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陰陽ごっこ  作者: hima
第壱幕 出会いとマネキン
6/20

出会いとマネキン 陸

(待っていて下さい、あと少し、今宵、満月の夜になれば…)


なんだ?誰だろう、この悲しげな声は、

誰に話しかけているんだろう、俺?そんなはずはない、また幻聴か…

俺は今それどころじゃない、赤村を助けなくては、

赤村…………そうだ赤村はあの化け物に……


「赤村っ!!痛てっ、いででで!。」


「やっと起きたと思えばいきなり五月蝿いやつだな、俺様特製の応急処置のお陰で回復は早いはずだがまだ大人しくしてろ。」


ここは、病院?

そうか、俺はあの化け物にやられて気を失っていたようだ

包帯が巻いてある、まさか芦屋が?

気色悪いな、

きっと看護婦さんだ、白衣の天使様に違いない。


「いやいや、…赤村はっ!?あいつはどうなった!!助かったのか!!。」


「まだ助かってはいないが、今のところはまだ無事だろう、昨夜は雲で星も月も出ていなかった、その状態で俺様からの攻撃、奴に今日お嬢ちゃんを殺る体力は無いはずだ。」


妖の類は星や月が出ている時、それも満月の夜に活発になるらしい、

とりあえず無事か、確証が無いだけに安心は出来ない、

外はもう闇が薄れ、空には日の光が紫を孕みながら白けて行こうとしている、

夜までに何とかして捜し出さないと、

俺が焦っているのを見透かしてか、芦屋は面倒臭そうに口を出した


「まあ落ち着け、焦っても何も変わらねえ、お前はただでさえお荷物なのに怪我して更にお荷物になってんだ、こんな時は冷静に頭働かせろ。」


「冷静でなんか居られるか!!こうしてる時でも赤村は危険に晒されてるんだぞ。」


「じゃあがむしゃらに動いて何か見つかる保証はあるのか?その時お前に何か出来る事はあるのか?それこそ時間の無駄だろうが。」


珍しく正論を言いやがって、

確かにそうだがこんな状態じゃ居ても立っても居られない、

かと言って反論も無い、

全部、俺が無力だからいけないんだ、俺には何も出来ない。


「そう気を落とすな、ヒントならある。」


芦屋はいつもの調子で笑うが俺にはピンと来ない、

ヒント?昨日の短い時間に何かあったのか?

いつもの推理ゲームだろうか、

そうか、こいつ些細な事にも敏感に反応して良い推理をする時があるもんな、


「ほう、流石だな、何か気付いたり閃いたりでもしたのか?。」


期待に固唾を飲み、次の言葉を待つ俺の方へ芦屋はゆっくり指を指し、

自信満々な表情で口を開いた。


「いや、昨日からお前の後ろに憑いている女にお前が直接話を聞くのさ!!。」


…へえ、なにそれ、

見直した俺が馬鹿だった。


「俺に憑いているのかよ!?何でだよ、というか何で俺が聞くんだ?お前がはっきり見えているんだからお前が聞けば良いじゃないか。」


「お前は憑きやすい体質だからな、俺様には見えるが思考を多少感じる事しか出来ねえから全てはわからん、しかし霊は頼りたいが為に憑くんだ、お前が憑かれたんなら女の霊に頼られたのはお前だ、だからお前が聞くのが筋だろうが、しかも"憑かれる"という状態は思考がリンクしているって事だ、だから女の記憶、感情がある程度わかる、会話も成功しやすいはず。」


なるほど、俺の体質を逆手に取るということか、

しかしどうすればいいんだ?見えない相手にコミュニケーションを取るなんて至難の業なんじゃないの?


(ごめんなさい、ごめんなさい、愛しい人…)


聞こえた…ごめんなさい?愛しい人?さっぱりわからん、何が言いたいんだ

さっきから耳鳴りがする、どうしたんだ、

これがリンクって事なんだろうか、

自分と女の人の意識が重なる、

走馬灯の様に見える

女の人の記憶だろうか、頭にイメージが流れ込んでくる…


楽しそうな三人組

男の人が二人、女の人が一人、この女の人が俺に憑いている人なのだろう、

二人の片側と恋仲だったのか、凄く親しげだ、

時は過ぎる……どうしたんだ、泣いている、悲しい、どうして…何故か二人は離れ離れになってしまった、

でも女の人は待った、二人が満月の夜、最後に会った駅前のベンチで毎日、毎日、雨の日も風の日も…自分が倒れた日までも…

病院だ…自分はたくさんの管に繋がれている、

今日もお見舞いに来てくれたもう一人の男の人はいつも応援してくれる、助けてくれる、支えてくれる

この日だって男の人は可愛い可愛い手作りのお人形をくれたんだ

でも少しずつ体は冷たくなって行く、男の人が涙を長しながら何かを言っている、

もう視界がぼやけて何も見えない、

でも男の人が強く、強く手を握ってくれている、

握り返す力も残っていない、でも嬉しかったよ、

ありがとう、ありがとう、ごめんなさい、ごめんなさい、最後まで貴方の気持ちに気付かないふりをして…



そこでイメージは途切れた、悲しい結末だ、

だがここで俺は何をすればいいんだ。当然俺にはわからないので芦屋に今体験したイメージの説明をしてみた、

うんうんと、芦屋は暫く考えた後に二つの提案をした。


「まず一つ、途中で別れた男を探す、二つ、最後に一緒にいた男を探す、どうする?。」


なにいってんのこいつ、馬鹿なのかな、結局何もわかってないじゃないか、

どうやって探すつもりなんだよ、


「はあ、何かあてでもあんのかよ?短絡過ぎるだろ、せめて手作りの人形を渡してたんだから人形を作れる工房やら人形屋に絞るべきだろ。」


「なっ…犬のくせになかなか鋭い事を言うじゃねえか、ほ、褒めてやるよ。」


声裏返ってんじゃん、俺に指摘された事にショック受けすぎだろ、どんだけ俺を見下してるんだよ。

俺が芦屋を馬鹿にしようと口を開きかけた時、病室の外が騒がしいのに気が付いた。

看護婦と患者が揉めている


「頼む、行かせてくれ!もうすぐなんだ、きっと帰ってくるんだ!。」


「駄目です!昨日意識を戻したばかりなんですから安静にしてないと!。」


「約束を守らせてあげないといけないんだ、約束を守らせてみせるって約束したんだ!。」


芦屋は舌打ちすると廊下に出て一喝した


「うるせぇ!病院じゃ静かにしろって教えられなかったのかコラァ!。」


いや、お前も五月蝿いよ、自分は何してもいいのか、

ん?……あの顔は、


「芦屋っ、その男の人…間違いない!さっき言ってた人だ!!人形の人だっ!。」


俺が叫ぶと芦屋より先に男の人が先に反応した。


「人形?何で知っているんだ!?君!何か知ってい…グッ……。」


偶然出会った重要参考人は俺の目の前で胸を押さえると苦しそうに音をたてその場に倒れた…



男の人が倒れてから芦屋はもう少し情報を集めると言って出掛けていった、

俺は傷が良くなるまで休んでいろと言われた、

赤村が誘拐されたことをあいつなりに責任を感じているらしい、

俺に巻かれた包帯も本当に芦屋の特製だったらしい、

巻いているだけで効果はあるらしいのだが

看護婦さんには傷だらけといってもほぼ痣なのになんで包帯巻いてるのと言われ恥ずかしい思いもした、

芦屋め、珍しい事もあるもんだ

することもないので傷を早く治すため仮眠を取ることにした。


「おい、起きろ、オッサンが目を覚ましたぞ。」


頬をビンタされた、普通の起こしかたを知らないのかこいつは、

でも事態は急を急ぐ、男の人が倒れてからもう六時間ほどは経っている、

そろそろ有力な情報を聞き出して動き出さなければ赤村が…

まだ少し節々が痛む身体を引きずり男の人の病室へ向かった。


病室へ入ると待ってたというように初老の男は口を開いた


「君達か…聞かせてくれ、何故人形の事をしっているんだ?。」


どうしよう、本当の事を話してもきっと信じて貰えないだろう、

しかも今の状況なんてもっての他だ、

マネキンが人を襲うなんて普通の考えでは到底理解出来るはずもない、と俺が話あぐねていると驚いた事に横にいた芦屋はペラペラと全部丸ごと話してしまった、

うん、本当に驚いた。


「君達、僕を馬鹿にしているのか?。」


「馬鹿になんかしてねえ、そっちこそ馬鹿みたいな事を真剣に話したのに信じられないってのかい?。」


芦屋は得意の凄味を効かせた、

少し沈黙のあと男の人は少し笑いながら答えた


「そうだな、そんな真剣な顔で冗談をいうはずないか、ましては誰にも話していないそのマネキンとやらまで知っているんだからな。」


「やっぱり、何か知っているんですか?教えてください、友達が危ないんです。」


「彼女は…まだ君の後ろにいるのかい?そうかそうか、居るんだったら少し恥ずかしいなあ、でも彼女にはちゃんと謝らなければ、だから聞いてくれ、僕の果たせなかった約束の話を。」


蝉時雨の聞こえる病室の窓から見える青い景色を眺めながら、

男の人はゆっくり、ゆっくりと語り始めた、幸せな三人を悲運が別つ物語を…




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