2.目撃者は猫? (問題編、2)
「あの、私にそんな、期待されても……」
私はそういったけど、美海はますますヒートアップした。
「由紀にゃんなら出来るの! やるの!」
「ああ、これは確かに卑劣だな。一時的になら、樋井と手を組もうか」
「うちも手伝う」
三人にそう言われて、私は仕方なくうなずいた。3対1だ。最近社会で習った『民主主義』ってやつだ。
「出来る範囲で努力さしていただきます……って、もしかして、本堂さんと美海って、知り合いですか?」
「えっ? なんでわかったの?」
美海が驚いた顔をしているが、別に大したことじゃない。
「だってふつう、知らない人に『美百合』なんて呼び方はしませんよ」
「あっ、そっかぁ。実はポートの後輩なんだ。お姉ちゃんって呼んでくれるの」
ポート。ポートボールか。
ここの地域は、子ども会のポートボールクラブ、野球クラブ、サッカークラブがある。
ポートボールは女子限定、野球、サッカークラブは男子限定だ。
ちなみに、ポートボールは簡単に言うと、ゴールが人のバスケ。背が低い美海は、ちょっと不利らしい。
「おや、君たちは六年生かい?」
「! 教頭先生じゃないですか。いつからそこにいられたのですか?」
私は、後ろから急に声をかけられてビックリしてしまった。
「ん? だいぶ前からいるけどな、どうかしたか?」
「いえ、そこで女の子が倒れていて……」
「なんだって!」
教頭先生はつかつかと歩き、現場まで歩いて行った。
「ああ、うちの学校の生徒がこんなことに……」
本堂さんの姿を見て、教頭先生は嘆いた。
「大丈夫です! うちの由紀にゃんにかかれば、あっという間に犯人を見つけてとっちめてやりますから!」
美海は大きな声でそう言う。
「そ、そうか! それなら、私たちもできる限りの協力はするぞ! ああ、それにしても……」
……恥ずかしいです。
嘆いている教頭先生を置いて、私は『仕方なく』調査を開始する。
とりあえず説明なんだけど、私たちの通う南命寺小学校は、生徒数は千人を超えるマンモス校。
校舎は一つじゃ足りず、三つの校舎が川の字みたいになっている。
一つ目の校舎、通称西校舎は、二、四、六年生と職員室のある校舎。
最近工事したばかりですごくきれい。何とエレベーター付き! ……使用禁止だけど。
その西側には、広い広い運動場がある。
二つ目の校舎、通称中校舎は、音楽室や家庭科室、図書室や理科室などの特別な教室が入っている。
中校舎と西校舎の間には、芝生の生えた中庭がある。
三つ目の校舎、通称南校舎(なぜ東なのに南校舎と言うのかは不明)は、一、三、五年生の校舎だ。
なぜか、四階は絶対立ち入り禁止になっていて、悪ガキたちも入ろうとしない。南命寺小七不思議のうちの一つだったと思う。
で、この学校の給食室は、南校舎の西に建っている。
当然だが長方形で、短い辺が入口、反対の短い辺が出口。そこから校舎に入るのだ。
で、入り口から見て長い辺にその掃除用具入れはあって、六年生の掃除担当場所。
ちなみに、先生があまり見に来ないので、サボれるそうじ場所として人気だ。
「あれ?」
くり返すが『仕方なく』調査をしていた私は、私はおかしなことに気が付いた。
普段は掃除用具入れの中にある箒や塵取りが、現場から少し離れたところに固められている。
「あのぉ、あんなとこに箒とかがあるんですけど」
「本当だ。ってことは……」
青木君が掃除用具入れの扉を開けると、そこには何も入っていなかった。
そのとき、ゆっくりと本堂美百合さんが起き上がる。
「えっと……?」
「あ、気が付きましたか、本堂さん」
本堂さんはハッと目を見開くと、
「あたし、何も知りません! 本当に知らないんです!」
と、背中を押さえながら、南校舎に向かって走っていく。
「ちょっと失礼」
しかしクラス一の俊足、瑠璃の脚力にミニスカの四年生が勝てるわけもなく、本堂さんはあっという間に瑠璃に捕まえられていた。
あの音を聞いたのかいつの間にか、私たちの周りにはたくさんの先生(校長、教頭、おりちゃん、四年二組の担任、教務などなど。)がいる。
「美百合ちゃん! 大丈夫なの!?」
四年二組の担任の先生が本堂さんを抱きしめる。
「大丈夫です! 大丈夫だから!」
……本堂さん、挙動不審すぎますよ。
「う、うわあぁぁぁああぁぁ!」
そのとき、校長が悲鳴を上げた。何事かと思えば、校長の前に五、六匹の猫がちょこんと座っている。
「ね、猫よ! 野良猫! 誰か捕まえてぇ!」
四年二組の担任も、叫び走り回る。
「なんで猫がダメなの?」
美海が不思議そうに、小首をかしげて聞いた。
「ああ、ひっかいたりはするけど特に問題なさそうだもんな」
青木君も困った顔をする。
「知らないんですか? この市は学校や公園などの場所に、絶対野良猫が入らないようにしてるんです。確か……キャッチコピーは、『つくろう、野良犬、野良猫ゼロの街』。学校で野良猫が見つかると、イメージダウンになるらしいですよ」
私がそういうと、瑠璃も口を開いた。
「前、近くの学校で野良猫が入った。その学校、猫アレルギーの子がいた。その子、野良猫触った。病院に行った。ちょっとテレビのニュースでもやってた」
……瑠璃、あのねぇ、もうちょっと接続詞使いましょうよ。
まあ、その話は結構有名だ。朝礼で校長先生も言っていた。
「へぇー、瑠璃、よく知ってるね!」
美海は瑠璃に言う。
「別に。その猫アレルギーの子と知り合いなだけ」
瑠璃の態度は相変わらずだ。
「それで猫に対してあんな状態、か」
青木君が腕を組んで言った。
「可哀そうだねー」
美海も深刻そうな顔で言う。
猫はあっという間に捕まえられて、ゲージに入れられた。
「ふーん」
「で、何かわかったことある?」
美海にそう言われて、私はため息をついた。
「ちょっと、ね」
問題編、あと一話続きそうです。
いつか一つにまとめるかもしれません。