出会いとマネキン 肆
「はあ?マネキン?お前の脳ミソか?」
「ちがう、俺の脳は作り物のスッカスカじゃあない。」
人の相談をいきなり暴言で返す自称、天才陰陽師の芦屋 龍治、
陰陽師と言ってもこいつがアニメや映画のように格好いい式神などを召喚したりなど、
陰陽師らしい事をしたのを見たことは無いので一応助手として働いている俺ですら眉唾物だ、
口の中で毒舌を従え、そこから暴言を召喚する所はこいつと出会って1ヶ月経とうとしているが数えられない程はあるのだが。
「そんな話腐るほど溢れかえってんじゃねえか、そんな餓鬼共の噂、金だけ貰って適当に調査するふりして後はポイっ、に限るぜ。」
こいつ、俺が赤村に言った予想通りの事を言いやがった、
案外単純なんじゃないか?
「あんた仮にも陰陽師だろ?そんな怪奇現象とかの話は十八番なんじゃないのか?。」
陰陽師はこんなちんけなプレハブだかコンテナかわからないような事務所を構えるとは思えないしな、
こんな店構えで客が来ると思ってんのかよ。
「仮にもってなんだよ、俺様から言わせればこの浮き世に怪奇や不可解なんて存在しないんだよ、町に蔓延る奇談、怪談なんてのは全く奇しくも怪しくもない、自然の理をもってすれば不可解も解釈可能なのさ。」
何処で買ってきたのか、リクライニング付き社長椅子に深くもたれかかりながら机に足をのせ、
芦屋はそう言って煙草をふかし、
長めの黒髪を後ろで束ねた
「そんなこと言ったら陰陽師なんて成り立たないだろ、不可解な事を治めるのが陰陽師の仕事なんじゃないのか?。」
「ふぅ、お前は陰陽師を何だと思ってんだ、どうせ馬鹿なお前は派手に式神とかを使役して悪い奴を倒す!みたいな、小学生が考えるような幼稚なイメージしか出来ないんだろ?これだから二酸化炭素しか吐き出せない愚直なお前は困る。」
まさにその通り、ぐうの音も出ない、え?俺って小学生レベルなの?
最後に至ってはただ俺を蔑みたいだけだろ、
皆二酸化炭素しか吐き出せないだろ!人間やめろってか。
「陰陽師ってのは自然と調和が基本的な目的だ、人であれ妖の類であれ、全ては自然が生み出したもの、人の持つ思想も元を辿ればそこだ、超自然現象や超常現象もただ"超"自然なだけで"超"常識なだけなんだよ、今では自然を受け入れずに全て科学や技術で何とかしようとする、森羅万象全てが自然なんだ、それを科学や技術で数式化するなんぞ愚の骨頂、そら陰陽師も減るわ。」
少し苛つきを表に出しながら芦屋は呟いた、
こいつも陰陽師なりに色々あったのかな?半信半疑だけど。
「つまり俺達の言う怪奇現象や怪談は霊的なものも合わせて自然、つまり普段気付かないだけで普通に有るものってことなのか?でもさ、それでも人を傷付けたり命を奪うのは違うんじゃないのか?。」
そうだ、人を傷付けていい理由なんてない、
実際に行方不明だって起きている。
「うるせえな、死ねよ、何もしないとは言ってないだろ、死ねよ、その行為に悪意があるんなら人として止めておかないといけない、死ね、だがまだ妖と決まった訳じゃあない、死ね、もしかしたら人間の仕業だって可能性があるしむしろその方が有り得る、死んでください、もしそうだったらそりゃ警察の出る幕であって陰陽師の出る幕では無いだろ。」
「なにサブリミナルみたいに文間に死ねを混ぜてんだよ、お前の悪意ある言動を人として止めろ、…でも言う通りではあるな。」
「死んでください、がか?。」
「違うわ、犯人は普通に考えて人間の可能性が大だ、だったらこんな奴に頼むより警察に頼んだ方が得策だよな、でもその警察も進展無しとなると…。」
バコッ
殴られた、久々に殴られた、
地味に重いやつ、痛いやつ、
芦屋はチッと舌打ちをすると不機嫌そうに緩んだネクタイを締め直して言った。
「言わせておけば勝手な事をべらべらと、誰がこんな奴だあぁっ?俺様は天才陰陽師、芦屋 龍治様だぞ?そこら国の犬共より有能って所を見せてやるよ、…調査、行くか。」
やっぱりこいつ単純だった、
簡単に挑発に乗りやがった、
言い草からこいつ単に警察があまり好きでは無いんじゃないかという推測も浮かんだがそこは良しとしよう、
これで赤村との約束は果たした事になる。
「ふっふっふ、あんたの実力、しかと見せてもらうぞ!…てあれ?もしかして俺も行くのっ!?。」
「あったりめえだ、俺様の下僕兼飼い犬なんだからついてくるに決まってんだろ。」
聞いてない聞いてない、面倒臭い面倒臭い。
「もう助手ですら無いじゃないか!完璧に人間扱いしてないし、まずこんな危なげな事件に高校生巻き込むとはどういう事だ!。」
まったく常識がないというかなんというか、外は夕陽がかなり沈み、
残り1割程を残す程度、
既に暗い夜の闇が空の大部分を侵食していると言うのに。
そういえば本当な依頼主、
赤村はもう家についたのだろうか、
人に依頼しておいて自分は外出とはなかなかの矛盾、
それじゃあ自分を危険に晒す行為と言っても過言では無い。
「何寝ぼけた事言ってんだ、寝るにはまだ早えよ、警察犬が100だとしたらお前は2くらいだから飼い犬ってことにしたんだよ、因みに本物の飼い犬は5だけどな。」
「なんで警察犬と98も差があるんだよ、別に勝ってるとは思わないけれどその差は納得出来ない、というかまず飼い犬にすら3つ差でしかも負けてるじゃねえかぁぁ!!。」