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陰陽ごっこ  作者: hima
第壱幕 出会いとマネキン
11/20

出会いとマネキン 終

九十九神の意識が途切れ、

今に移る、

燃え上がる体を震わせ未だ空を見上げている、

そしてぽつりぽつりと言葉を紡いだ。


「ワタシハ、

タダアノヒトトイタカッタ、

ソノタメニスベテヲササゲタ、

デモケッキョク、

アノヒトハヨロコンデクレナカッタ、

サイショハニンゲンニナレバサイゴハヨロコンデクレルトオモッテイタ、

ケドチガウ、

アノヒトハキットヨロコンデクレナイ、

アノヒトノカナシソウナカオハモウミタクナイ、

ワタシガガンバレバガンバルホドアノヒトハキズツイテシマウ、

ゴメンナサイ、

ゴメンナサイ、

ワタシハタダアノヒトニワラッテホシカッタ…、

タダアノヒトニアイシテモライタカッタ…、

タダアノヒトトオナジニンゲンニナリタカッタ…、

ツメタイ、カタイカラダヲステテ、

ホントウノアイガホシカッタ…。」


先程まで赤い血の涙を流していたマネキンの瞳からはまるで人間のように透き通った涙が流れていた。


「ちゃんと…愛していたさ、僕は君を愛していたんだよ、彼女の影を重ね、僕の全てを注いだ君を愛せない筈がないだろ?でも違うんだ、いくら本気で愛していても、君が他の人を傷付けるのは愛ではない…。」


未だ体は動かせずにいるおじさんは弱々しくも一言ずつ九十九神に伝えた。


二人が見つめあっている所にあの女の人の姿が映った、

おじさんは優しく微笑むとまた九十九神に視線を向け語りかけた。


「どうやら迎えが来たようだ、さあ、一緒に行こう、もう一人にはさせないよ、ずっと一緒に居よう…。」


「ハイ、ヤット……ワラッテクレマシタネ。」


無表情のマネキンの顔がそう言って一瞬人間のように笑った気がしたと思うと、

マネキンはぼろぼろと灰になり崩れてしまった、

おじさんも全てを見届けた後、静かに動かなくなった、

きっと九十九神は気付かなかっただけで、

実は本当の愛と言うものをもう手に入れていたのだろう。


「九十九神よ、お前はもう充分人間らしかったよ、本当の人間よりもな、化物はあんな綺麗な涙は流せねえ、あの世で幸せになりな。」


煙草に火をつけながら芦屋は柄にもない事を言った、

でもそれは俺も同感だ、

九十九神の心はもう人間そのものだっただろう、

人を求める所、

愛を求める所、

曲がりなりにも人のために何かをしようとする所、

既に手に入れている愛に気付かなかった不器用な所、

全部が人間そのものじゃないか、

最後に流した自身の炎に照らされキラキラと綺麗に光っていた涙がそれを物語っている気がした。


ふと空を見上げると星達が女の人とおじさん、そして九十九神が三人で手を繋いでいるように見えたそしてキラリと流れ星が一つ流れた。


「虎ちゃん!!。」


痛っ、本当に申し訳無いのだがちょっと良い話の雰囲気に酔って赤村の事を完璧に忘れていた、

赤村は俺に抱きつき泣いている

忘れてた事は黙っておこう。


「ごめんね心配かけて、怪我はない?大丈夫?本当にごめんなさいぃ。」


「なんで俺達の心配ばかりしてるんだよ、捕まってたのはお前だろ?。」


どんだけ良い奴なんだよ、自分の事はどうでも良いみたいな事を言いやがって。


「だってだって私のせいで皆が危ない目にあったんだしさぁ、申し訳無いよお。」


面倒くさ、もう疲れてくたくたなのに泣いている女の相手なんて勘弁してほしい所だ、

しかも今目の前でこんなにたくさんの事が起きたのに何でこいつはそこにふれないんだ?

心臓強すぎだろ、

あの女の人とおじさんにお裾分けしてあげたい位だ。

あ、これは流石に不謹慎か、失敬失敬。


「とにかく、もう時間も遅い、親に電話して今日は芦屋の事務所に泊まろう。あ、お前の携帯の充電きれてたな、ほら、貸してやるから。」


「そうだね、でも親には別に連絡しなくても良いから大丈夫、どうせ心配なんかしてないし。」


そんなそんな事ないだろ、親なんだから心配するわ!

と思ったが赤村がやたら拒否するのでそのままにしておく事にした、

この時にはまだ赤村の家の事なんかこれっぽっちも考えていなかった。


「勝手に決めてんじゃねえよ、なんで俺様がガキ二人の世話なんかしないといけないんだ?。」


不服そうに答える芦屋に、いつもの明るさを驚くべき事にもう取り戻した赤村は同級生に話し掛けるが如く話を続けた。


「良いじゃないですか、あ、遅くなりました、私赤村 雀です!よろしくお願いします!。」


あぁ、赤村もこういう時に人の話を聞かない人間だったな、

俺の周りは何でこんな人達ばかりなんだろう。

俺がちょっぴり悲観的になっていると、


「ったく、わかったわかった、じゃあ勝手にしろ、その代わり俺様はバイクで帰る、お前たちは歩くなりタクシーなり好きにしな。」


芦屋は舌打ちをすると何処かに行ってしまった。



これが今回起きた事件の全てだ、

実際はこの後もなかなか大変だったらしい、

旧駅の荒らされ、そこに横たわる穏やかな顔をした初老男性の死体、

まあこれは俺達にしかわからない事だから仕方ない、

次に行方不明だった人達の発見、

発見というか自分で帰ってきたらしい女性たちは口を揃えて全身黒の着物と袴を着た髪の長い切れ目の男に捕らえられていたと証言しているらしい。

これによって町にはまた新たな七不思議が囁かれ始めている。

…あの後、芦屋が本当に俺達を置いて帰った事と、俺達より後に帰ってきた事にも驚いたが。




後日談はどうであれ、

これが俺が初めてはっきり妖と対峙したお話、

初めて芦屋と出会ったお話、

三人の人間と一体の九十九神による嘘のようなお話


これがこれから始まる怪奇譚のプロローグ…





第壱幕 出会いとマネキン 終幕


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