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陰陽ごっこ  作者: hima
第壱幕 出会いとマネキン
7/20

出会いとマネキン 漆「ある男の追想」

昔、この町の孤児院で僕と彼女は出会った。

事故で親を無くし、親戚をたらい回しにされた後にたどり着いた孤児院、最初は周りとよく馴染めなかったのを覚えている、

そりゃあ悲劇の主人公のような陰気な顔をしてろくに話さず心を閉ざし塞ぎこんでいる新参者の僕と馴染もうとする人なんているはずなかった、

その頃の僕だって親を突然亡くし、親戚に腫れ物を扱うような接し方しかされないまま幾多の家をたらい回しにされてしまいにはこんな孤児院に捨てられた自分を悲観し、

周りの楽しげに笑いあう孤児達が腹立たしかった。

その中の中心人物が彼女、

この中では一番の年長者でどうやら生まれてすぐの状態で孤児院の入り口に捨てられていたらしい、

二つくらい歳上の綺麗な人だった。


いきなり来た根暗な僕に対して、

物を隠したり無視したりと軽い苛めのような事がちらほらあった、

今思えばまだ精神が成長しきっていない子供主体のコミュニティだ、ましては皆心に大小傷がある子供ばかり、無理はない、

だがその時の僕は心底ひねくれていて周りは全員敵だと思っていたので思わずその首謀者達に殴りかかり、大喧嘩となってしまった、

子供相手に言っても仕方がないような世の中や親戚などへの恨み、怒りの言葉をぶつけながら拳を振り上げたとき、

彼女は走って僕達の間に入り込んで


「やめなさいっ」


と一喝して鋭い拳骨を双方に振り下ろした。


僕は何故苛めた奴らだけではなく自分まで殴られたのか納得できず彼女にまくし立てた。


「どーして僕まで殴られないといけないんだよっ、悪いのはあいつらじゃないか。」


「喧嘩両成敗よ。」


「いや、違うっ、こいつらだけ殴るのが嫌だったんだ、皆いきなり此処の生活に割り込んできた僕が邪魔なんだ、嫌いなんだ!どこか行ってしまえばいいと思ってるんだ!みんな仲良くへらへら笑って暮らしている癖に!!」


バシン、と頬をぶたれた、

じんじんと痺れる赤くなった頬を押さえ彼女の方へ目をやると、

いつも笑顔のあの顔が初めて見る表情になっている、

その涙を溜めながら睨み付ける表情を見て彼女がかなり怒っているのは容易に判断出来た。


「びいびい泣いて八つ当たりして、自分ばかり不幸みたいな顔ばかり、そんなのだから…そんなのだから仲間に入れてもらえないんだよ!。」


彼女の言葉に僕は何も言えなかった、

言葉が見つからず、悔しくて、寂しくて、情けなくて僕はその場から走り去った、

いや、逃げ去った。


孤児院の三階の奥の倉庫、そこが僕の内緒の場所だった、

辛い時や泣きたい時、僕はいつもそこへ行って泣いていたのだが、

その日も僕は彼女から逃げた後、そこで泣いていた、

いつの間にか窓から見える空も暗くて明るい星空になっている、

とても綺麗だ、天国に行った両親もあの輝く星になってしまったのだろうか、

そう思うと今まで溜め込んでいた気持ちが大粒の涙と共に流落ちてきた、


「お父さん…お母さん…どうして、どうして僕を一人にして死んじゃったんだよ…寂しいよ、僕もそっちへいきたいよ。」


溢れる悲しみをとめられないでいると入口が開く音がして彼女が入ってきた。


「ここにいたんだ…、探したんだよ?、さっきはごめん、言い過ぎちゃった。」


僕は涙と嗚咽が止まらず返事をしなかったが彼女は気にせず続けた。


「でも…あのこ達もそこまで悪気があった訳じゃあ無いと思うの、あの子達も君と同じような状況で此処に来た、本当は君の気持ち凄くわかってるはずなんだ、本当は君みたいに泣きたいんだよ?でも泣いたって何か変わるわけではない、だから皆は失ったものの分だけこれからを笑って、幸せになろうって頑張ってるの。

だから、私の事はどう思っても構わないから、皆の事をへらへら笑ってなんて言わないで、自分が邪魔だなんて思わないで、本当は皆君に笑ってほしいんだよ?仲良くなって欲しいんだよ…。」


彼女は一生懸命弁解をした、

だが僕には何の効果も無かった、

なぜならそんな事はとっくにわかっていたのだから、

皆が強く生きているのを弱い僕は受け入れられなかったんだ、

強く生きている皆が羨ましかっただけだったんだ…。


「…何で、あんたはどう思われても良いんだ?あんただってその一人じゃないか。」


「私は…両親の顔も、どんな人だったかも知らないから、失う辛さがわからないから…。」


悲しそうに微笑み答えた彼女を見て僕は下らない質問をしたことを後悔した、

そうだ、彼女はなにも知らない、

両親と手を繋いだ記憶も、両親と笑いあった記憶も、母の手料理の味、父の大きな体、家族で暮らす何気ない幸せな毎日…

僕はこの全ての記憶達が支えで生きていけているのに、

彼女は何も知らないんだ、

確かに失う辛さはわからないだろう、

でも僕達には失うものを知らない辛さなんて計り知れない、

僕達なんかよりずっと辛いのかもしれない、

なのに彼女は誰よりも強く誰よりも笑顔で生きている。

そう思うと急に僕はとてつもなく申し訳無くて情けなくなると同時に、自分も頑張らないといけない、

彼女を支えられるくらいもっと、

天国にいる両親に見えるくらいにもっともっと頑張ってみようと強く思った。


「……ごめん、ごめんなさい…、僕何も知らなくて…、僕…強くなりたい、頑張れるかな、強くなれるかな…。」


「うん!きっと!必ずなれるよ、一緒に頑張ろう。」


彼女はそう言って僕に手を伸ばした、

僕はその手をしっかり掴み立ち上がり右手を差し出す。


「仲直りの握手。明日皆に謝ろうと思うんだ、その…一緒に行ってくれないかな。」


いつの間にか二人とも大泣きしていたが、もちろん、と言って最後は太陽のような笑顔で強く握り返してくれた。

次の日、僕は彼女の協力もあって皆に謝った、皆は暖かく僕を迎え入れてくれた、

それからは友達も増えた、

歳も彼女の次くらいだったから年下にも頼られるようになり僕は少しずつ笑顔を取り戻していった。


時は流れ僕は中学に入った、

彼女は三年生だったが廊下などでは手を振って挨拶をしてくれた、

楽しい中学生活、彼女は受験などで忙しそうだったが毎日が楽しかった、

そんなある夏の日、

同級生の院の仲間から昼休みに突然呼び出され衝撃の出来事を聞かされた、

冷や汗が流れ、鼓動が速くなる…

いてもたってもいられずに僕は学校を抜け出した


当然だ、未だに信じられない、勘違いであってくれ


彼女が倒れて病院へ運ばれただなんて…


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