿方でしょう。愛に生きるそのお姿、私感動致しました。カレタカ様、どうぞその愛を貫ぬいてくださまし。魔界との全面戦争になれば、結果は目に見えています。それを避ける為に何としてでも、我が国はそのお方を連れて来るでしょう。ささ、姫にこっそりお教えください。お好みのタイプは男子ですの？ それとも女子？ 」
「えっと、」
「なんと男子ですのね！ ええ、ええ、姫はわかっておりますとも。男同士の禁断の愛。そこにシビれる憧れるぅですわね。お任せくださいな、姫はそういう愛に理解がありますの。 肩身の狭い思いはなさらなくて結構よ！ 」
「いや、あの……」
「こうしては入られません。大臣、 大臣はどこですの！ 至急ここにお呼びして！」
そうこうしてる間に茶番は整った。恐るべきスピードで戦略を練る姫。カレタカさんの理想——姫のゴリ押し相手を召喚する魔方陣。国のごく一部、それも王家と幾人かの人間だけが知る事実だったらしい。国の沽券に関わる為、真実は巧妙に隠される。一見魔物に攫われた姫を助ける勇者の英雄譚だが、本当は姫の立会いのもと、カレタカさんに届けらる勇者という名の花嫁。 あの様子じゃハーレムちゃん達ちょっと知ってたんじゃないか？ なんてこった。
つまりだ。
「あの、じゃあ。カレタカさんて、俺と結婚……したいんですか？ 」
恐る恐る聞いてみる。嫁殿と言われた時からもしやとは思っていたが。カレタカさんはまたまた顔から湯気をポポーっと吹き出し、こくんと頷いた。
「……お、俺、男ですよ？」
またこくんと頷くカレタカさん。
「……俺、女の子が好きなんですけど」
またまたこくんと頷くカレタカさん。
湯気を出しながらも、彼はしっかり断言した。声には強い意志がうかがえる。
「……結婚してくれなきゃ、戦争する」
それ何て脅しだよ！
「しょ、……しょうや殿は世界を守る勇者なのだろう？ 世界の平和を守るには、私と、……け、けけ結婚するしかないのだ！」
何でだよ！どうしてそうなるんだよ！魔王と結婚して世界を平和に導いたハートフルな冒険譚とか聞いた事ねえよっ！さらに言うなら俺は定食チェーン店じゃない。
「いやいやいや、ちょっと待ってください！ 俺、女の子がめっちゃ好きなんです。カレタカさんもそうでしょ？ こんなむさい男より、可愛い女の子がいいでしょう？」
「わ、私はお主のような人ならオスでもメスでも構わないと思っていた。いるかも分からない人種だ。いなかったら、前言撤回して大人しく王女と結婚するつもりだった。……でも、しょ…しょうら殿はズルい。お主は俺の理想そのものなんだ。見た瞬間から心奪われてしまった。オスとかメスとかじゃなくて、しょうろ殿が良いんだ……」
一瞬「しょうら」とか「しょうろ」とか聞こえたがまあスルーしよう。いや、我慢できない。松露ってなんだよ。キノコかよ。
俺はこのかたモテた覚えがない。それこそハーレムちゃん達がちやほやしてくれるのが嬉しくてしょうがなかった。頭の中は常春だ。こんなむさい筋骨隆々牛男より柔らかくて可愛らしい女の子がいいに決まっている。何が悲しゅうてオスから求婚されにゃならんのだ。
そこで俺はふと自分の特殊能力について思い出した。当時俺をウルトラハッピーにしてくれたそれは、今、俺を奈落の外に叩きつける。その能力の名は……「魅了」。
強烈な一目惚れのような惚れ方。こんな冴えない平凡リーマンに対してあり得ない熱意。さらに男でも良いと言っている常軌を逸脱した暴走。
まーさーかー？
その時、外から声が聞こえた。
「姫様、はしたうのございます！ 」
「これが見られずにおりますか。良いこと、愛とは真に尊いものなのですよ。最初に敵として対峙した2人は、いつの頃からか互いを意識し始めますの。でも中々素直になれない。互いの立場と性別が、2人の恋路を邪魔しますのよ。しかし、1度火がついた想いは簡単には消せやしない！ 2人は葛藤しながら徐々に距離を縮めて……ああ、尊い、とおといですわぁ！」
おうふ。腐女子姫様、居たのね。
◇
かくして、カオスを極める同棲生活が始まった。結婚を迫る大迫力牛男、男2人の絡みを期待して頻繁に遊びにくる第3王女、そして他に道がなく、なし崩しにカレタカさんと一緒に暮らす事になった俺。だって何処にも行くところ無いんだよ。近くの村まで3日なんだよ。サバイバルなんてどんな無理ゲー。姫様、あんたはどうやって入り浸ってるんだ……
「 ……どうしてこうなったぁっ！！ 」
俺の心からの嘆きは、鬱蒼とした森の中へ木霊し、そして虚しく消えていったのだった。
おまけ
「翔太殿、今夜はお主が言っていた『オムライス』というやつを作ってみた。どうだ味は」
「……( 何これ超美味しい )……」
翔太 : カレタカさんの料理が美味すぎてツラい。
カレ : 翔太殿ってちゃんと呼べた！
こんにちは、作者の猫の玉三郎です。初のBL風味な作品となりました。
恋愛の醍醐味といえば、あの両想いになる前のドキドキわくわく！ 恋は障害があればある程、その盛り上がりは素晴らしいものになります。BL・GLというのは、同性というハンディキャップが最初からあるからこそ面白い。なので簡単にくっついてもらっちゃ困ります！ 笑
短編の形をとっていますが、続きを見たい人がいらっしゃるなら少しずつ書いていこうかと思います。ご観覧、ありがとうございました(σ´∀`)σ
