prologue
かなりお久しぶりの投稿です。
だいぶ多めですが、お付き合いいただきたいと思います。
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護摩を焚く匂い。濛濛と立ち上がる煙の先に、人が見える。
――ああ、今日も顔は見えない。
一体誰なのだろう、私に額ずくあの人は。
一体誰なのだろう、私に縋りつくこの人は。
見知らぬ顔のその人たちは、揃いの装束、揃いの言葉。
「おお、大巫女様……! どうぞ我らにお教えください」
「光に満ちた未来を、お指し示しください!」
決まり文句を唱え、彼らは必死で祈りを捧ぐ。
御簾の向こう。一段高いその場所で、彼女は彼らを憐れんだ。
「宇宙の意思に、従いなさい。大巫女様の言の葉に、従いなさい。さすれば道が開かれよう!」
そして少女の横で禿頭の老人が叫んだ。同時に起きた大気が震えるほどの怒号に、少女はふるりと睫毛を震わせた。
――どうして……
どうしてこうなった。
少女の前には百を超える白装束の集団。横に侍るは黒服の男。ただ黙って唇を噛みしめ、じっと何かに耐えている。
護摩の煙が目に染みる。祈りの文句が耳鳴りのように五月蠅い。
御簾越しでも見える、人、人、人、人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人――人の、人生。
俯いた目に、しゃらりと簪の涼やかな輝きがちらつく。
少女は静かに涙を流した。