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陰陽ごっこ  作者: hima
第壱幕 出会いとマネキン
12/20

出会いとマネキン 後日余話

九十九神事件の後日、生徒たちの噂話で賑わう教室の中で惰眠を心から満喫している所に、

赤村から芦屋に是非改めてお礼がしたいと言われた、


「ほら、やっぱり私の命の恩人になるわけだし、いや、虎ちゃんももちろん恩人だよ?でもあの日だって結局芦屋さん私達より遅く帰ってきたからろくに話もしてないしさ。」


「んあ?いいんじゃないの?お礼を言ったってどうせ嫌みを言われるか金を要求されるだけだし、良いことなんてないぞ?。」


俺はそう言って赤村をあしらった、

別に睡眠という数少ない俺の至福の時間を赤村に邪魔されたからという訳ではない、

いや、それも少し、本当に少しだけあったのだけど…


俺だって芦屋に聞きたい事が幾つか残っている、

だが肝心の芦屋から連絡がとれないのだ、

あの事件の翌日は一日中寝ていたし、

いや、一日中というのは例えや比喩ではなく本当に一日中寝ていた、

昼に事務所について夜中の十一時頃まで居たが結局起きる事は無かった、

ちょっぴりこいつ死んでるんじゃないかと思ったくらいだ、

次の日にまた事務所へ向かい、

顔はまだ眠そうだったが起きていたので雑用を少しした後、

九十九神のイメージでの出来事を話すとまた本やらを調べ出し、

気が散るからと追い出されて今日に至る。


「じゃあ一つお願い、今日の放課後一緒に芦屋さんの所に行ってくれないかな。」


「何言ってんだ?俺はどうせ芦屋の所でバイト…。」


危ないっ、そうだった、

赤村は俺が芦屋の所でバイトをしている事をしらなかったんだった、

俺があんな奴の下で働いているなんて知られたくない、

確かに今回の件で見直した部分もあるが基本はやはり毒舌ぐうたら野郎だしな。


「ああ、そうだったね、虎ちゃん芦屋さんの所でバイトしてたんだったね!じゃあわざわざ頼まなくても良かったのよね。」


うんバレてる、え?なんで知ってんの?

俺言ったっけ?


「あぁうん、そうそうバイトだからね、そう言えばそんな事も言ったっけ。」


「あはっ、そんな事言ってないよ、話聞いたり二人の関係見てたら大体分かるよお、だからかまかけてみただけ、ビンゴだねっ!。」


赤村は無邪気に笑った、いや無邪気とかじゃねえよ、

女って怖いよ…

こうして俺は赤村に芦屋の所でバイトをしている事がバレた上に今日二人で事務所へ向かう事が決定した。



終業のチャイムが響くグラウンドを背に学校を出た俺達は芦屋の事務所へ足を進めた、


「所で虎ちゃん、どんな経緯で芦屋さんと知り合ったの?普通に暮らしていたらなかなか関わりそうもない人なのに。」


「ああ、あいつとは神社で出会ったんだ、ほらあの丘の裏の…。」


俺はあの神社での出来事とあいつの下でバイトをする事になった流れを少しフィクションを織り混ぜながら説明した、

正直に話しても良かったが、

多少は俺の尊厳を守る必要が有ると勝手に意地を張ってしまった。


「そっかそっか、それは大変だったね、そんな事より、虎ちゃん誰か気になる人でもいるのかな?。」


突然の質問に俺は言葉を失ってしまった、

何を言い出すんだこいつは、

ここが人通りの無い道でよかった、

誰かが聞いて勘違いしたらどうするんだよ。


「ん?何か勘違いしてない?、虎ちゃんが御詣りした神社、基本は恋愛を司る稲荷神社なんだよ?だから誰か気になる人との縁結びをお願いしてたのかなって思っただけだよ?昔は有名な所だったみたい。」


「え?そうだったのか、知らなかった、俺はただの気分転換だったしな、まあ確かに威厳みたいなものはあったな、稲荷神社だということも気がつかなかったけど。」


そんな下らない話をしているうちに俺達は芦屋のボロ事務所にたどり着いた。


「最初はびっくりしたなあ、事務所って言うからある程度大きな所を想像してたんだけど、意外とさっぱりしてるんだもん。」


「ただボロいだけだろ?正直知らない人から見たら胡散臭い事この上無いよな、さあ芦屋のやつ今日は起きてるかな。」


がらがらと無用心極まりない入口を開けると芦屋はいつも通り、

ぐうたらしていた。


「なんだお前かよ、ん?お嬢ちゃんも一緒か、どうした、助けてもらったお礼に金でも持ってきたのか?。」


相変わらず金の事ばかりの自称天才陰陽師は横目でこちらを伺った、

出会い口でいきなり高校生に金の話とはとんだ天災陰陽師だな、

災難にでも見舞われればいいのに。


「えっと…すみませんお金は持ってないんですけどお礼だけでもしたくて。」


「お礼じゃ腹は膨れねえよ、こっちは腹減ってんだ、二日連続で式神使ったもんだから体力が足りないんだよ、金無かったら食い物持ってきてくれよ。」


そう言って芦屋はまた事務所の天井へ視線を戻した、

どうやら今日も機嫌が悪いらしい、

面倒くさい男だ。


「所で芦屋、調べものは終わったのか?俺の話を聞いた後急に真面目な顔になっていたけど、何か重大な事だったのか気になっていたんだ。」


慣れない扱いに少しへこみ気味の赤村をよそに俺は自分の疑問をぶつける。


「調べてみたんだがやはり今の状態では手がかりが少なすぎだ、やはり黒い着物の男が俺様がこの町にきた理由に関わっているんだろうって予想しか出来ない。」


「芦屋がこの町にきた理由?。」


気怠そうに話す芦屋の言葉に俺は興味を引かれた、

この男がこの町に現れた訳とは…


「そりゃそうだろ、なんで俺様がこんな田舎町にわざわざ来てやらないといけないんだ、俺様がここに来たのにはちゃんと理由がある。」


「なんだよ、勿体ぶってないで言えよ。」


芦屋はにやりと笑い地面を指差した。


「この町のバランスさ、基本人の住む場所、つまり町には陰と陽という二つの顔がある、光と闇がバランスよく存在する事によって人里は生かされ暮らしていけるんだ、そしてそのバランスを保ちどちらにも偏らせない為に作られるのが、仏閣、神社などになる、最初にお前を神社巡りに案内させたのもそれをチェックするためだ、しかしバランスが崩れているにも関わらずこの町の仏閣には表だった異変が見つからない、という事で上の奴らから調査、復旧の依頼が来たって訳だ。」


こいつそんな事情があったのか、

というかこんな性格の悪いちゃらちゃらした男に依頼するような上の人達が居ることにも驚きだ。


「でも表だった異変が無いのに何故気付いたんだ?それにバランスが崩れて具体的に起こる問題ってあるのか?。」


「ああだこうだ説明させんじゃねえよ面倒臭い、じゃあ簡単な具体例を説明してやる、先日の九十九神だが、九十九神ってのは元々は長く使われた物に宿るんだ、どんなに心を込めても一日やそこらで宿る事なんて無いんだよ、本来ならな、しかし陰と陽のバランスが陰に傾いてるせいでそれが実現してしまった…そして一番危惧している事…それはその状態を煽り、陰陽のバランスを完璧に陰の方へ傾かせようとする存在が出てくる事だ、おそらく例の黒い着物の男が該当している、そいつが居る限り今回のようなイレギュラーが多発することが予想されるな。もしくは…そいつが全ての真っ黒な黒幕なのかもしれない。」


眉をひそめると芦屋は少し間をおいて続けた。


「原因を突き止め、粛正した後に均衡をもとに戻し結界を補強するのが今回の任務だ、それが出来ないとこの町は最悪滅ぶかもな。」


なんだか話が大きすぎてピンと来ないが、こののどかな田舎町は今密かに大変な事になっている事は浅学な俺でも理解は出来た、

とりあえず今は怪関連の事件を早めに発見し鎮めつつ、

黒着物の正体を突き止める事が優先事項という訳か、

しかしあの黒着物…

確実に只者ではなかった、

人間なのか、怪なのか、もしくはどちらでも無い何かなのかも知れない、

ただ言い知れない何かを感じた。


俺なんかが考えても何の足しにもならない難しく、専門的な問題に頭を悩ませている時、

ふと横を向いた、

俺の横には漫画やアニメであればきっと頭に?マークが沢山浮かんでいる描写で描かれているであろう顔をした赤村が完全に空気になっていた。


話題に完璧な置いてきぼりを喰らった赤村を不憫に思ったので俺は機嫌の悪い雇い主に許可を取り、

今日は赤村を連れて帰路につくことにした。


「まだ整理がついてないや、ちょっと現実離れし過ぎてるし…私なんかが聞いていい話だったのかな。」


赤村を家へ送っている時、赤村はぽつりとそう呟いた。


「俺だって同じさ、でも先日の事件で赤村も俺も巻き込まれてしまった、危険はあるかもしれないが俺だってこの町を守る一人になりたい。」


「そだね!虎ちゃんはしっかりこのバイト頑張らないとね、そんなことよりこの町が今そんな事になっているなんて…」


赤村は夕暮れに染まる町並みを眺めた


「そんなことよりって言うな、というかどさくさ紛れに今日ずっと虎ちゃんて言っていたけど、その呼び方はやめろ。」


そんな普通の町でするような普通の会話を、

普通では無い町で交わし、

赤村を家に送り届けて家につく、何気ないいつも通りの生活を送り、

俺は今日を終えた。

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