プロローグ
やたらカオス展開の目立つ作品です。
汗臭い話や格闘話が苦手な方は、極力関わらない方が身の為です。
カッカッカッカッ……。
古典教師の、目にも留まらぬ速度で黒板を書くという荒技は、しかし授業終了と何ら因果関係を持たない。
(〜〜〜〜〜ッ! 早く終われクソ教師! あと三〇秒で授業が終わるだろ!)
苛ついた様子で机を指でトントンと叩いてリズムをとっているのは、真っ赤な髪をした長髪の少年だった。もはや黒板を写すつもりは更々ないと言わんばかりに、教科書やノートは机の中に仕舞われている。
赤髪の少年の名は大谷津三時。本日の昼食ごときに命を懸けているアホな登場人物である。
(まずいかにゃ〜まずいよにゃ〜まずいんだにゃ〜。購買のアレが売り切れちゃうにゃ〜)
トントンと、屋内用シューズで床と8ビートを刻んでいるのは、ベリィショートでオレンジの髪をした少年。彼もまた、授業を聞く気なんか到底ねぇよと言わんばかりに、教科書やノートは机の中だ。
オレンジ髪の少年の名は赤月昇。やはり彼も本日の昼食に命を懸けた一人だ。
(クッ、あと一〇秒……よりによって今日、古典教師を四時間目に回した学校を呪いますよ!)
カチカチとボールペンを出したり引っ込めたりしているのは、サラサラでストレートな茶色の髪をした少年だ。クラス委員長である彼は一応、体面の為に机の上に教科書やノートを出してはいるが、黒板を写す気はないらしい。
茶髪の少年の名は、真昼正午。例によって例の如し、昼食に命をかけている。
カッカッカッカッ。《キーンコーンカーンコーン……》
チャイムが鳴った。にも拘わらず、古典教師は未だに黒板を書いている。
カッカッカッカッ!《キーンコーンカーンコーン……》
書き終えた教師は満足げに頷きながら、教室を振り返る。が、それより早く椅子を鳴らして勢いよく立ち上がった正午は、
「起立気を付け礼!」
早口でまくし立て、呆然とする教師を余所に走り出した。三時や昇もほぼ同時にダッシュダッシュ。
こうして――、
ある購買商品を巡る昼食戦争の火蓋が、切って落とされた。