死人と獣 陸
静まり返り暗闇に染まった町を二筋のヘッドライトが駆ける、
人通りの少なくなった道の上を病院へ向かうタクシーの中、
芦屋と俺は事件の整理をしていた。
「で、お前は今回の事件の真相をある程度わかっているみたいだが、そろそろ俺に説明してくれてもいいんじゃないか?。」
「本当にお前は俺様に頼りきりだな、たまにはその少ない自分の脳味噌で考えたらどうなんだ?。」
重度の方向音痴の癖によく言うぜ、
とは言わないでおこう、
機嫌を損ねて話さなくなるかもしれないし。
「ん?なんだその顔、俺様が方向音痴なのがそんなにおもしろいか?迷子の子猫みたいで可愛いだろうが。」
なんだそれ気持ち悪い、
あえて言わないでやったのに自分で言い出しやがった、
似合わないからやめてほしい。
「まあ、それは置いておいてだ、勿体ぶらないで教えてくれ、あれの正体を、それになぜ俺に聞こえた声の内容に興味を示さなかったのかも気になる。」
「そりゃああらかためぼしがついている事のヒントが今更出てきても興味なんて沸かないだろ?それに俺様が重要としているのは結果であって過程ではない、奴の経緯なんて知った事じゃない。」
「て事は俺の聞いた声は実際誰なのかもわかってないという事か、完璧主義なお前がなんだか釈然としないが…。」
「今回も前回同様、実害が出ている、一刻を争う状態でいちいちそんな事を気にしている暇はない、まず解決を最優先して経緯はその後だ。」
なるほど、
確かに一理ある、
では次の最大で核心に迫る疑問奴の正体だ、
俺がその疑問を芦屋へぶつけようとした時、
芦屋は自分から話し出した。
「…猫だよ、さっき奴と対峙して核心に変わった、暗闇に光る目、これは動物特有の性質だ、次に爪、馬鹿なお前は気づかなかっただろうが俺様は奴と対峙した時しっかりと爪が出し入れ可能である所を確認した、最後に攻撃方法だ、罠や追い込み等で体力を奪っていく狩り方が犬科の動物の特長だとすれば、猫科は俊敏な短期決戦を仕掛け爪で先制を打つのが特長、この三つから敵は猫科の動物ということになる、狐の可能性も考えたが狐になると強めの神通力がおまけでついてくる筈、そんな素振りを見せなかった所やはり猫という結論になるな。」
「猫…じゃあ爺さんの体に猫の霊でも乗り移っているって事か?。」
「少し違うな乗り移っているのではなくて、操られているんだ、恐らく何処かに本体が居るんだろう、知っているか?昔から猫が死人を跨ぐと死体が踊り出すと言われている、猫又、化け猫、金華猫、生きた年月、怨みの強さによってランクは様々だが皆葬式で死体を拐うだの操るだの、時によっては呪い殺す事もある、今回もそのケースの一つだな。」
芦屋が誇らしげに自分の知識を披露し終るとちょうどタクシーはビジョンで見た病院へと到着した。
「さて、案の定入り口の鍵が閉まってるがどうする?。」
「下手に入ろうとしたら大事になりかねないからな、お前みたいな足手まといがいるとリスク二倍だ。」
病院の入り口で下らない作戦会議をしていると遠くで女の人の悲鳴が静寂を切り裂いた。
俺と芦屋は一瞬顔を見合わせると無言で声の方向へ走り出した。